9話 唯一神ディオス
「私の名前はディオス。もしかしたら名前くらいなら聞いたことがあるんじゃないかな?」
「ディオスって、あのディオス神?それにその声…」
マリーがディオスを見つめると、嬉しそうに笑顔を見せた。
「声だけならマリー、君とはやり取りをしたことがあったね。隷属の加護の使い心地はどうかな?」
その一言で確信する。この男は神の名を語る不届き者ではなく、ディオス神本人なのだと。
「レルゲン、この人。いえ、この方は間違いなく唯一神のディオス様よ」
「貴方がディオス神…助けて頂き感謝する。あのままでは俺達は次元の狭間に取り残されていた」
「よろしくレルゲン君。会えて嬉しいよ、救世の立役者___」
「それで、そのディオス様は俺達を助けるためだけに次元の狭間に穴を開けて助けてくれたのか?」
「ちょっとレルゲン…!流石に失礼じゃ」
「いいんだマリー君。本当に人間と話すのは久しぶりだからね。
むしろ畏まり過ぎて話しづらいよりよっぽどいい。
それで助けた理由だったね。大きく分けて二つある。
一つはレルゲン君が言った通りあのまま次元の狭間に取り残されるのを防ぐため。
そしてもう一つが、"天界に住まう虐げられている天使"を救ってやって欲しいんだ」
「どういうことだ?」
「簡単に言うと、そこにいる魔王メアリーのように翼を奪われた天使達が堕天する手前で何とか天界に留まり、翼を奪った天使に復讐を計画している。
内乱のような構図になりつつあると言うことだね。因みに君達に光の柱を撃ち込んで焼き殺そうと企んだのも有翼の天使だ」
「つまり、俺達の敵は有翼の天使と言うわけだ。無翼の天使は友好的に接することが出来ると考えていいのか?」
「いや、これが少し複雑でね。どうやら無翼の天使達は堕天して悪魔に変質してしまった天使を見下している節がある。
魔王メアリーには悪いが接触する際は無翼の天使の一人として姿を変えることを勧めるよ」
ディオスが申し訳なさそうにメアリーを見つめるが、どこか不機嫌そうな表情を隠そうとはせず、顔を逸らした。
レルゲンがメアリーを気遣うように話しかける。
「メアリー。君がどうしたいかで俺達の行動は変わるが、君自身で決めてくれて構わない。
どちらの選択をしても必ず何とかしてみせる」
レルゲンの言葉を聞いてメアリーは軽く笑い、そして気持ちを切り替えた。
「君は狡いよ、レルゲン。そんな事を言われたら選択肢は一つしかないじゃないか。
わかった、確実な方を取ろう。
セレスティア、隠蔽と擬態の複合魔術は使える?」
「はい。一度天使の姿を見れば可能です」
ディオスが指をパチンと鳴らすと、出現した鏡に無翼の天使の姿が映し出される。
「資料になりそうかい?」
「はい。これだけ詳細に見られれば可能です」
試しに無翼の天使にメアリーを変えると、ディオスは大きく頷き、複合魔術が完璧に機能していることが分かった。
「君達は私の力で無翼の天使達が住んでいる場所へ転送する。
セレスティア君の魔術を使えば翼を奪われた天使として振る舞う事ができるだろう。
後は君達次第だけど、何度も修羅場を抜けて、成り行きとはいえ魔王と勇者が手を組んだんだ。期待して見ているよ」
ディオスが転送しようとした時に、召子がずっと疑問に思っていた事を口にする。
「あの!神様!」
「何だい?今世の勇者、召子君」
「元の世界にはどうしたら帰ることが出来るか知っていますか?」
「すまない。勇者システムは私ではなく、どちらかというと有翼の天使の方が情報を持っているだろう。
元々勇者は魔王メアリーを倒すために天使が構築したシステムなんだ。詳しい事を教えてあげられず申し訳ない」
「いえ、それだけ分かれば後は有翼の天使に問い詰めてみます。ありがとうございます」
深くお辞儀をした召子にディオスは優しく笑いかけ、最後の挨拶を済ませる。
「これから君達を転送する。準備はいいかい?
よし、ではまたいつか会える時を楽しみにしているよ。さらばだ。健闘を祈っている」
再び開いた光の扉に、レルゲン達はゆっくりと歩みを進めた。