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46話 チグハグなやり取り

魔王軍の研究者であるスティルは、複数の魔力が階段を登ってくる気配を感じ取っていた。


「来たか…僕の、僕だけの騎士君。ところで助手はどうしてここにいるんだい?」


「私だって手のかかる上司に振り回されているんですから、死ぬのなら勝手に死んで下さい」


魔王からの命令でスティルのお目付け役として派遣されたハーディは、勇者一行が向かってくるのを心底待ちたくはなかった。


出来るならこの頭のネジが数本飛んでいる研究者を置いてどこか安全な所、もとい魔王の近くで心を落ち着けたいと考えていたが、その魔王からの命令とあれば従う他ない。


「いつもの五割り増しで辛辣だね?まぁいいさ、君は魔王様の下へ行きたいようだが、これから起こることを考えれば、君は魔王様よりここにいた方が安全だと思うがね」


「どういう意味ですか?」


「見ていれば分かる。君は勇者がここに来るまでの間に紅茶でも入れてきてくれないか?

こっちにまで緊張が移ってきそうだよ」


「そのまま帰って来ないかもしれませんよ」


「いいや、君はまたここに戻ってくる。そうしなければ後々どうなるか分からない君じゃないだろう?」


「嫌な人」


「はっはっは、僕は君のような悪魔っぽくない人間臭い、臆病な所は美徳だと思っているよ。

さぁ、そろそろ勇者…いや騎士君がやってくる。


ここまでの修羅場を何度も潜ってきた彼らは強敵だ。だけど、僕らはここに余裕の笑みを迎えて待っていようじゃないか」


それ以上の口答えはせず、ハーディは言われた通り紅茶を入れにその場を離れ、


楽しそうに椅子に座りながらゆらゆらと前後にリズムを刻んでいる研究者から距離を取るのだった。


「ご苦労様。やっぱり君は優秀だね」


「紅茶を淹れるだけで部下を優秀と褒めるのは、寧ろ馬鹿にされているようで不愉快です」


「いやぁすまない。これは命令に忠実な君を思っての事なんだ。

どこぞのお馬鹿さんが独断で先行してクラリス様に粛正された時とは正反対だからね」


「あの狂犬と比べられましても困ります」


「それもそうだね。悪かった」


全く感情の乗せられていない謝罪を返すと、また面倒な問答に付き合わなければならなくなるのは必然であるため、ハーディは黙って階段から響いてくる足音に意識を向けた。


レルゲン達がスティルの待つ階まで上がると、椅子と長机が用意されて優雅に茶を嗜んでいる悪魔を視界に捉え、武器を取ろうとする。


すぐさま戦闘体制に入るレルゲン達を見て、スティルは慌てて両手を上げて戦闘の意思はない事を示した。


横で見ていたもう一人の悪魔は、両手を上げる悪魔を見て何やら疑念の籠った表情をしていたが、それを掻き消すようにスティルがレルゲン達に椅子に掛けるように促した。


「どういうつもりだ?ここまで昇って来た侵入者とお前は茶でも啜る気か?」


「そうだとも!僕の騎士君。僕は君にずっと会いたかったんだ。

"僕自身に戦闘の気は一切ない"んだ。信用出来なければ呪いの契約を君と結んでもいい」


「何だと?俺達はお前らの親玉である魔王を討ちに来たんだ。


ここで呑気に時間を潰している暇は無い。

それに、最初から俺達を狙っている狙撃手が攻撃してくるとも限らないしな。


お前に戦闘の意思が無くても、他のちょっかいはどうにか出来ないはずだ」


「いいね、君は頭がいい。

だからこそここでまずは話し合いをする必要があると僕は思う。


そもそも君達は何故ここまで辿り着くまで頑張れているんだい?


家族、友人?それとももっとスケールの大きい国の話かな?」


くどい話を聞いていても立ってもいられなかったマリーがレルゲンを制してスティルに向けて釘を刺す。


「それは貴方達が一番良く分かっているはずよ。


秘密裏にヨルダルクを操ってとんでもない殺戮兵器を作って、それから色々な国に向けて先兵を派遣して。


私達はこれ以上被害を出さない為にあなた達を止めに来た」


「使命感だけでここまで来れるとはまた素晴らしい意志力だ。その意志力の高さ故にここまで誰も欠けずに来られたとも言える」


「違うわ。私は、私達はただ皆んなを護りたいからここまで来たの。

そんな簡単に片付けられると思わないで欲しいわ」


「僕はただ君達の旅路を称賛しているだけさ。ハーディ。僕はまた何か変な事を言っているのだろうか?」


急に話を振るなとハーディはスティルを睨んだが、諭すように答えた。


「それが分からないから周りからいつも煙たがられているのですよ」


「それは心外だな。で、いつになったら君達は席に着いてくれるんだい?

折角ハーディが入れてくれた紅茶が冷めてしまうよ。それはハーディに対して失礼だとは思わないのかい?」


話が通じるのかそうで無いのか分からないが、戦闘の意思がないというのは今の言動からも真実であると分かった。


ディシアがレルゲンに短く耳打ちをして一度席に情報を引き出せるかもしれない旨を伝え、渋々椅子に腰掛けることに。


「少しでも害意のある仕草を見た瞬間に、後ろにある剣でお前達の首を跳ねる。

それでもいいなら話し合いとやらに応じよう」


レルゲンがスティルとの対話を承諾すると、この頭のネジが何本か飛んでいる研究者は表情が忽ち明るくなり、全員分の椅子を自ら引いて丁寧に座らせた。


「さぁ、話し合いを始めよう」


椅子に座り直した研究者は、満面の笑みを浮かべて語り始める。

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