4話 天使だった頃
後日、晩餐会とは打って変わり天使との戦いに備えた話し合いが開催される。
まず魔王メアリーが自らの翼を奪われた経緯と、その後悪魔に変質するまでを語り始めた。
「私が魔王になる前、背中に純白の翼を生やしていた時にある天使がこう言った。
我々天使には更に上の次元に至ることができる。そのためには同胞の力を結集し、力を一つに集める必要がある。
最初は皆何を言ってるのか分からなかったが、それに賛同した天使がいた。
今にして思えばその予言めいたことを言った奴と賛同した奴は始めから手を組んでいたんだろうね。
ともかく、初めはその二人の天使を冷ややかな目で見ていた。
だが、事態は変わりその賛同した天使は自らの手で親の翼を奪い、そして殺した。
一度翼を奪えると確信してから始めに狙われたのは私の家族。
自身の親と同様に私の家族の翼を奪い、そしてまた殺した。
けれど、私は翼を奪われたのみで命までは取られなかった。理由はわからない。
まだ子供だったからなのか、それともまた別の何かか。
ともかく、私は家族を奪われ翼を奪われ酷く絶望したよ。そんな時身体中から聖属性とは反対の悪属性の魔力に変わっていく感覚を感じ取り、復讐を考えるようになった。
堕天一歩手前の症状だ。身体の変質よりも先にまず魔力と思考が変わる。
私は天使でありながら悪属性の魔力を使って家族と翼を奪った天使に戦いを挑み、そして敗れた。
天使にとって初めて聖属性の反転属性を目にした議会は、同胞殺しをした天使よりも、私を天界からどう消すか躍起になっていたよ。
笑えるだろう?
彼らに罪の意識は一つもない。あるのは自分達の生活が守れればそれで良い。
私はこの時、この世の不条理を強く憎んだ。
この憎しみの感情が最後のトリガーだろうね。
そこから先は地上に落とされ、転移召喚者に私を始末させようと何人もの勇者を送り込まれた。
召子より一つ前の勇者とはほぼ相打ちになり、私は長い眠りに付いたが、こうして勇者と魔王が共に生き延びることは今まで一度たりとも無かった。
だからこそ私はこの機会を逃したくない」
重苦しい空気が流れたが、召子が静かに涙を流してメアリーを優しく抱きしめた。
「よくここまで頑張ったね。アメリアは偉いよ」
「慰めはいいよ、でもありがとう召子」
思わずメアリーが召子を抱きしめ返して、しばらくの間続く。
「でもアメリア。天界って別のというより、上の次元?なんでしょ?
どうやっていくつもりなの?」
「それが分かっていたらとっくに復讐に行っているが、今回に限ってだけはチャンスがある。
奴らは光の柱を出現させた時に次元の壁を破って攻撃してきている。
今回はそれを利用して次元の狭間に入り、そして天界を目指すつもり。
それで召子にはお願いがあるんだが…」
「ついてきて欲しいってことだよね」
戦っている最中は無理矢理にでも従えようとした魔王が、今度は依頼という拘束力の弱い打診に変わっていた。
天使も人も召子にとっては数ある命の一つ。
その問題を起こしている天使さえどうにか出来れば、殺しは最低限で済む。
答えは出ていた。
「分かった。私もいくよ。元の世界には帰りたいけど、それよりも新しく出来た友達の助けになりたい。
レルゲンさん、勝手に決めてごめんなさい。
復讐の為に行くのは少し躊躇われますが、それでも…!」
レルゲンは召子の意思が固まっているのを感じ取り、「分かった」と返した。
だが、ここで黙っていなかったのが二人いた。
「まさか召子にだけ危ない道を行かせるわけじゃないわよね?」
「マリー、私達の旦那様はそんな冷血な方ではありませんよ。ね?」
「分かった。分かったから余計な圧をかけないでくれ。
あれだけ敵対行動を取ってきて、かつこちらも反撃をしたんだ。このままでいいとは俺も考えていない___女王様」
「今のお話を聞いて私も心を動かされました。動機はどうあれ、こちらの世界に害意ある存在であることは間違いありません。
であればこちらから出向いてしっかり責任を取って頂くのが筋と言うものです。
セレス、マリー、レルゲン殿。そして勇者様。
よろしくお願いします」
「謹んで拝命致します」