50話 精神的支柱
新しく手に入れた玩具を眺める子供のような声色で話を続ける。
「その魔物は今の君達自身___どう倒すかは敢えて教えない。
それを思考して実行する過程こそが、僕の、ひいては魔王様が見たい景色だからね」
「他のメンバーはどうした。俺達と同じような部屋に飛ばしたのか?」
「それくらいなら教えよう。同じ研究者の彼女と使い魔達はここに残り、二人の姉妹かな?は君の言う通り別室で戦っている。
ここに戻って来たければ、そこにいる自分自身を倒してごらん」
姿と武器はどういった原理かは理解できなかったが、レルゲンは召子とそのコピーとの違いに気づいた。
もう一人の召子が持っている聖剣は、間違いなくオリジナルの劣化版。
どこか魔力の動きが鈍く、流石に再現はできても完全な複製までは出来なかったようだ。
複製されたもう一人の召子は、魔力を少なからず帯びている。
(これは間違いなく模倣する時の影響だな。
〈スキル〉もコピーされているのか?)
「召子、奴らのポテンシャルを見たい。飛んでみてくれるか?」
「分かりました」
召子が少しずつ高度を〈飛翔〉で上げていくと、もう一人の召子も合わせて宙に浮き、上を取らせないように浮いていく。
(なるほど。〈スキル〉の模倣もできるなら、俺の武器や魔術は全て使えると思っていいな)
まず仕掛けたのは召子のコピー。
すかさずレルゲンが召子に迫る魔の手からカバーしようとするが、レルゲンのコピーも合わせるように動き始める。
結局本体とコピーがぶつかり合う形となり、最初の一合目は拮抗する。
レルゲンに至っては姿形以外にも魔力まで酷似している。思考までもトレースされている様にも感じ表情が曇った。
レルゲンが考えを巡らせているとコピー側が一言だけ呟く。
「第一段階、全魔力解放」
赤い魔力がコピーから噴き上がり、普段自分が多用している術を完璧に再現していた。
すぐに鍔迫り合いの状態から、魔力解放を行ったコピーがレルゲンを一歩ずつ押し込んで行く。
「くっ…!」
こちらも対抗するために全魔力解放をしようとしたが、ギリギリの所で踏み止まる。
一旦距離を取り直すと、胸のポケットに入っているウルカが顔を覗かせた。
「レル君。私の力は相手には真似出来ない。戦いの軸は私の魔力を代わりに使っていいからね」
「分かった」
普段からウルカと繋がっているパスに意識を集中する。
細い糸でのやり取りではなく、太く強くイメージすると、大量の魔力がウルカから流れ込む。
純精霊は流石にコピー出来なかったようだが、早々に手札を一枚切って来た敵側に対し後手に回った。
「次はこちらから行かせてもらう」
黒龍の剣にウルカから供給された魔力を込め、遠距離から召子のコピー目掛けて赤い光線攻撃を放つ。
聖剣で打ち合っていた召子は〈飛翔〉スキルで距離を取ったが、レルゲンのコピーも黒龍の剣に魔力を込めて、赤い光線を放ち相殺。
短い爆発と共に煙が立ち上ったが、レルゲンのコピーは表情を変えない。
(やりづらいな)
複数人での戦いとなれば、やはり頭数を先に減らすのが定石。
それをわかっているかのような反応の速さで、コピー同士で連携が取れるのは脅威と言っていい。
レルゲンの横に降りて来た召子が声をかける。
「どうやって倒しますか?」
「召子のスキルが増えればじわじわと押していけると思うが、いつ手に入るかが予測できないからな。
ここは少し時間はかかるが俺のコピーから先に倒そうと思うが、どう思う?」
「向こうはウルカちゃんのコピーが出来ないようですし、それでいいと思います。
となると、私の仕事は私の偽物がレルゲンさんに余計なちょっかいを掛けないように足止めですね」
レルゲンは相手のコピー二人が横に揃うのを見てから、首を横に振る。
「いや、足止めで満足しない方がいいかもしれない。何か引っかかる。倒せるならお互い早めに倒してしまった方がいい」
召子がレルゲンの緊張状態を察して頷き、聖剣を構え直したと同時に、レルゲンに心のどこかで頼っていたことに気づく。
(もっとちゃんとしなきゃ…!
私がさっきの私よりも強くならないと、レルゲンさんの負担が増えるだけ)
一度大きく深呼吸してから、誓うように宣言する。
「こっちは任せて下さい。私一人で倒すので、レルゲンさんはそちらのコピーに集中して下さい」
「よし。そろそろ向こうも痺れを切らす頃だ。そっちは任せた」
「はい!」
フェンやアビィ、そしてレルゲンというパーティの精神的支柱に頼らない戦いが始まる。