23話 深二層
「ここは複数の翼を持つ天使達がいる二層です。
つまり、一度は翼を奪っている攻撃的な気性を持っている天使達のみが集まる場所。
いずれ近いうちに戦う時が必ずやってきます。
気持ちだけは今のうちに作っておいて下さい」
全員の士気を上げようと発破をかけたミカエラに返事を返したのは、他の誰でもない新たな天使だった。
「いいアドバイスだ。そうでなきゃここに来る資格はない」
「…!!」
全員の感知を掻い潜って岩場の上から覗く影が一人、複数の翼を生やして見下ろしている。
「オオオ!」
即座に黒龍の剣に込められた魔力は、瞬間的に光線となって斬撃が声の主に直撃。
小さく爆炎が天使を包み隠したが、軽く咳き込みながら翼を使って煙を払う。
(全く効いている様子がないな)
レルゲン達は敵襲に向けて既に武装を解放していたが、最初に突っ込んだのはアラエルだった。
「有翼!」
即座に距離を詰めてショートソードを振りかぶり、有翼の天使の首元に真っ直ぐ伸びていく。
しかし、首元に迫る剣を確認してから有翼の天使は、落ち着いて自らの翼に手を伸ばして引き抜いた。
魔力を込めた翼の形状が一本の片手直剣のように変化し、アラエルの一撃を余裕を持って防いぐ。
「自分の翼を使って剣にした?いや違うな、それは正真正銘の剣か」
「そうだ、他の誰かから奪って、あたかも自分の物の様に扱っているお前とは違う」
「ん?この階層には複数の翼を持つ者だけがいるじゃないのか?
今の口ぶりから察するにお前はただの有翼か、はたまた翼を擬態した無翼か。だがこの際どうでもいい。
俺は珍しい奴と戦えるってわけだ!」
ギリ、ギリと少しずつアラエルの剣を力のみで押し返す。
有翼の天使の首元に持って行ったショートソードは、いつの間にかアラエルの顔まで押し返され、力の勝負では分が悪い。
マリーが念動魔術による飛翔で押し込まれそうなアラエルを助ける様に、神剣を押し当てて割り込んで拮抗させる。
「出過ぎよアラエル!気持ちはわかるけど少し下がって!」
「いや、このまま押し込む!力を貸してくれ!」
マリーは一瞬アラエルを見たが、すぐに口角を上げて
「もう、勝手な天使ね!」
悪態をつきながらも押し返していく。
「やぁぁぁぁぁぁ!!」
「オォォォオオ!」
激しく火花が散りながら押し返された有翼の天使は、鍔迫り合いを一度止めて距離を取る。
「いいね。君達の攻撃は合わせれば私に届く。
それに最初の遠距離攻撃_咄嗟の判断であれだけの威力を出せるのであれば、集中すればもっと高い威力が出せるだろう。
軽い気持ちでちょっかいかけて正解だったわ。
この中の誰かは本物の翼を持っているはず。その翼を貰うまでは、私の相手をしてもらおうか?」
「簡単に渡すわけないだろ!翼のことしか頭にないクソ野郎が。一体何人の天使を手にかけやがった」
「やれやれ、本当に無翼の天使みたいなことを言うじゃないか。
そんな事を知って一体どうするつもりだ?
私の翼を奪って無翼の天使にでも分け与えるのか?
だが結局、元に戻したところで一度奪われた天使はまた奪われる。
弱さは罪だ。そんな天使などさっさと堕天してしまう方がいいと俺は思うがね」
「それはお前が決めることではない」
「そうだ。セルフィラ様がお決めになることだ」
レルゲンが思わず口を挟んだが、すぐに天界を支配しているであろう名前が出てくる。
黙って聞いていたメアリーは我慢ならなくなり、重力魔術を発動して叩き落とそうと魔力を込めた。
「グラビティ・ストンプ」
有翼の天使のみにかけられた重力魔術の圧力で、有翼の天使の高度が少しずつ落ちていく。
翼に魔力を通して抵抗するが、それでも落下現象を止めることができない。
「この…!」
地上に落とされた有翼の天使は、空中にまだ浮かんでいるマリーに向かって吼えた。
「見下ろしているんじゃあないぞ!女ァ!」
マリーは表情を変えずに地上へ下り、黙って同じ目線の高さに合わせた。
しかし、この行為が更に神経を逆撫でする。
「舐めやがって、このギリエルに向けた不敬_絶対に許さん」
標的がマリーに向かっていると感じた面々が、ギリエルとマリーの間に割って入り進路を塞いだ。