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8話 次元の狭間

次元の狭間に近づくにつれ、レルゲン達を拒むかの様に強風が吹き荒れる。


しかし、空気の層を固定して簡易的な酸素カプセルになっている状態に加えて、レルゲンが矢避けの念動魔術で向かってくる風を散らしているおかげもあり、レルゲン以外のメンバーはその工夫に気づかない。


(そろそろ次元の狭間に入る。準備はいいか?)


念には念を入れ、レルゲンは魔力糸を全員に繋ぎ、念話で思念を飛ばして確認する。


全員から返事が聞こえてから更に速度を上げ、やがて次元の狭間の入り口を過ぎる。


しばらく直進するが、周りはまるで夜空でも広がっているのかと錯覚するように暗く、そして白い光が点々と光っていた。


「綺麗…」


マリーが周りを見渡しながら呟いたが、すぐに異変が起きる。


身体を保護していた空気の膜が自然と圧縮されていき、内部の空気圧が急激に高まる。


やがて耳鳴りが始まり、身体器官が異常を訴えてくる。


やはり次元の狭間はめちゃくちゃな気候状態の環境だと示してきた。


レルゲンが全員にかけている空気層を形成する膜が、外側から圧力をかけられて萎んできていると判断し、落ち着いて予定通り魔王メアリーに圧力の中和を頼む。


「メアリー。頼めるか?」


「お安いご用さ」


魔王メアリーが外圧がかかっている分と同じだけの圧を内側からかけ、やがて耳鳴りも治まっていく。


上下左右の間隔が無くなりそうな空間をひたすらに直進していくと、セレスティアがまず気づいた。


「レルゲン。次元の狭間の入り口が…!」


「閉じたか」


一度止まり、辺りを見回して変化が無いか確認するが、入り口が閉じただけで出口と思われる大きな光源はまだ健在だ。


だが、それも時間の問題。

タイミングで言えばまず天界から次元に穴を開けて、この次元の狭間を通り、レルゲン達のいる世界へ再度穴を開けている。


時系列で言えば逆の現象が起きていた。


「急ごう」


未だ現在も出口の光源は煌々と輝いてはいるが、まだかなりの距離があることを感覚的に掴んでいたレルゲンは速度を上げる。


しかし、ここで頼みの綱の出口すら明滅を始め、光源が弱くなっていく。


「不味いな…ウルカ!」


「任せて!」


「「第二段階、全魔力解放!」」


全員に魔力糸を伝って魔力が伝播していき、音速を軽く超えた速度で消えかかっている出口目掛けて飛んでいく。


しかし、どんなに音速以上の速度で飛んでも光源は近くならない。


(一体何キロあるんだ…!)


次第に焦りの表情を浮かべながら尚も飛んでいくが、最後の頼みだった出口の光源すら消えてしまった。


レルゲンは反射的に黒龍の剣を取り出し全魔力を込めて一筋の光線攻撃を放つが、青く輝く光線は流れ星のように儚く消えるのみで、新たな次元の狭間を開くことは叶わなかった。


「くそ…」


行き先の光は閉ざされ、帰りの出口も消滅する。


まるで誰かがレルゲン達を永遠に閉じ込めようと狙ったかの様に最悪のタイミングが重なり、文字通り八方を塞がれてしまった。


「下手に動き回らない方がいい。ここでどうするか考えよう」


あくまでレルゲンは冷静で、その場で止まりつつも今後どうするか周りに確認する。


「戻り先がどこを目指していいか分からないから、行き先はこのまま天界でいいと思う。


ただ、天界に通じている光は閉じられて、今となっては分からなくなった」


バタン!


全員が扉を勢い良く閉めた様な音に驚いて辺りを見るが、その音がなんの音なのか検討も付かず、不安のみが駆り立てられる。


バタン!バタン!


今度は二度。一度目と同様の音が二回続けて鳴り響く。


何かが起きている。致命的になる何か。

音の正体を探していると召子が偶然にも音の正体を目視した。


バタン!バタン!バタン!


辺りを光っていた星の様な小さな光源が、大きな音を立てて光を失っていると気づいた。


「レルゲンさん!この音!星の光が無くなった時に発生している様です!」


尚も音が響く回数がどんどんと増えていき、召子以外も気づけるだけの変化がそこら中で起き始めていた。


恐らくこの光っている星のような物は、他の次元との中継点。


全て閉じたらこの次元の狭間である空間自体が虚無へと還る。


何もしないより光に向かって一か八か突き進むが、寸前に音を立てて光が失われる。


繰り返すこと四度。レルゲン達は飛び回りながら小さな光の先を目指したが、全て閉じられてしまう。


既に入った時から光の扉は残り三割を切った辺りで、もう一度だけ止まる。


どの光に飛び込むか考えていると、後方から巨大な、だが確かに感じたことのある魔力が近づいてくる。金色に輝く身体からは圧倒的な存在感を放っていた。


「こんな時に魔物か!なんでこんな空間にまで」


焦るレルゲンをクラリスが軽く肩を叩いて落ち着かせる。


「落ち着いて下さい。あの魔物は鳳凰です。

天変地異のような我々では到底足を踏み入れない場所を好んで移動する。


謎多き魔物ですが、この魔物が出現したということはまだ猶予があるという事。


貴方なら大丈夫。魔王様を打ち倒した立役者なんですから、ちゃんとして下さい」


全員を天界に連れて行く責任感からか、完全にパニック寸前だったレルゲンが徐々に落ち着きを取り戻していく。


(鳳凰の輝く光で周りが見えやすくなっている。もっと五感を集中させろ)


すると、全員を繋いでいた魔力糸が微かに震えている事に術者であるレルゲンだけが気づいた。


これは、間違いなく声だ。


誰かがどこか遠くからレルゲン達に声を掛けている。


「…ーい…!こ……だ!はや………ちに…る…だ!」


ハッとなって声の方向に更に耳を集中すると男性のような声が間違いなく聞こえてくる。


「やっと気づいた!こっちだ!早く!

次元の狭間が完全に閉じる!ここも長くは保たない!

早く飛んでくるんだ!」


瞬間、レルゲンが全員を連れて全速力で声の方向へ飛んでいく。


「間に合え…!」


声がした光も明滅を始め、完全消滅まで残り数秒といったところ。


しかし、鳳凰がレルゲンよりも早く目指した光の先へ飛んでいき、吸い込まれるように消えた。


すると光の入り口が大きく広がり、全員が声のする光の先に転がり込むことに成功する。


レルゲンの額からは多くの汗が滲んでいたが、一先ずの安心からか、その場から少しだけ放心状態となっていた。


「よく飛んできた!もう安心だよ。

少し休憩してくれ。話は落ち着いてから」


優しく言葉をかけてきた男性は、フィルメルクの旅館で着ていたような、浴衣のような格好をしていた。


呼吸を整えてからレルゲンが尋ねる。


「ここはどこだ?それに貴方は何者だ?」


「そうだね。まずはそこからお話ししようか」


不思議な雰囲気を纏っている男性は、自らの素性に語り始める。

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