53話 隷属の加護
「隷属の加護…」
新たな加護の名前から力を推測するが、まず頭に思い浮かんだのは人が誰かに付き従う方こと。
試しに自分のコピーに向けて従うように念じてみるが、特に手応えはなく加護の範囲内では無いとわかる。
次の可能性を考えていると、痺れを切らしたマリーのコピーが向かってくる。
セレスティアがかけたエア・スピードのおかげもあり余裕を持ってマリーが対処するが、連続剣の加護がコピー側も持っている可能性を考えてまともには打ち合わない。
マリーが連続剣の加護を発動する時は、一気に勝負をつけると決心した時。
つまり、隷属の加護を自分の物にした時が勝負の決め所。
「セレス姉様。新しい加護を授かりました。
ただこの加護の効果がまだ分からないの。
だから少しの間、フォローお願い!」
「加護を授かった…!?
わ、分かりました。少しの間でしたら、私の魔術で凌げます。
マリーは加護の効力先を見つけてください!」
マリーが頷くとセレスティアが後衛からマリーの横に並ぶように駆け寄る。
セレスティアのコピーはマルチ・フロストジャベリンを大量に展開し、回避が難しい程の範囲の広さで射出するが、
これに対抗するべくブルーフレイム・アローズを同じ数だけ展開して相殺する。
単一の性質変化魔術だけでは埒が明かないと判断したコピーは、マリーのコピーと共に合体魔術を発動し、オリジナルの二人に迫る。
「ユニゾン・テンペスト」
抑揚のない声で繰り出された合体魔術は、鋭い風の暴風刃となって床を削りながら突き進む。
合成魔術は言ってしまえばエア・スピードのように風と風を掛け合わせた複合魔術。
風の反魔術は同じく風魔術での相殺が基本だが、複合魔術の利点を活かした別の方法を考えた。
セレスティアは瞬間的に思考速度を上げて、再び新たな複合魔術を披露する。
「ダブルキャスト・マジック。スノーシェイプ・シールド」
扇の形をした分厚い氷の盾を目の前に出現させると、マリーが加護の分析を進めながらも目を見開く。
聖属性の魔力を纏わせて強化された雪の結晶盾は、一枚だけ目の前に現れて合体魔術を防ごうと鎮座する。
「セレス姉様…!」
「大丈夫です。マリーは加護の考察を進めて下さい」
二つのテンペストが迫る。
氷の盾に風の暴風刃が衝突し、大きな衝撃音と共に飛び散った氷の破片がキラキラとセレスの頬を照らした。
セレスティアの言葉を信じて、マリーはまた意識を深く集中していく。
(他に隷属といえば、何かに従う力。
レルゲンはこの魔界に来てから大気の魔力を念動魔術で集めていたけど、あれも言ってみれば魔力の隷属とも言える。
もっと解釈を拡げて、自分の物にできることは…
「セレス姉様!これなら行ける気がするの!
私にやらせて!」
「分かりました」
氷の盾に大きなヒビが入り、ユニゾン・テンペストが撃ち終わったと同時に粉々になる。
盾の後ろに立っていたマリーが綺麗な金髪の髪を結い直し、短く「よし!」と気合を入れた。
「行くわよ」
足に意識を集中するとエア・スピードの風が足元に集中していき、コピーへ一気に肉薄していく。
空中に跳び出しながら更に風が速度にブーストをかけ、加速度的に速度が上昇する。
一息に懐まで潜り込み下段からの切り上げを入れるが、コピーの髪を掠める程ギリギリの所で躱し、距離を取ろうと下がろうとする。
(ここからが、隷属の加護の見せ場!)
神剣に意識を集中すると、エア・スピードが狙い通り全て神剣に集まってゆく。
後ろに跳んだマリーのコピーに向けて、集めた風の補助魔術を攻撃魔術に転換して放たれる。
コピーは一瞬、魔術の発動時に起こる魔力の高まりを感じ取る事が出来ずに、攻撃魔術に転換された遠距離の攻撃魔術となったエア・スピードを諸に受ける。
凄まじい勢いでコピーが吹き飛ばされ、後方の壁に小さくクレーターを作る。
生身だと全身の骨が複雑に折れること間違いなしの一撃だが、液体が落ちるかのように壁からぬるりと床に降り立つコピーは、マリーの姿に戻ろうと蠢いた。
「自分の姿だと尚の事気持ち悪いわね…」
マリーが顔をしかめながら自身のコピーを見るが、セレスティアはマリーからエア・スピードが完全に無くなっていることを確認して、再び同じ魔術を付与する。
「今のが隷属の加護…!
補助魔術を攻撃魔術として変えてしまうなんて!」
興奮気味のセレスティアは、どういう原理で起こった事なのか知りたい気持ちに駆られたが、静かに自分を諌めた。
「あれ、効いているのかしら…?」
「手応えはありますが、あまり有効になっている気がしませんね」
二人共戦闘を有利に進められている実感はあるが、消耗戦になるほど後々の戦いが不利になって行くと考え、一気に勝負をつけると心に決めた。
「セレス姉様!」
「はい、行きましょう!」
足に魔力と補助魔術の合わせ技で高速移動をしながら、連続剣の加護を発動するべく距離を詰めた。