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59話 イミテーション・スパイラル

レルゲンを潰さんとする力を上空に逃がすと、天井が圧力に耐えかねて派手に吹き飛び雲一つない空が露わになる。


しかし、依然としてレルゲンは気を失ったまま。


マリーはレルゲンの鼓動を感じ取ったが、左目からの出血が激しい。


「セレス姉様!」


「任せてください。レルゲン、しっかりしてください!」


すぐに遠距離からの回復魔術が発動し、出血の勢いが緩やかになる。


完全に眼を焼き焦がされて回復魔術の効きが阻害されている嫌な工夫にすぐに気づくが、


額に汗を滲ませながらも治療を続ける。


すぐに治せない重症と判断した召子も、アビィにリジェネライト・ヒールを掛け直すように指示を出した。


その様子を黙って見ていた魔王メアリーがようやく口を開く。


「やるね。確かマリーだったかな?

新しい力で私の魔術を上空に逃がしたか。


しかし残念だ。君達の心の拠り所は既に倒れた。もう諦めてしまってもいいよ。


楽に殺してあげるから」


全員が今の一言で諦めたと確信した魔王メアリーに、脇に控えていたクラリスが報告する。


「魔王様_こちらを」


「心念計の腕時計がどうしたんだい?

おぉ、どんどん上昇している。諦めるどころか更にやる気になっているじゃないか」


魔王メアリーは満足そうな表情を浮かべながら倒れているレルゲンの周りに集まっているメンバーを眺めていた。


普段から多く助けられてきたマリーやセレスティアは特に闘志が漲っていた。


((いつも私達を助けてくれたレルゲンを、今度は私達が助ける番!))


「マリー!力を貸してください!貴女の、念動魔術が必要です!」


「念動魔術が…?どうするの?」


(先程レルゲンの目を潰してから焼いた魔術は恐らく私で言うところのトリプルキャスト・マジック。


その技の構成、考え。利用させて頂きます。


もうナイト・ブルームスタットの時のように、ただ理解できない魔術行使を眺めている時の私ではありません!)


「魔王は何らかの圧力を利用している魔術を利用しています。


その力をマリーの念動魔術で打ち消して欲しいのです」


これから行使するのは初めて挑戦する複合魔術。

小声で呟きながら頭の中をクリアにしていき、そして唱える。


「トリプルキャスト・マジック! イミテーション・スパイラル!」


唱えられた瞬間、セレスティアの背後に現れたのは氷で出来た螺旋を描く巨大な剣。


その螺旋剣は剣自体を構成する水を氷に性質変化させた水属性。

螺旋剣自体の形状を強化した聖属性。

そして、レルゲンがよくやっていた貫通力を高めるための風属性を合わせた複合魔術。


完成した巨大な螺旋剣を待機させ、その名を呼ぶ。


「マリー!お願いします!」


大きく頷いて、マリーは細い半透明の糸のようなものを接続する。


すると少しずつ回転数を上げていき、周辺の大気を巻き込みながら風切り音を部屋中に響かせていく。


ナイト・ブルームスタットが最後に繰り出した奥の手。


コンセクティブ・フラッドは四種の魔術を複合させたユニーク魔術だったが、


セレスティアとマリーの合わせ技とはいえ、疑似的なフォースキャスト・マジックを行使していた。


マリーが念動魔術で勢いよく魔王メアリーに向けて射出する。


ギュイィィィイイインンン!!


巨大な螺旋剣は高速回転しながら轟音をまき散らし一直線に直進するが、切っ先が下に向き始める。


「フィフティーン・タイムス」


魔王メアリーが更に唱えると、螺旋剣の先端が更に垂れるように下がっていく。


(絶対に落としてなるものか!!)


魔力糸に全力で魔力を通して魔王からの放たれる重圧に抵抗してくが、

少し、また少しと高度が落ちていく。


「上がって…!」


懇願にも似た声を上げて尚も抵抗を続けるが、高度が落ちる現象を止められない。


諦めかけたその時、優しい光で出来た手がマリーの方に乗せられた。


(マリー、念動魔術は魔力の総量で何とかする魔術じゃない。


イメージだ。

奴の重圧よりも上がるイメージを魔力糸から剣に伝えるんだ。君ならきっと…いや、必ずできるはずだ)


「レルゲン!」


マリーがレルゲンを見て、そして呼ぶ。

しかし、心に響いてきた声は確かにレルゲンのものだったが、声の主は未だ立ち上がらない。


マリーは一瞬だけ気のせいかと、レルゲンの幻聴かとも思ったがこの際どちらでもよかった。


彼の手に触れると、声を聞くと不思議と勇気が湧いてくる。


マリーはレルゲンに心の中で感謝して一度眼を閉じた。


(必要なのは魔力じゃない。この剣を上昇させるだけのイメージ力。それが念動魔術の真髄)


感情が落ち着き、再び眼を開く。

螺旋剣はもう床に接触する寸前。

今にも破壊されそうになるが、マリーは落ち着いていた。


「上がれ!」


短く命令された氷の螺旋剣は、重圧を押し返すように少しずつ上昇していく。

高速で直進してく剣が魔王メアリーに伸びてゆく。


再び笑いながら避けずにあえて受け止めようと両手を前に掲げたが、割って入る者がいた。


その者は片手で螺旋剣の先端をまるで万力でも加えているかのように握りしめ、

回転が少しずつ緩やかになっていく。


(今の一撃を受け止めた!?)


セレスティアとマリーが驚愕の表情を向けた相手は、銀髪の長い髪をたなびかせたメイドだった。


しかし、凄まじい威力を殺しきれなかった証拠に、クラリスが受け止めた右手からは血が螺旋剣を滴り、床にボタボタと多く零れ落ちている。


すると、室内を強烈な殺気が充満していき、その場にいる全員がクラリスを含めて脂汗が噴出した。


「誰が護って欲しいと願った?

その命令は誰が出した?」


魔王メアリーはセレスティアやマリーに向けてではなく、クラリスに対して殺気を放っていた。


「御身に危険が及ぶ可能性が…」


「質問に答えなさい。お前も私を憐れむのか?」


返事はない。

何を言っても魔王メアリーの激情を煽り立てるだけ。


そう判断したクラリスは瞳を閉じてただ礼の構えを取るのみ。


しかし、常軌を逸した忠誠心が魔王メアリーの激情を止める。


「少し、お話でもしようか」


戦いの最中に提案された話は、誰の許可を得るわけでもなく語り始める。

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