3話 豪華絢爛な食事会
魔王をクラリスを交えた晩餐会は宣言通り少人数で行われた。
魔界組とレルゲン周りのいつもの面々が集まり、貴族達は混乱を招くという関係から招待は見送ることに。
レルゲン達が帰還した時とはややスケールダウンした晩餐会となったが、メアリーとクラリスは豪勢な料理に目を輝かせていた。
「見ろクラリス。ここが地上の楽園か…!」
「はい。いつもはもっと簡素な食事でしたから、今日は楽しみましょう」
普段口にすることはまず無い料理にうっとりとする二人だったが、クラリスが気づく。
「大変です魔王様!」
「なんだ!?」
「この料理を食べたら私達は元の食事ができなくなります」
「む…確かにそれは言えているね。しかしこの料理を食べないという選択は、ありえない!」
メアリーがまず第一に口にした料理は、小麦を練った生地を一本一本細く仕上げたものを熱湯でゆで上げたもの。
味付けは最近流行っているピリ辛だ。
「美味い!旨いぞクラリス!」
「あぁ狡いです魔王様!私も頂きます」
魔王はまだしも、普段から冷静なクラリスがここまで興奮するのはレルゲン達も意外そうな顔になる。
どんどんと出された料理を皿に盛り、次々と口に運ぶ様を微笑ましく見つめる女性陣達。
召子は幸せそうに頬張るメアリーに追加の料理を持って行き、口の端に付いているソースを手巾で拭いていた。
「アメリア。ソース付いてるよ?もう」
「悪いね召子。だがこの料理は格別に美味いぞ!お前達は常にこんな食事をしているのか?」
「流石にいつもは食べないよ、これは特別な日だけ」
「そうか!歓迎感謝する」
二人は少し前に死闘を演じていたとは思えないほど軽いやり取りを交わし、一方のクラリスはというとセレスティアと会話を楽しんでいた。
「この品々は本当に素晴らしい。セレスティアさんでしたか?
今度よろしければこの料理を作った方にぜひお会いしてみたいのですが」
「構いませんよ。それでしたら特別に料理長をお呼びしましょう」
少しの間セレスティアが席を外し、恰幅の良い男性を連れて戻ってくる。
「こちらが料理長の」
「ユキネと申します。お口に合ったようで何よりです」
「美味しい料理を頂けて、魔王様___もちろん私も大変感謝しております。ただ…」
セレスティアとユキネが顔を見合わせていると、クラリスは少し残念そうな顔をする。
「私達が住んでいる魔界は農作物の生育が芳しくなく、仮にレシピを教えて頂いたとしても再現が難しい。
それに再現が可能になったとしても、貧困差があるので全員にこの食事を振る舞うことは出来ないので少し歯痒いですね」
後ろで聞いていたマリーがクラリスの肩を軽く叩く。
「そのための国交じゃない。
それに貧困差は多かれ少なかれこっちにもある。
全部を無くすのは難しいかもしれないけど、行動を起こさない事には何も始まらない。そうでしょ?」
「ありがとうございます。貴女は眩しいですね。
身体から溢れ出る心念も、それを物語っています」
「それ、戦っている最中も言っていたけど、心念ってなんなの?」
「この時計を見れば強度はすぐに分かりますが、慣れてくると共感覚的に視認できるようになりますよ。
心念を一番理解しているのは、あなた方ならやはりレルゲンさんでしょうか」
「レルゲンの念動魔術も似たような考えだし、やっぱり共通しているのかしら」
噂のレルゲンはハクロウと久しぶりに二人のみで話し込んでいるようで、こちらの会話は届いていない。
何やら真剣な表情で話し合う二人の邪魔をしないように、クラリス達はその場から少し遠ざかる。
その後も招かれた二人は料理を突きつつ、敵同士ではなく一人の友人として関係を深めた。