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【7万pv感謝】念動魔術の魔剣使い -王女を助けたと思ったら、自国を滅ぼした敵国の姫でした。それでも俺は護りたい-【第五部】  作者: 雪白ましろ
第一部 絆の糸編

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第二章 9話 マリーの戦力上昇訓練 改稿版

次の日、早速マリーの強化訓練が開始される。

いきなり実演に入る前にざっくり訓練の内容を説明する。


マリーの持っている剣は王国の宝剣と呼ばれる代物の一つで、

魔剣に分類されている。

この魔剣の効力は簡単に言うと使い手の速度上昇と魔力強化だ。


一見地味な効果だと思いがちだが、マリーの場合は別だ。


マリーには「連続剣の加護」がある。

連続剣の加護と速度上昇の効果は相性がいい。


加えてマリーの膂力の高さも相まって、

連続剣の加護が発動し続けると、

理論上はどんな攻撃よりも速く、そして強く繰り出せるようになる。


「マリーは連続剣の加護を持っているよな」


「ええ」


「でも試合で戦っていた時は発動が切れた。なぜだと思う?」


「あの時は正直に言うと押し返された時に負けを覚悟したわ」


「そうだな、マリーの心が先に折れていた。俺も正直に言うが、

あの戦いは実際賭けだった。

あのままマリーの加護が発動し続けたら俺は負けていたかもしれない」


「そうなの?」


レルゲンが力強く頷く。加えて更に伸び代がある事を伝える。


「それにマリー、あの時は剣に魔力を大して付与していなかっただろう?」


「そうね、剣術だけに頼っていたわ」


「その魔剣は魔力強化もされると聞いた。

折角魔術適正がAなんだ。もっと剣に魔力を込めて戦えるんじゃないのか?」


「無理よ」


ん?と首を傾げるレルゲン。

ここで躓くとは思っていなかったようだ。


「私、魔術適正は高いけど、魔力量はそこまで多くないのよ。

だからあの時だって、剣に魔力自体は流していたわ」


「なるほどな」


ここまで聞ければ十分と言いたげに、

レルゲンがマリーの強化方法を告げる。


「よし、マリーの修行は魔力の効率的な運用じゃなくて、

魔力の絶対量の上昇だな」


「簡単に言うけど、どうやるの?」


「簡単さ、マリーには何回もマインドダウン状態になってもらう」


マリーの顔が青ざめる。マインドダウンは本来避けるべき症状だが、恩恵もある。

それはマインドダウン状態になって

体内の残存魔力がゼロになった時に発生する“器の破壊”だ。

身体が怪我をした時により強い組織へと修復するのと同じで、

一度魔力がゼロになると、より多くの魔力を蓄えられるようになる。


幸いこの土地には地脈も通っている。

器の修復自体は直ぐにできるだろう。

後はマリーがマインドダウンの症状に耐えられるか次第だ。


「どうする?やめとくか?他にも色々とあるが、最短の道はこの方法だ」


「やって……やってやろうじゃない!」


「よし!その言葉を待っていた!それじゃ早速始めよう。

魔力を全開で解放するんだ」


マリーが意識を集中し、

目を開くと体外に魔力が一気に放出される。


マリーの魔力量は確かに少ない。

その少ない魔力量でどうにかしようとする考えもわかる。


だが、力を抑える悪い癖が出来てしまう。

それではいざ全開で戦う時が来た時に全力を出しきれない。

日頃からある程度力を解放する事は大事なことだ

ということをマリーにわかってもらいたかった。


およそ三十分に満たない辺りで、

マリーがマインドダウン状態になり、地面に倒れ込む。


「もう、無理だわ。立てない」


破壊された魔力の器は地脈のおかげもあってか

急速に回復しようとしている。


そしてここでレルゲンの魔力糸がマリーに繋がれ、

純粋な魔力をレルゲンからマリーへ流し込む。


器が破壊されている状態のため、殆ど体内に吸収される事はないが、

魔力の回復速度は飛躍的に上昇する。


(昔、魔法の使い過ぎでマインドダウンになった時に、

よくナイト先生がこうして魔力を送ってくれていたな)


昔を思い出しながら、尚も魔力を送り続ける。

一時間経つ頃合いにはマリーの器は完全に修復され、

マインドダウン状態からも脱却。


「二回目行くぞ」


「もう?!」


悲鳴混じりの突っ込みが入るが、

素養が高い分、回復速度もまた早い。


「魔力は戻っているぞ、頑張れ」


「私は強くなる、強くなってやるわ」


「その意気だ」


再びの魔力解放。


二回目は一回目よりも早く魔力が尽きる。

これに不満を感じたのか、文句をマリーが溢す。


「最初よりずっと早く魔力が尽きたんだけど?これ合っているの??」


「合っているぞ、最初より消費する魔力量が増えて、

治った器の上昇量を上回っただけだ。

実感するのは二、三日後ってとこだな」


「そうなのね…はぁ、三十分がこんなに長く感じるのは久しぶりだわ」


「ほら、魔力送っとくぞ」


「ありがとう。あなた適正は私より下なのに、

魔力量はほんととんでもないわね」


「それが取り柄だからな」


昼の時間までに四回程繰り返された

マインドダウン状態にマリーは耐え切った。


これにはレルゲンも少し驚く。


「まさか四回も耐えると思わなかったよ。

本当によく頑張った。

今日はこれくらいにしておいて、後はセレス様が来るまで休んでくれ」


「そうするわ」


もう無理と言わんばかりの所作を見るに、

本当に根性出して頑張ったのだろう。


タオルと水を渡してレルゲンも地面に座る。

芝の香りが包み、何だか眠くなってくる。

横になっているマリーは疲れ果てて寝てしまったようだ。


セレスティアが歩いてくる。

何冊か魔術書を持っているので、念動魔術で受け取る。


「ありがとうレルゲン。あら?」


「すまないセレス様。

マリーが予想以上に頑張って、疲れて寝てしまった」


「良いのですよ。では、マリーが起きるまで、

付き合ってくれますか?」


「仰せのままに」


午後は魔族の尋問に行くつもりでいたが、

セレスティアの誘いとあっては断れなかった。


中級魔術の一部しか使えないレルゲンにとって、

セレスティアの講義は半分くらい理解出来ないものだった……


「レルゲンは実技が素晴らしいのですがね。

やはり感覚派なのでしょうか」


「それ、前の先生にも言われた事がありますよ。

恐らくその通りで、感覚的に使っている事が多いですね。

ですので、マリーには自分の教えられない

高位魔術についてお願いしたいです」


「レルゲンにも出来ない事があるのですね。

少し安心しました。何でもできる完璧な印象がありましたので」


「買い被りですよ。

俺にだって出来ない事は沢山あります。戦闘以外は特に」


「ならそちらも手取り足取り教えて差し上げましょうか?」


「遠慮させて下さい……」


お互いに笑いあう。

もし自分に姉がいたらこんな感じなのだろうかと

レルゲンは考えるのだった。


やはりと言うべきか、

二日目にしてマリーの最大魔力量が増えてきた。


一度目は昨日より、二度目はそれもよりも

更に長い時間魔力解放ができるようになっている。

マリーもそれを実感できたのか、

最大魔力量が増えてから一度に放出する魔力も回数をこなす度に増えていく。


魔力問題が解決出来れば後は実戦による自信だ。

明日にはレルゲンとの立ち合いを始めても良い頃合いだろう。


四度のマインドダウンが終わってから、

昨日は疲れ果てて寝てしまっていたが、

今日は顔色こそ悪いものの、何とか気を失わずに済んでいる。


辛いのは今日までだろう。

セレスティアの授業も問題なく受けられるはずだ。


マリーと別れセレスティアに後をお願いするよう頼み、

レルゲンは魔族が捕らえている牢屋に向かう。


(まだ生かされていたか)


牢屋に繋がれた男性型の魔族には、

装着者の魔力を拡散させる魔具が付けられている。


これによりこの魔族が大人しくなっているというわけだ。


指揮官の魔族はレルゲンが魔石ごと切り刻んだが、

この魔族で少し試したい事があった。


黒龍の剣で魔族の核である魔石付近を切断し、

魔石が露わになったところで念動魔術を使い魔石の位置を強引にずらす。


出てきた魔石を今度は削るように一部切り取り、経過を見る。

すると切られた部分の魔石が元に戻ろうと修復を始め、

数分の後に元の大きさへと戻った。


魔石の修復が終わると、今度は切られた身体の組織が回復を始める。

魔石を削った直後に魔族は意識を飛ばしたが、

身体の修復が終わったと同時に意識が戻る。


削り取った魔石は、そこから第二の魔族が誕生するわけでもなく、

高純度の魔石として成立している。


身体の組織を再生させるのは魔石の能力ではなく、

魔族の身体の特性で、

魔石はその再生能力の強化に当てられているようだった。


何やら許しを乞うことを言っていたが、

“今までの”事を考えるとレルゲンの耳には全く届かない。


いくつか質問を投げかけたが、

会話がほぼ成立せずストレスが溜まっていく一方だ。


(これだけ魔族の事が知れれば十分か)


牢屋を後にし、研究所にいるカノンの下へ向かう。


植物園に到着し、草花の香りが鼻を抜ける。

先程の溜まった魔族とのやり取りのストレスが薄れていき、

カノンが迎え入れてくれた。


魔族とのやり取りをカノンに説明し、

魔石の鑑定を頼むと快く引き受けてくれた。


「それにしてもレルゲン君、結構恐ろしい事を平気でやってくるね」


「ええ、魔族には個人的な感情もあるので、あまり気になりません」


「ふむ、私怨か。

まあ私は研究が捗るから気にしないけどねー。

君がやってくれないと魔族の魔石の抽出なんてまず出来ないだろう。

魔石自体が増幅器と仮定すると、対策も幾つか用意出来そうだしね」


「すみませんがよろしくお願いします」


「うむ、任せたまえよ。研究ばかりで継承権が下がるくらいさ、

信頼してくれたまえ」


「それ、自分に言ってもいいんですか?」


「いいのいいの。継承権争いなんてしたくないし、

私は私の好きな事で生きていくのさ。時にレルゲン君」


「はい」


「私の研究助手になってみる気はないかい?

今なら王立図書館の閲覧権もねじ込んであげよう」


「ぜひ助手として頑張らせて頂きます」


「よろしい!」


お互いに親指を立て合い意気投合する。


あらゆる歴史書が詰まっている王立図書館。

一般公開はされておらず、利用も一部の貴族のみに許されている。


利用者が少ないにも関わらず運用されているのは、

危険図書が何冊もあるからだとマリーから聞いた事がある。


加えて、王立図書館は研究所からも距離が近い。

カノンとの話し合いが終わった足で王立図書館に向かうことも出来る。


(ついてるな)


何かしら理由をつけて王立図書館の閲覧権を貰う予定だったが、

簡単に付与できるあたり流石は王族。


「一応お母様に話は通すけど、

君の功績を考えれば駄目とは言われないと思うよ」


「ありがとうございます」


「またここにも来るだろうし、

お母様から許可されたら書簡、もとい王立図書館の通行書を渡すね」


「承知しました」


カノンが少し困った顔をする。


「後、今更だけど私堅苦しい会話苦手だからさ、

あんまり畏まらないで普段の話し方でいいよ」


「わかり…わかった。

でも流石に周りの目がある時は畏まらせてもらうよ」


「それでいいよ、じゃあ私は君から貰った魔石の分析をするから、

また結果が出るまではマリーの面倒見てあげて」


「そうするよ、分析頼んだ」


「任せたまえ!」


修行三日目、マリーは自身の愛刀、

レルゲンは鉄の剣を使い立ち合いを行う。


黒龍の剣でも問題はないが、魔剣同士の立ち合いとなると、

お互いの攻撃力が高すぎて実戦前に剣が

下手れてしまう可能性があり避ける選択をする。


最初は三十分ほどしか魔力解放が続かなかったマリーだが、

今では一時間もの間魔力が続く様になっていた。


一時間ほど魔力解放が出来れば、

実際に戦うときにもガス欠は中々起こらない。


それも魔力の運用次第ではあるが、

全開の連続剣をこれから受けるレルゲンも心の準備が必要と感じる。


「なんでレルゲンが深呼吸しているのよ」


「そりゃそうさ、魔術なしの純粋な剣での勝負なんだ。

マリーにうっかり殺されない様に準備が必要だよ」


「人のこと狂戦士か何かだと思ってる?」


「いやいや、戦ってみれば分かるさ、戦闘の楽しさが」


審判には暇そうに昼寝をしていたハクロウに頼み、

愛弟子がどんな風に成長したか確認してもらういい機会だ。


「では、これから模擬戦を始める。

お互い再起不能にならないように。始め」


最初に動いたのはレルゲン。

魔力を最初から込めてマリーに連続で打ち込む。

防戦一方のマリーだが、魔力は剣に込められ続け、

自慢の膂力でレルゲンの打ち込みを防いでいく。


しばらく打ち込みをしたが、

以前のマリーならここで諦めていただろう。


連続剣の加護は所持者の闘志がなくなると発動しない、

ここがマリーの踏ん張りどころだ。


「やぁぁぁあああ!!!」


レルゲンの剣を思いきり打ち上げ、体制を崩させる。


(好機!)


マリーが踏み込んだ瞬間、

打ち上げられたレルゲンが逆袈裟の要領で下段からの切り上げをやってくる。


上段から振り下ろされたマリーの剣と、

下段から繰り出されるレルゲンの剣が衝突し、

大きな衝撃音が響く。


ここで上段と中段のコンビネーション攻撃で

レルゲンを押していくマリー。連続剣の加護が発動する。


一度発動してしまえば彼女の剣速はどんどん加速する。


ここでレルゲンも対抗するように

剣に魔力を乗せる量を上げ、何とかついていく。


防御のみではマリーの修行にならないので、

攻撃する素振りのみで実際には剣と剣が当たる直前に引き、


衝撃に備えていたマリーが前に引っ張られるが、

これを強引に立て直し、レルゲンの動きに対応する。


(これはハクロウ先生がよくやっていた手ね)


マリーも負けじと攻撃の方法を転換する。


今までは直線的にただレルゲンに切り掛かっていただけだったが、

連続剣の加護の効力を実感し始めてから

左右に移動する足捌きを増やして、緩急をつけて切り掛かる。


次第に足捌きで移動する幅が増え、前後の動きまで加える徹底ぶり。


(おお!)


審判役のハクロウが思わずマリーの速度に感嘆する。


マリーが攻守の入れ替えを完全に支配していた。

レルゲンは相手に合わせて攻撃するのみで、手数は圧倒的に減少する。


(ハマるとこうもやりづらいのか!)


「参った」


「勝ったわ!レルゲンに勝ったー!」


レルゲンが完全にマリーの速度についていけなくなり、

マリーは見事闘技大会での負け癖を克服し、一流の魔剣士となった。


(これで私もレルゲンと一緒に戦える!)


戦闘中に心の持ち用で戦況が左右されるのは珍しくない。


この時マリーが得た“自信”は、

これからの長い人生で永遠に錆びないものとなるだろう。


芝生に二人とも座り込み、

レルゲンが息を切らしながらマリーに告げる。


「マリー、卒業だ」


「ありがとう。これでもう貴方に護られるだけのお姫様じゃないわ」


「だな」


審判役のハクロウがレルゲンに歩み寄り、

マリーの超短期間の修行の方法を尋ねてくる。


「おいボウズ、嬢ちゃんに一体何を教えたんだ?」


「秘密。まぁ魔術適正が高くないと出来ない方法だよ」


「なら俺には無理だな」


「無理だな」


「キッパリ言ってくれて助かるぜ、全く」


マリーがハクロウと楽しそうに会話をしているレルゲンに割って入る。


「明日からはどうするの?」


「俺の修行分はセレス様に教えて貰ってくれ、

都合がつかない時は一人でまた地道な魔力量の底上げだな」


「分かったわ。貴方はどうするの?」


「折角図書館に入れるようになった事だし、魔族の研究かな」


「おいボウズ!俺ですら権限持ってねぇってのに!」


「このくだり、さっきやったぞ。

今日は俺もセレス様の授業受けようかなぁ」


「俺はパスだわ」


「「知ってる」わ」


「息ぴったりじゃねぇか」

良かったらブクマや評価をお願いします。

皆さんでこの作品を盛り上げて下さい!

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