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55話 呪い斬り


「レルゲン!皆さん!」


ディシアが振り返った先には、見慣れた顔が揃っていた。


全員が自らのコピーを打ち倒し、スティルの前に姿を見せると、狼狽した様子の研究者とその助手が佇んでいた。


「馬鹿な…倒される事は予定通りとはいえ、早過ぎる…!まさか」


「逃げたと疑っているのか?」


「…っ!」


思考を先読みされ、スティルが更に一歩下がる。

レルゲンが懐から魔石を取り出して見せると、脇に控えていた助手が呟いた。


「コピーの魔石」


「では本当に君達はこの短時間で自らの壁を打ち破ったとでも言うのか…ふふっ」


驚きの表情から一変し、徐々に堪えきれなくなった笑いが表に出てくる。


「ふふふ、ハハハハハ!!

素晴らしい!素晴らしい成果だよ君達!

これは私の予想を裏切って見せたと言うわけだよハーディ!

これが笑わずにいられるだろうか!」


天を仰ぎながら口元を押さえて高笑いをする研究者は、喜びの感情を爆発させながら机を何度も強く叩いた。


しばしスティルのみの空間が出来上がったが、レルゲンが空気をまたも変えた。


「喜んでいるところ悪いが、これからお前達を倒させてもらう」


「あぁ?あぁ、そうだったね。僕達は敵同士だ。その考えは十分理解できる。

だけど教えて欲しい。どうやって僕のインスタンス・コピーを倒したんだい?

あれには悪属性付与もされていたと思うが」


「なるほど、ならあの言動には納得だ。

研究者。お前は間違えていた」


「何にだい?」


「俺達のコピーに悪属性を追加して強くしたつもりだろうが、寧ろ逆だったな。

あれは俺達の心に余裕を生ませていたぞ」


「そうか…ふむ。では僕は強くしたつもりが逆に弱体化させていたと。

参考までにどんなやり取りをしたのか教えてもらっても?」


「俺達の中にある負の感情を悪属性付与で増幅させたような言動が目立ったが、

そんなことはもうとっくに乗り越えているんだよ」


「では僕の用意した試練はここにくる前に既に乗り越え、二番煎じを演じてしまったという訳か」


真っ直ぐに見つめていると、スティルは椅子から立ち上がり、頭を下げて謝罪した。


「それはすまなかった。大層不快な思いさせただろう。僕は君達の成長速度を見誤っていたんだね」


ハーディは敵から完全に目を切り頭を下げている上官を見て、チャンスとばかりにレルゲンを見たが、誰一人としてスティルの首を落とそうとする者はいなかった。


小さくため息をついてまた一歩下がると、マリーが神剣を構えてハーディを斬りつけた。


急に凶行に走ったマリーに全員が驚いたが、斬られたハーディには傷一つない。


斬られた箇所を何度も触って確かめたが、ハーディが身体を再生したのではなく、

正真正銘、擦り傷すらついていなかった。


神剣を肩に担いで、マリーが一連の行動を話し始める。


「貴女、そのスティルって奴に嫌々従っていただけなんでしょう?その呪いの契約ってやつで。

だから貴女を縛っているその契約だけ断ち切らせてもらったわ」


「そんな事が出来るとは思えないね。ハーディ、そこの戯言を抜かした金髪の娘を殺しなさい」


ハーディは一度マリーを見て薄く笑った様にも見えたが、すぐに表情を戻し


「かしこまりました」


素直に命令を聞いた助手に、満足そうな表情を浮かべて紅茶を啜ったが、強制的に中断させられた。


一歩前に出てマリーに近づく。

傍に控えていたハーディが拳に魔力を込めて腰を押したが、突進するのではなく回転する様に身体を捻らせてスティルの顔面へと裏拳を正確にヒットさせた。


声にならない悲鳴を漏らして後方に吹き飛んでいき壁面に叩きつけられる。


「がはっ」


「貴女に感謝を。名前をお伺いしても?」


「マリーよ。マリー・トレスティア」


「では改めてマリー。本来敵である私の呪いを断ち切って下さってありがとうございました。

あそこで寝ている悪魔はすぐには起きてこないでしょう。

ご案内致します。魔王のいる下へ」


ハーディの案内で進んでいくと、レルゲンがどういう事か尋ねる。


「隷属の加護っていう新しい加護を授かったの。だからその加護を使って呪いの契約部分だけ中和出来る気がして」


なんか隷属と契約って似てるでしょ?

にこやかに言ってのけるマリーを見て、また成長して帰ってきたのかと半ば頼もしさすら覚える瞬間だった。


「こちらが魔王が座す間になります。準備ができたら合図を下さい」

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