7話 出発
いざ次元の狭間に向かう日を迎え、各自装備を確認しながら別れの時が近づいていた。
「それでは皆様、お気をつけて。無事に帰ってくる事をお祈りしております」
女王が唯一神を象徴するペンダントに軽く口付けをして天に向かって祈る。
「それでは女王陛下、みんな。行って来ます。ハクロウ騎士団長」
「なんだ?副団長殿?」
「俺達が国を空けている間、ここの護りを頼んだ」
「おう、任せとけ。新しい腕も自分の思い通りに動かせる様になったからな。
安心して行って来な。頼んだぜ」
「ああ」
レルゲンとハクロウが軽く腕を組んで軽く挨拶を済ませていると、その横ではセレスティアとマリーが女王と抱き合って別れを惜しんでいる。
「二人ともどうかまた無事に帰って来て下さい」
「お母様心配しすぎよ?もうちゃんと私は強くなったから安心して待っていて」
「私も魔界にて強くなった自負があります。ご安心下さい」
自信が溢れている様にも感じられるが、カノンは何だか寂しそうに茶化す言葉を探していた。
「何だよ二人とも。随分と勇ましくなったじゃないの。
だけど姉妹の目は誤魔化せないよ?
二人とも魔界に行った時より緊張しているのはバレバレさ。
それだけ危険な旅路だ無理もない。さぁ無力な私の胸に飛び込んでくるといい。
出来れば天界の術理や技術を持って帰って、わぁっぷ!」
カノンが全て言い終わる前にマリーが強く身体を抱き寄せた。
「研究者ってなんでこう理屈っぽいのかしら!
もう言葉が多い!寂しいならこれが一番よ!」
セレスティアも二人をまとめて抱きしめると、カノンは魔界に行けなかった事と、今回も非戦闘員として国に残る非力な自分を気にしていたようで、少し歯を食いしばっていた。
「正直に言うと悔しいよ。僕以外の姉妹が活躍する度に置いていかれる気持ちになる。
でも人には向き不向きがあるのも理解してる。
だから是が非でも何かしら持ち帰ってくれると助かるネ!」
「もう!結局最後はそうなるのね」
「カノンに頼る日はまたきっと来ます。
だから腐らず、研究の足しになる物を持ち帰った時に私達を助けて下さい」
「任せたまえ!ここにいるディシア君と私がいれば百人力サ!」
「皆さん、お気をつけて」
人間特有の別れをじっと見ていたクラリスと魔王メアリーは、軽く顔を見合わせながら言葉を交わす。
「懐かしいかい?クラリス」
「いえ」
「隠さなくてもいい。君は人間だ、その気持ちは大事にするといい」
「はい」
二人のやり取りを聞いていた召子は、メアリーとクラリスに向けて明るい表情を見せて
「二人共、一番近いところに一番大事な人がいるんだからそんな顔しないの!
仲間を増やしたいならまずは私なんてどう?」
「ふふ、君は眩しいね。召子」
「そうですね。レルゲン達の周りには明るい方が多い。
いえ、色々乗り越えてきた蓄積による物が大きい。これもまた魔王様の試練による狙いでしょうか?
「これは全く関係ないよ。人間性の成長までは考えていないさ。
じゃあ友達になってもらおうかな、いいかい?」
「こっちから頼んでるんだよ。ほら、クラリスさんも」
「私もですか」
「そう!みんなで頑張ろうね」
手を握って拳を突き合わせるようにコツンと合わせ、三人は少し笑い合った。
「召子ちゃん」
「どうしたの?ミリィちゃん」
「何だか前よりずっとたくましくなっちゃったね。でも私だってみんなと一緒に戦いたい。
またいつか一緒に!」
「うん!ミリィちゃんの魔力の器がちゃんと元に戻ったら、
また一緒に深域に狩りに行こう!」
「待ってるね!その間のフェン君とアビィちゃんのお世話は任せておいて」
「ありがとう。フェン君、アビィちゃん。ミリィちゃんをあまり困らせちゃダメだよ?
帰ってきたらまたいっぱい遊んであげるからね」
各々が別れを済ませて全員が女王に向き直り、改めて宣言する。
「全員ここにまた揃って戻って来られることを信じて」
天界へ向かう面々がレルゲンの念動魔術で優しく空中へ浮くと、少しずつ距離が空いていく。
空には未だに割れるような亀裂が入っており、一直線に次元の狭間に向かっていく。
「行ってきます!」
遥か上空にある裂け目に吸い込まれるように、レルゲン達が小さくなっていき、やがて見えなくなった。