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48話 呪いの弾丸

新たに取り出した銃は、投げ捨てた物よりも更に小型。


先端が針のように尖った鋭利な外観は、小さなレイピアを思わせる。


「お前さんは俺の武器の弾道を変えられるようだが、コイツならどうだい?」


引き金に指をかけて撃鉄が起こされる。

その見た目とは不釣り合いな程に大きな発砲音は、真っ直ぐスティルへと向けられた。


何度やっても起動を変えるつもりだったレルゲンは、再び強固に念動魔術を発動させてスティルの身を護ろうとしたが


今度は先程よりも曲げられる角度が緩やかになる。


スティルの肩を掠めながら地面に突き刺さった銃弾には、細い糸のような物が発射口から伸びていた。


すぐに異変に気づき魔力糸を真っ先に疑ったが、魔力によるものではなく実体を伴った何かしらの線だと考えた。


両者共に意外な結果となったやり取り。

お互いに驚いた表情を相手に向け合い、距離を取る。


「今のでもダメかい。参ったねどうも」


マークスは発射口から伸びている線を切断し、小型銃を持っている手で頬を掻いた。


「あんた、さっきの攻撃は長く細い杭をその銃から撃ったな?」


「初めの一発でもう見破るのかい。銃は前に見た事があるのか?」


「どうかな。だが、長い杭をへし折るくらいの魔術強度で次は掛けさせてもらう」


「そんな事も出来るのか。

だがせめてそこに寝転がっている裏切り者だけは始末させてもらうよ。


最後の奥の手を使ったとしてもね」


まだ手札を隠し持っている事を公言してまでも、魔王に害する可能性のあるこの研究者だけは討ち取る覚悟がマークスにはあった。


標的が勇者である召子からスティルへと移り、最後の一撃を放たんと無詠唱で隠蔽魔術を発動して姿を消す。


「セレス!」


セレスティアがディスペルを発動するべく片目のみで熱感知をするが、マークスが高速で部屋中を駆けているため狙いが定められない。


「敵は隠蔽魔術を発動しながら高速で動いています!ディスペルの狙いが付けられません」


レルゲンが咄嗟にスティルの目の前に移動し、マークスの足音だけを頼りに意識を集中する。


(これだけ高速で動いているにも関わらず、ここまで足音を消せるのか)


目を閉じて集中して気配を探ると、馬鹿にする様にマークスの声が至る所から聞こえる。


「これから撃つのは言わば呪いだ。

どうしてそんな事を教えるのか疑問だろうが、こいつは魔術越しでも触れた時点で効果を発揮する。


解呪方法を伝える事で更に呪いの威力は上がる。

方法は一つ、呪者の俺を殺す事。


それを踏まえて本当にそいつを護るのがベストかどうか、考える時間は与えない。


お前さんも勇者と同様に危険戦力だ。これで共倒れしてくれるなら願ったりだよ」


声が止み、一瞬の静寂が訪れる。

レルゲンはスティルに掛けている矢避けの念動魔術を解除し、その場から歩いて離れる。


レルゲンを諌める者はいない。

当事者のスティルさえも、間違った選択とは思わない。


もう誰もマークスを止める事は出来ないと感じていた。ただ一人を除いて。


マークスの最後の奥の手が放たれる。

銃声はしない。弾が風を切る音すらしない。


しかし、その代わりに絶対に呪い殺すというジャックとはまた違った種類の必殺の思念が乗っていた。


マリーが敏感に反応しレルゲンを見つめる。


「戻れ」


放たれた言葉は念動魔術によるもの。

だが、魔術によって呪いに触れているわけではない。


矢避けの念動魔術は遠距離からの飛来物から身を守る、薄い膜を纏っている状態に近い。

しかし今回はその膜に接触してから発動させる念動魔術ではない。


両者で決定的に違うのは攻撃に触れるのか、触れないのか。


言葉による非接触の念動魔術は、マークスの呪いの弾丸を完全に掌握し、狙撃主の元へと軌道を変更。


返ってきた呪いの一撃から逃れようとマークスは額から大汗を掻きながら疾駆したが、レルゲンの一言で心が折れかける。


「その弾は"どこまでも"お前を追い続ける」


「どんな魔術だ…!いや、そんな物は魔術では無い!それこそ呪いと同じだ!」


「なんでもいいさ。精々弾より速く動き続けて逃げ惑うんだな」


部屋から飛び出して尚も弾から逃げ惑うマークスは、本当の意味で死の呪いを打ち込んだのだ。


当たれば間違いなく傷の深さに関わらず致命傷になる。


マークスの脅威は完全に去り、横たわっていたスティルに声をかける。


「この代償は大きいぞ。命の恩人にお前は何を差し出せる?」


スティルは満面の笑みを浮かべ、本心から感謝の言葉を返した。


「ありがとう僕の騎士君。やはり君は僕の研究に相応しい人材だよ。

だからお礼に、僕の傑作を是非見てもらいたいんだ。ここにいる全員に」


「どういう意味だ」


スティルは指をパチンと鳴らすと、部屋の端からいくつも銃に似た何かを出現させ、先端からレーザーのような物を照射する。


床にレーザーの光が辺り、真円に近い何かを描き始める。


(これは、魔法陣か…!)


ディシアを除く全員の足元に、光で出来た魔法陣が描かれてゆく。


危険と判断しすぐに飛び退く様に移動したが、足元には既に追尾した魔法陣が待ち構えている。


まるで愛玩動物を眺める様な目つきで、スティルは両手を頬に擦り寄せながら声高く宣言する。


「絶対に逃さないよ」


部屋を飛び出そうと入り口に目をやったが、そこには既に完成した転移魔法陣が鎮座している。


「やってくれたな、研究者」

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