2話 歓迎?
やはり予想通り魔王とその従者は、今回戦闘をしに人間界に来たわけではなく話し合いに来たようで、
クラリスが魔王の代わりに人間界に来た経緯を話し始める。
「今回私たちがこちらに来た理由は、天界からの攻撃に備えるためです」
「次元を突き破って攻撃してきた光の柱か」
クラリスが頷き、天使の脅威について伝える。
「彼らが攻撃をしてきたのは、魔王、勇者、そしてレルゲンさんが一度に集まったからにあります。
ですので、逆を言えばその三人は天使に取って切り札になる可能性が高いのです。
私も魔王様も天界について行ったことがないので確かなことは言えませんが、
このまま現状を維持して平和を謳歌できる確率はほぼ無いと言っていいでしょう」
「必ずこの前のような光の柱がいつ降ってくるかもわからないということか。
事情はわかった。
だが、三人が今ここに集まってしまっているのは逆に人間界が危険に晒されてしまうことにならないのか?」
これにクラリスは自信を持って首を横に振る。
「あの時はお互いに全力の魔力行使をしていましたから、正確な位置の割り出しが出来たと考えています。
魔力を抑えている普段の状態なら、見つけることは困難かと。
大事なのは、三人が一緒の場所にいながら魔力解放をしないことですね」
「召子は魔力自体持っていないから、気を付けるのは俺と魔王のみか」
「はい。そうなります。魔王様、今の話はしっかり聞いてくださいましたか?」
魔王は行き苦しそうに息を荒げて呼吸をして、クラリスを少しだけ睨んだ。
「よくこんな魔力濃度が低い環境で平然としていられるね。私は結構しんどいよ」
「魔王様は魔界以外に来るのは初めてですから仕方ありません。すぐに慣れますよ」
レルゲンは人間界でも魔力濃度が高い方の地脈付近で、
ここまで息切れを起こすならもっと魔力濃度の薄い荒野に行ったら、死んでしまうのではないかと心配になった。
苦笑いを浮かべていると、召子が会話に割って入った。
「アメリア!久しぶり!でも無いけど会いたかったよ」
「やぁ召子。私も会いたかったよ」
純粋な友情と、何か含みのある挨拶が交わされて二人で話を始めるのを尻目に、レルゲンが遠くで事を見守っている衛兵に合図を出す。
ハンドサインで危険がない事を知らせると、若干の怯えはあるものの魔王の下へと近づいてくる。
衛兵隊長に事情を説明し、魔王とクラリスを中央に連れて帰ることが決まった。
「大丈夫だろうけど一応言っておく、うっかり人殺さないでくれよ?」
「わかっているさ。その時はクラリスが止めてくれる」
(不安だ)
涼しげな表情で魔王の後を歩くメイドは、どこか得意げな表情でゆっくりと歩いていた。
秘密裏に中央へと戻り、謁見の間にて女王に魔王と従者が転移魔法陣を使ってやってきた事を説明すると、玉座から腰を上げて女王が挨拶をする。
「遠路遥々、よくお越し下さいました___
メアリー様、クラリス様。どうぞ我が中央王国をお楽しみ頂ければと思います。
早速本題に入りますが、お二人はなぜやって来たのですか?」
「相互条約を結びに参りました。それと二国間の国交の樹立に」
女王は目を丸くして驚いていたが、すぐに咳払いをして話を続ける。
「相互条約はこちらも有り難いお申し出です。国交というのは、具体的に貿易や先の条約も含まれると思いますが、どのような内容でしょうか?」
「主に貿易になります。
こちらが提供するのは、魔界のみで産出される魔結晶などの鉱物資源や木材など。
提供して欲しいのは農作物や水などの食料になります」
女王はクラリスの言葉を聞いて少し考える素振りをしたが、答えは既に出ていた。
「分かりました。我が中央で一番力を入れているのは農作物です。
始めから大きな取引は難しいですが、少しずつ取引量をお互いに上げていく。それでよろしいでしょうか?」
「はい。構いません」
「それと、これは追加の条件となりますが、我が中央以外の国との貿易は控えて頂きますようよろしくお願いします」
「心得ております。そもそも、全国的に軍事侵攻を始めた国、ましてや魔界との国交程危険なものはないでしょうから」
女王は満足そうに笑顔を浮かべ、一度だけ軽く手を叩いて仕切り直す。
「さぁ、堅苦しい話はここまでにして、お二人を歓迎する催しを開きましょう。影部隊」
「こちらに」
「閉じた中での開催となります。まだ寝ているお寝坊さん達に事情を説明して来てください」
「承知致しました」
音なく現れて、すぐに影移動で消えるのを見た魔王は、その特殊な移動方法を面白がっていた。
それを見たレルゲンは一つ疑問をぶつけてみることに。
「今のは闇の中級魔術だが、見たことがないのか?」
「初めて見た。基本的に悪魔達は複合魔術が基本になっているからね。単品であんな事が出来るとは知らなかったよ」
そんなものかと適当に納得したレルゲンは、一つ小さな欠伸をする。
召子はというと、未だにこの空間に来ると緊張するようで、朝早くの眠気など吹き飛んでしまっているようだった。