61話 光の柱
第三部 最終話
(なんて重い一撃…!)
召子の聖剣が少しずつ押され始め、地面が深く抉れていく。
絶対に果たさなくてはならない復讐の念が、聖剣と同じ大きさに変えられた小刀を振り下ろす力を後押ししていた。
「私はこんな所で足踏みしているわけにはいかないのだ!」
魔王メアリーが吠えたと同時に、更に圧が強く放出された。
「ぐっ…!」
すかさず助けに入ったのは使い魔のフェン。
レベルアップボーナスで動けるようになったのは召子だけではない。
自慢の前足で魔王メアリーの横腹目掛けて繰り出された切り裂き攻撃は、爪が肌に接触する寸前に止められ、空中で固定される。
「グランドでもないフェンリルが、私に触れられると思うな!」
目に見えない圧力がフェンを襲い、簡単に吹き飛ばされて瓦礫に強く衝突。
そのまま立ち上がろうと踠くが叶わない。
「フェン君!この…!」
抉れた地面に押し込まれそうになる召子は、一段と腰を落として踏ん張る力を上げる。
「あぁぁあ!!」
呻き声にも似た気合いを上げながら、少しずつ魔王メアリーの剣を押し返していく。
「まだそんな力が残っているか。
だが、私は君を絶対に手に入れて服従させる!絶対にだ!」
押し返したのも束の間、再び魔王メアリーの剣が聖剣を押し込んでいく。
(これ以上は、もう…)
少しずつだが着実に押し込まれていく聖剣は、召子の固い決意を崩していく。
完全に諦め掛けて目を閉じようとした瞬間、再び聖剣が意思を持ったように押し返しているではないか。
まるで、見えない手が召子の聖剣を使って押し込んでいるような感覚。
その力の正体はすぐに分かった。
気絶していたはずのレルゲンの右手が召子の聖剣に向けてかざされている。
マリーとセレスティアはその力の主を見つめると大粒の涙が自然と溢れ出ていた。
「本当に君はしつこいな。レルゲン・シュトーゲン…!」
再び押し返していく聖剣から白い翼が一対出現し、天使の翼を思わせる出立ちはメアリーの感情を強く逆撫でする。
「君まで私を裏切るというのか!召子…!」
召子は答えない。しかし代わりにレルゲンが口を開いた。
「治れ」
左眼から顎にかけて血が乾いた跡が残っているが、両の目蓋を閉じ、そして開かれると完全に潰されていたレルゲンの眼が機能を取り戻している。
心念計が示す針は、ぐるぐると周り半ば壊れている挙動を見せて、重力で押さえつけられながらクラリスを驚愕させた。
「魔王メアリーよ。お前は…」
レルゲンが何か伝えようとした瞬間、空から三本の光が降り注いだ。
まるでレルゲンが放つ光線攻撃、またはセレスティアが放つハイリッヒ・グリッターに近いような光の柱。
光の柱が降り注ぎ、三人を同時に焼き焦がさんとする害意ある攻撃。
その最中、どこからともなく声が響いてくる。
『私達は世界の秩序を護る者。
魔王と勇者、そして異分子のレルゲン・シュトーゲンにはここで退場して頂きます』
(間違いない、この声は忘れもしない…!)
「天使ィ!」
メアリーは苦痛に顔を歪めるどころか、血管が浮き上がるほどの激情を身体中から噴き上がらせ、青いオーラを放ち始める。
しかし、そのオーラとは裏腹に魔王の身体は崩壊を始める。
少しずつ、しかし着実に塵へと還っていくメアリー。
このままではメアリーが一番早く完全な塵となるだろう。
その時、レルゲンの胸ポケットからウルカが飛び出して召子に向けて指示を飛ばした。
「その聖剣から出ている天の翼は光の柱を中和できる!
メアリーを護ってあげて!貴方にしか出来ないの!召子!」
すかさず聖剣を光の柱が降り注ぐ天に向けて伸ばすと、確かに助言通りメアリーの崩壊速度が緩やかになる。
『純精霊、余計な真似を…!』
天からウルカに向けて鬱陶しいと負の感情が降ってくるが、これを完全に無視してレルゲンを見る。
意識を取り戻してからすぐにレルゲンを襲った攻撃は、容易に意識を刈り取ろうとする。
黒龍の剣を地面に突き刺して必死に意識を繋ぎ止めるが、保ってあと数秒。
行動は許されず、されど正義の光とでも言いたげな一撃にとにかく耐える。
レルゲンがマリーを見る。
言葉にはならないが、この状況を何とか出来るのはマリーしかいない…!頼む!
レルゲンが表情で訴えかけると、ハッとした表情で自分の持っている二種類の加護が頭をよぎった。
(絶対切断の加護と、隷属の加護…!)
やった事はない。だがやれなければそこで必死に耐えている愛する夫を、そして召子とメアリーを護れない。
神剣を握り直し、マリーは意識を集中させる。
「あなたの光、全て私が断ち切ってみせるわ」
神剣が白く力強い発光を見せ、三人に降り注いでいる光の柱に剣を潜り込ませる。
パリィンン!!
大きな破裂音と共にバラバラと硝子を砕くように光の柱が音を立てて崩れ去っていく。
解放された三人は全員とも満身創痍だったが、命に別状はない。
やりきったマリーは大きく息を吐き出して安心したが、レルゲンはすかさず天界と繋がっているであろう次元の狭間を確認し、
セレスティアにカウンターを入れるように願った。
「セレス!俺とウルカ、残っている魔力を全部渡す!
全力の一撃をあの次元の狭間に向けて打ち込んでくれ!」
すぐにセレスティアに魔力糸が繋がれて、途轍もない魔力が流れ込んでくる。
無駄にならないようにセレスティアは必死に体外へ逃げようとする魔力を留め、そして唱えた。
「ダブルキャスト・マジック、ハイリッヒ・グリッター!!」
青く染め上げられた複合魔術は一本の光の柱のように太い一撃となり、次元の狭間へと吸い込まれる。
天界でどうなっているかは全くと言っていいほど分からないが、それでも三人の全魔力を全て一撃に集約された攻撃は、天を衝きながら大きなダメージを与えたはずだ。
これ以降正真正銘、天界と敵対関係になる未来が訪れるわけだが、マリーとセレスティアは全く後悔することは無い。
暫く経ってから再び天界からの声が聞こえてくる。
『やってくれましたね、マリー・トレスティア、セレスティア・ウノリティア…そして、"世界の神よ"。
今回は引かせて頂きますが、今度またお会いする事があればすぐにでも粛正させて頂きますので、悪しからず」
それ以降次元の狭間は完全に閉じきり、普段の魔界の空が怪しく光るのみだった。
第三部魔界編
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現在第四部を準備中です。
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