52話 新たな光
マリーとセレスティアもまた、自身のコピーと戦っていた。
始めはレルゲン達と同様に大きな鏡の前にいると錯覚を覚えたが、セレスティアが鏡に写った自分達から魔力を感じるのはおかしいと気づいた。
「それにしても、武器の性能まで同じなんて!
どうやったらこの剣とセレス姉様の杖が再現できるのよ!」
マリーはしばらく悪態をついていたが、セレスティアが宥めるように自分達と違う点を指摘する。
「姿や使える魔術、武器は同じように見えますが、魔力総量は見たところ私達より若干ですが低いです。
これは気のせいかもしれませんが、攻撃に移る際に、コピーの方は感情が乗っていないようにも感じます。
マリー、貴女の絶対切断の加護の発動条件は確か斬る対象を強くイメージする必要がありましたね?」
「そう。だから発動して斬る時は自然と周囲に気取られやすくなるわ。
でも、あのコピーが持っている剣にはそれが感じられない」
セレスティアが頷き、神剣が敵に回ると一番厄介な加護の発動条件を満たさないと確信する。
それならば絶対切断の加護を軸に戦うべきと判断してセレスティアはマリーに高速バフをかける。
精密動作や速度、身体強化など基本的な補助魔術をかけると、コピー側もまた同様の魔術をかけていく。
だが、ここからが違った。
セレスティアの目に力が宿っていき、そして唱える。
「ダブルキャスト・マジック。エア・スピード」
二人の周りに周辺の大気を巻き込むように風を纏う。身体の表面付近に鋭い風が常時吹き、意識を手に集中すると更に強い風が音を立てて唸る。
初めて見るセレスティアの補助魔術にマリーは驚いてコピーの方を見るが、セレスティアのコピーは同じ魔術を発動しない。
否、出来なかった。
それを見てセレスティアはまた一つの確信を得る。
「マリー。相手の私達はやはり新しく手に入れた魔術を再現出来ません。
なので、新しい攻撃の術を会得すれば真似されることはありません」
「じゃあこれはセレスお姉様が今新しく覚えた魔術ってこと?」
薄く笑って肯定すると、「なるほどね」とマリーが冷や汗を掻いて納得する。
ここは言ってしまえば格好の成長ポイント。
逆を言えば、これから強くなれなければ相打ち必須のやり取りが始まる。
セレスティアの新しい補助魔術で戦いを有利に進められるのは間違いないだろう。
しかし、マリーは整えられた環境に満足しなかった。
(今、私に足りないものは何だろう…?私の強みはどこにある?)
普段から無意識にしている戦闘のマインドが、今回は強く意識して思考を走らせる。
視線が自然と下がりながらも虚空を見つめながら遠い目をするが、頭が冷やされつつ集中力が上がっていく。
(剣術、魔術、戦いの心持ち、そして複数の加護。みんなの中で私だけの長所は…)
一つの答えに辿り着いたが、それが本当に可能なのかと疑問に思う。
そもそも生まれつきのものが大半で、悪魔は知らなかったが武器や装飾品で増やす事もできる。
しかしそれを"意識的に増やす"ことが本当に出来るか?
物心つく時に自分は世界に愛されている稀有な存在の一人だと知った。
だが、持っていることを知ってから実際に発動するまでに数年かかり、今でこそ理解して使いこなしているが、それまでは全くと言っていいほど扱いきれていなかった。
今新しいものを授かったと仮定して、この戦いを有利に進められるだけの理解ができるのだろうか?
不可能だ。
新しく授かってから使いこなすまで一番短いのは神剣に最後の宝石が嵌ってから。
実際に真髄を理解して実行できたジャックとの戦い。
最短でも数十日の日数がかかっている。
新しい光を掴みかけたと思ったが、夜空に輝く一等星が徐々に光を失っていく。
(これからやろうとしているのは本当に難しい。出来る理ではないのかもしれない。
でも私は、ここで諦めたくない!)
マリーの瞳から力が一時抜けていくが、
意思が、ここで止まりたくない気持ちが、再び心の灯に火をつけていく。
魔力ではない。
しかしそれに似た青いオーラが身体から滲み出るように、少しずつ溢れてくる。
「マリー、その光は一体…」
セレスティアが変化に目を見開いて驚いていたが、マリーにのみ聞こえる声が頭の中に響いてくる。
『貴女に私の祝福を』
マリーの身体から溢れていた青いオーラが収まり、目に宿っていた力強い何かが薄れていく。
マリーは空を見上げて一言だけ感謝の意を返した。
「ありがとう」
新しい加護を授かり、確かめるように手を閉じて、開く。頭の中に浮かんだのは、意外なものだった。