20話 同じ方向を向いた同士
「みんな、俺の軽はずみな行動ですまない」
頭を下げて全員に謝罪をするが、思いの外メンバーは前向きだった。
「レルゲンは少しでもあの天使達を思って技術を教えただけでしょ?謝る必要なんて全くないわ。ね?セレス姉様」
「マリーの言う通りです。今回は有翼の天使が予想よりも強かった結果に過ぎません。
レルゲンがそれを気に病む必要はないでしょう」
二人の言葉を受けてもすぐには次の行動案が浮かばなかったレルゲンは、ミカエラに拠点として活動が可能な所がないか尋ねた。
「そうですね。ここは言わば天界の始まりの階層とも呼べる構造をしています。
思い切って次の階層に進んでみるのは如何でしょうか?」
「天界はダンジョンのように階層分けされているのか。しかし、セリエルは天界に階層があるとは言っていなかったが、これは何故だろうか?」
レルゲンが疑問を口にすると、ミカエラが詳しく天界の階層について口を開いた。
「この階層は言わば無翼と有翼の天使がかなり入り乱れている階層で、同じ有翼の天使でも複数枚の翼を持つ天使は稀。
では複数枚の翼を手に入れた天使はどこへ行くのか。それが私達が今度行こうとしている階層です。
隠蔽魔術を使う時は二枚以上の翼を持つ天使になる事を勧めます。
あの穏健派のリーダーが下の階層を知らなくても無理はありません。
出来たのは古い天界の歴史の中でもかなり新しいので、天使の長い一生の中でも、別の階層に行く方が珍しいでしょう」
ミカエラが説明を終えると、一人の少年がレルゲンの作成したショートソードを片手に持ってやってくる。
「あんた達。どこへ行くつもりだ?」
「アラエル、世話になったよ。別れの挨拶も出来ずに発つことになりすまない。
実は俺達は次の階層に進もうと思っている」
「次の階層ォ?馬鹿が、そんなことしても無駄に命を落とすだけだ。お前達は死にたいのか?」
呆れたような声色でアラエルがレルゲンを馬鹿にしつつ尋ねてくるが、レルゲンはセレスティアを見つめて頷く。
すると隠蔽魔術が解除され、本来のレルゲン達の姿が顕になる。
「お前達…!その姿は!?
なるほど、いやぁなるほどね。通りでその武器を持っている訳だ。
それに完璧に隠蔽魔術を使える魔術師もいる。
このしみったれた天界に何しにきた?人間達」
「その天界を元に戻しに。いや、もっと単純だな。
俺達は天界から降って来た光の柱を二度と使わせないように次元の狭間からやってきた。
だが、お前達無翼の天使が虐げられ続けているのを黙って見ていられるようなメンバーもここにはいないのも事実だ。
ついでに天界自体も救うために俺達は戦いに来た」
「へぇ…勇者と魔王が人間と手を組んで天界に特攻しに来た訳だ!
いいじゃねぇかその無謀な挑戦。
それで、その翼が六枚もある天使は何者だ?」
「大天使ミカエラ様だ。この前有翼の天使を倒した時に召子とメアリー、クラリスが捕えられていたのを助けてきた。味方だ」
「どうだかねぇ、ミカエラ様は天界に住んでいれば誰でも知っている大天使だけどよ、そのミカエラ様が捕まったってことは力で屈服させられるのは想像できねぇ。
なら何が敵に屈したのか?
心だろ。
アンタは心を屈服させられた。そんなお方がメンバーにいるようじゃ、お前達は更に寿命を縮めるんじゃないか?」
黙って聞いていたメアリーは我慢ならないと一歩踏み出してアラエルを睨みつけたが、レルゲンは手で制して反論する。
「だが、その排他的な考えが今のお前達無翼の天使がここまで苦しんでいる原因の一つだと俺は思ってる。
俺達は同じ方向を向いて何とかしようと前を向いているじゃないのか?
どうしてこんなにも協力し合えないんだ」
「それはお前達が人間で、俺は天使だからだ。
違いすぎるんだよ俺達は」
「それでもミカエラ様は俺達と一緒に来るぞ。自分のプライドより願いを優先出来るからだ」
お前は出来ないのか?とレルゲンが口には出さないが表情で訴えかけると、アラエルは頭をガリガリと強く掻きながら大きな溜息をついた。
「あぁ、くそ。正直に言えば元々俺もお前達についていくつもりだったんだよ。だからこうしてわざわざここまで来た。
だけどまさか人間が頭張っているとは予想外だった。そんで予定が狂った。
今のが俺の本音なのも事実だけどよ、今の天界に苦しめられてる無翼の天使達を何とかしたいって根っこの部分は同じなんだ_レルゲンの言う通り。
だから俺を連れて行ってくれ。
戦闘だけなら力になれるはずだ」
「その言葉を待ってたよ。よろしく、アラエル」
「ああ、よろしく」
力強く交わされた手の上にウルカが音もなく乗ると、小さな悲鳴がアラエルの口から飛び出るのだった。