19話 影響力
ミカエラが新しくパーティに加わり、一通り話を聞き終えたレルゲン達は、セルフィラの情報を再確認していた。
男、丁寧な口調、百枚以上の翼、魔術に秀でる、弱点看破を可能にする観察眼と頭脳の持ち主、理想主義者。
ミカエラを支配していた大元の天使は、話を聞いて大体の人物像が掴めてきた。
紙に書いた敵の情報を見て、レルゲン達が一番に警戒したのは、奪い取った翼の多さ。
純粋に翼が百枚以上もあれば、動きづらくこちら側の機動力に利があると考えたマリーは、撹乱作戦を提案した。
「そんなに翼が多いなら、十枚ですら重そうにしていた天使がいたくらいだし、中々動き辛いんじゃないの?
全員で囲んで叩けば倒せそうだけど」
しかし、これにミカエラは首を振って否定する。
「気持ちは分かりますが、それはないでしょう。
あの時に倒した有翼の天使は、元々翼を複数持っていない、言ってしまえば慣れない強力な武器をただ振り回していただけに過ぎません。
ですが、生まれた時から複数の翼を持っている天使は完全に別物です。
私が前に見た時のセルフィラは自在に翼の数を調整したり、合成して一枚の翼として扱っていました。
例え百枚の翼を持っていたとしても、その分鈍重な動きになるとは考えない方がよろしいかと思います」
マリーの予想は空振りに終わったが、セレスティアが一つの可能性を示唆する。
「ミカエラ様。今のお話の中で一つ思いついたのですが、セルフィラという天使は翼の量を調整できるというならば…」
「可能性として無くはないでしょうが、何のためにそうするのかは私にも分かりません」
一旦話はここまでにして、新しく無翼の天使として擬態してもらったミカエラをセリエル達に紹介する。
するとどこからか既に情報が漏れていたのか、有翼の天使の翼を打ち倒したと皆が既に高い熱量で宴を開こうとしていた。
「今日はめでたい!遂に俺達の中から有翼の天使を倒した者が現れたぞーー!!』
「おー!」
「遂に叛逆の時が来たんだ!」
と一人の無翼の天使が盛り上げているのを見ながら、まわりの無翼の天使達が集まって盛り上がっている。
レルゲン達が邪魔をしないように端にある机と椅子に腰を落ち着けていると、二人の天使が歩いて向かってくる。セリエルとアラエルだ。
お互い横に静かに座ると、小声でセリエルがレルゲンに確認を取る。
「私は君達の中の一人が有翼の天使を倒したと考えているが、合っているだろうか?」
「そうだが、この騒ぎは貴方が広めたのか?」
「違う違う。これは私達無翼側では無く、有翼の天使が騒いでいるのを聞きつけたんだよ。
だから私の勝手な予想で君達に聞いてみたと言うわけさ。
私達穏健派はね、表では平和や平穏な日々を願ってはいるが、翼を奪われた者達でやはり思うところはある。
だから気分を問われればそれは多少なりともスッキリしていると言うことさ」
「だから、俺達武闘派もお前達に負けていられない。今こそ反転構成の時だってみんなやる気になっているって訳さ。
アンタの作った武器の製造法なら奴らの翼を斬れる。奴らはこれで追い詰めたつもりが、追い詰められているから今焦っている。
急に堕天の可能性が出てきたんだからな」
悪い笑いを溢しながらアラエルがレルゲンの作ったショートソードを手に持ち、軽く回しながら鞘に納める。
「その武器でこれから戦うのか?」
「おう、こっちの方がよく斬れるからな。形状は見ての通り自分の物にしたぜ」
レルゲンがアラエルの持つショートソードを鍛えてから、まだ半日と少しの時間しか経過していないのにも関わらず、既に使い慣れるまで感覚を合わせる辺り流石は武闘派と名乗るだけはある。
まだ子供ではあるが、戦闘センスは無翼の天使の中でも上位に位置するはずだ。
だが、この勢いに対して待ったをかけるのが穏健派。
皆の考えが武闘派に寄っている中で、穏健派の主要天使が、まとめ役のセリエルに武闘派の動きを鎮静化させて欲しいと頼む。
しかし、セリエルの影響力を以てしても中々武闘派の勢いは収まらず、遂には有翼の天使を更に襲う無翼の天使が現れる程に拡大してしまった。
手にはレルゲンが教えたレシピを基に作成された剣。
だが、有翼の天使も狙いが翼だと分かっているためか中々翼を斬られるとまでは行かず、
逆に戦いに敗れてしまった無翼の天使が地上に堕ちてしまう数が増えてしまう結果となり、
一時期の勢いからまた元に戻る程にまで自然鎮圧することになる。
そこで穏健派が今回の騒動の元凶と呼ぶべきレルゲンを断罪しようと働きかけ
レルゲンとその一向は無翼の天使達が集まる拠点から逃げるようにその場を後にする結果となった。