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49話 インスタンス・コピー

マリーは魔法陣の回避は既に諦め、最後に一太刀だけでも浴びせてやろうとスティルに走り込む。


「恩知らずな貴方に最後の挨拶をしてあげるわ!」


振りかぶられた神剣がスティルに迫る。

しかしスティルはマリーには一瞥することもなく目を閉じる。


(入る…!)


神剣の切先が獲物を捕えかけた瞬間、一つの影が割って入り軌道を止めた。


「させません」


「あなたは後ろの悪魔の事なんてどうでもいいと思ってたけど」


「その通りです。私にとってこの悪魔はどうでもいい。


ですが私には呪いの契約がありますから、こうしなければならないのです」


ハーディにのしかかる様な重みが一瞬で消える。

主に最後の攻撃を仕掛けた金髪の剣士は、完成した転移魔法陣によって目の前から忽然と姿を消した。


「そんな目で見つめないでくれよ。

僕は君の可能性をもっと知りたい、試したいだけなんだよ?


君はきっと僕の傑作を見たら喜んでくれる。そんな確信にも近い予感がある」


ディシアを除く全員が転移魔法陣に吸い込まれる様に消え、ポツンと一人だけ残された杖付きの少女はゆっくりと椅子に座り直した。


「おや、随分と君は余裕だね」


「そうですね。彼らならあなたが何を企んでいたとしても、必ずここへ帰ってきますから」


「いいね。僕にもそんなふうに思ってくれる仲間が欲しいよ。羨ましいなぁ」


スティルが本心から溢した言葉を遮るように、大きなため息をつきながら呆れた表情でハーディが見つめる。


「それならまず私との契約を破棄してみるところから始めてみてはどうですか?


もしかすると、私と信頼し合える仲になるかもですよ」


「面白い冗談だね」



転移させられたレルゲンは辺りを見回して周囲を警戒したが、隣に召子とフェン、アビィがいるのみで、マリーとセレスティアとは別の座標に転移したようだ。


恐らくは魔王城内のどこかで間違いないだろうが、魔力感知を限界まで広げてもフェンとアビィ以外の反応がない。


聖剣を構えながら使い魔達に背中を預けるように視線を巡らせて周囲を探った召子だが、〈魔力眼〉で見てもそうでなくとも何か現れる素振りがない。


「奴の口振りから何か出てくると思ったが、"大きな鏡"に俺達が写るのみで、変わった様子はないな」


「そうですね。フェン君の鼻にも特に変わった匂いは感じないようですし、何がやりたかったのでしょうね。あの研究者は」


武装を一度解除して鞘に納める召子だが、レルゲンは鏡に写る召子に何か引っ掛かりを覚えた。


この鏡、ただの大きな何の変哲もない物だと最初は思ったが、壁に隙間なくぴったりと嵌っている。


否、嵌り過ぎている。

まるでそこに何も無いような、鏡なんて始めから存在しないような。そんな違和感。


瞬間、レルゲンが召子にすぐに武装を解放するように静かに声をかける。


「召子、落ち着いて聞いてくれ。

ここには鏡なんて物はない」


「何言っているんですかレルゲンさん。やっぱりこれは大きな鏡ですよ?ほら」


召子が鏡と思われる場所まで近づき、身体を動かすと目の前にいる鏡越しの自分も同じ動きをする。


レルゲンの方を向いた召子を、鏡越しの召子が真っ直ぐ見つめ続ける。


「召子!前を見ろ!そいつは敵だ。

俺達と同じ姿をしている。今すぐに武装を解放しろ!」


「えっ?」


まだ武装を解放していない召子が、鏡越しと思っていた召子を見つめると、そこには既に聖剣を構えている自分が写っていた。


「…っ!!」


慌てて聖剣を取り出そうとしたが、目の前にいるもう一人の自分はもう聖剣を音もなく自分に向けて振り下ろし始めている。


念動魔術を発動して、偽物の召子が持つ聖剣の軌道を遅らせるが、それでも攻撃を始めている速度を落とすので精一杯。


聖剣による受けが間に合わないと判断し、後ろに飛んで躱すが、


肩口から服を斬り裂いて通過したもう一振りの聖剣からは、少量の血が滴り落ちていた。


僅かな痛みがようやく召子の頭をクリアにする。

しかし、レルゲンの方もまた偽物と思われる相手からの攻撃を受けていた。


浮遊剣で偽物からの初撃を防いだレルゲンは、召子の下へステップを踏みながら近づいてゆく。


「大丈夫か?」


「私は大丈夫です。ですがそれよりも」


「ああ、まさか奴の傑作とは俺達を複製する事だったわけだ」


レルゲンと召子が状況を呑み込んだと同時に部屋に放送が入った。


「ようやく気づいてくれたね。それこそが僕の傑作。人工魔物、インスタンス・コピーさ」

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