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4話 初めてのダンジョンと赤い魔法陣

『ここがダンジョン…』


ダンジョンとは魔物が無限に湧く「魔力溜まり」

が発生した時に出現するもので、建造物の様に規則正しい塔の形状をしているものや、今回レルゲン達が訪れた洞窟のような形状など姿、形は多岐に渡る。


今回訪れた洞窟型のダンジョンの周りは長い木の根が上部から枝分かれしながら垂れ下がり、入り口に見える洞穴は岩で囲まれている。


周囲は鬱蒼としたコケで覆われており、森の匂いが一段と強い地点だ。洞穴からは濃密な魔力が風と共にレルゲン達へ向けて流れ込んでおり、魔力感知には既に小型の魔物が引っかかっていた。


『結構な数がいますね』


セレスティアがやや緊張気味に呟く。

レルゲンの魔力感知よりセレスティアの方が感知範囲が広いため、人一倍慎重になっているのも頷ける。


『中級ダンジョンらしいが、ちゃんと魔力濃度が高いな。これは注意して進んだ方が良さそうだ』


『二人とも気持ちはわかるけど、少し気負いすぎじゃない?』


『そんなことないぞ、この狭さでその神剣のサイズは少し苦労しそうだ。

神剣はこっちで預かるから、それまでこっちを使ったらどうだ?』


『嫌よ__狭いところは確かに無理だけど、広いところに出たら働くから勘弁して』


『お守りの意味も込めてショートソードでも持ってくればよかったな』


洞穴の中を覗いてみると、段々と降っていく構造になっているようで、横幅は三、四メートルといったところ。


中は真っ暗で照明もない。

サンライトが使えるセレスティアがいるから問題はないが、もし術師のいないパーティの場合は照明弾が必須になるだろう。


セレスティアがサンライトを発動し、洞窟の奥まで優しく指で押すことで移動させる。


光が奥まで行くと、魔物がいる。

見えたのはアリ型の魔物で名をパルシヴァル・アント。一体のみなら二段階目の魔物だ。

しかし、顎の力のみの破壊力だけ見れば三段階目にも引けを取らないだろう。


実際のアリの様に群れで行動する訳ではないが、複数で行動する事が多く報告されている。


『セレス。広い所に出るまでは遠距離攻撃をメインにして捌こう。


俺たちはいつも広い所で戦っていたから移動が制限されると事故を起こすかもしれない』


『分かりました。火の魔術で焼きますか?』


『いや、王立図書館で見た事がある。空気が淀んでいる場所での火は危険らしい。


俺も詳しくは覚えていないが、息ができなくなると書いてあった』


『ではこちらで行きましょう。フロストジャベリン!』


水から氷に性質変化、更に鋭利な形状に変化させるオリジナルの魔術を発動させる。


ナイトとの戦いで見せたマルチ型のフロストジャベリンなら上位魔術に分類されるが、今回は一本のみの牽制技に近い。


繰り出された氷の中級魔術がパルシヴァル・アントの頭部に命中し、魔石へと還っていく。


しかし、魔力感知には未だに複数のパルシヴァル・アントと思われる反応があり、一匹ずつ倒していると、更に新しい魔物がリポップしてくる可能性がある。


手早く、そして出来るだけまとめて一気に魔石にするのがベスト。


ここでレルゲンがパルシヴァル・アントを念動魔術で持ち上げ、セレスティアがフロストジャベリンを連続で一本ずつ射出し、一箇所に纏められた魔物達は次々と魔石へと還っていく。


細い通路に溢れていた魔物達は一掃され、奥へ進んでいくと、開けた地点へ出る。


セレスティアがサンライトを複数出現させ、ようやく自分の出番かと体操をしながらマリーが準備する。


レルゲンはマリーの邪魔にならない様に浮遊剣で魔物の注意を引く程度に牽制し、懐がガラ空きになった魔物達をマリーが屠っていく。


次々と魔石が生成される様はさながら流麗なダンスを踊っている様だ。


『レルゲン、セレス姉様!どんどんこっちに引きつけて!』


遠距離からレルゲンとセレスティアがマリーに魔物が集まるように牽制の雨を強めていく。


連続剣の加護が発動する。どうやら複数相手でも攻撃が当たり続ける限りは加護が継続されるようだ。


マリーの踊りに見える剣劇は、集まった全ての魔物を一人で討伐してしまう。


『そんなに動いて疲れないのか?』


『全然!ようやく身体が温まってきたところよ』


『でもこの先はまた細い道がいくつかあるから、マリーはまたお休みだぞ』


『む…仕方ないわね』


『まあまあ、また剣が自由に振れる所に出たら譲ってあげますから』


細い通路はレルゲンとセレスティアが、大きい広間はマリーが担当して順調に進んでいき、ダンジョンの最深部へ到着する。


台座のような所にはギルドが用意した印が置いてあるが、他にも気になるところがある。


赤い塗料で描かれている様に見える魔法陣が地面で光っている。


今までに何度も見た魔法陣とは別種だが、象形文字に見える絵がない事から単一の効果が付与されているのだろう。


しかし、単一の効果にこれ程までに濃密な魔力を感じる魔法陣が必要なのか?


レルゲンは疑問を持ち、しばらく観察していたがセレスティアが引きつけられる様に魔法陣へ触れようとしていた。


『セレス、それに近づいちゃいけない。多分だけど想定外の事象だ』


ギリギリの所で我に返ったセレスティアは『はっ…』と声を出して慌てて手を引っ込める。


『すみません。勝手に手が伸びていました』


少し心配になったレルゲンはセレスティアの手を取って大丈夫か確かめる。

どこにも異常がないのを確認し、足早に帰還することを提案する。


『一旦印を持ち帰ってこの魔法陣を報告しよう』


『そうしましょう』


『最初の目的は印を持ち帰るだけだったものね』


マリーが一滴の汗を拭う。


(セレス姉様がレルゲンに止められなければ私も触ろうとしていた…)


一種の共感覚に近い何かがマリーとセレスティアに同時に起こったことは確かだ。


不思議なこともあるものだとそれ以降は深くは考えなかったマリーだが、後にこの感覚は気のせいではなかったと知る。


入り口まで回収した魔石を袋に詰めてレルゲンが運んでいく。予想していたよりかなりの量がパンパンに入っている。


魔石の換金とクエストの達成の印をハピアに渡して、見事レルゲン達はBランクへ昇級を果たした。

しかし、魔法陣のことをハピアに尋ねると


『初めて聞く話になります。今まで私が長年あのダンジョンへ向かう冒険者達から話を聞いていますが、印がある最深部に赤い魔法陣があると報告が入ったことはありませんでした。


今の話と関係あるかは分かりませんが、換金で持ってきていただいた魔石の量も平均を大きく上回っています。


私の方からクーゲルギルド長には報告を入れさせて頂きますので、追って連絡がありましたらまたこちらからレルゲン様にお伝えいたします』


『あぁ、よろしく頼む』


その日の夜はBランク昇格のお祝いとして、マリーの部屋で食事会が開かれることになった。


ハピアに仕事帰りの冒険者は何を飲み食いしているのかと聞くと


『やっぱり一番は肉とエールですね!』

と力強く勧められたので、今夜は肉とお酒が多く振る舞われた。


マリーとセレスティアは普段人目を気にしてこういった会では余り量は飲まないし、食べもしない。


それではせっかくのお祝いが勿体無いと感じたレルゲンは、一部の使用人のみに帯同を許して関係者の中でもほぼ人がいない環境をセッティングした。


これにはマリーもセレスティアも嬉しかった様でレルゲンにお礼を言っていた。


『普段は満腹になることはないから、思う存分食べられるわ』


『そうですね、中々満足するまで食べる機会は少ないかもです』


マリーは何となくよく食べそうなイメージがあるが、セレスティアも沢山食べている。これは女王の遺伝だろうか…?


食欲が落ち着き、バルコニーの椅子に三人が腰を下ろす。


言葉は要らない。この充足感とも取れる感情のために冒険者稼業一本でやっている人もきっといるだろう。


立場上難しいのは分かってはいるが、またこうして三人で美味しいご飯を食べて夜風に当たりたいと考えるのは、贅沢な望みだろうか?

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