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42話 ダブルキャスト・マジック

「ダブルキャスト・マジック。ルミナス・バーナー」


セレスティアの持っている神杖の内部に、二重の系統が混ざり合うように渦巻く。


巨大な水晶部分から、一本のラインを描くように真っ直ぐ青い火が細く伸びてゆく。


大気を焼きながら一気にヴァネッサへ襲いかかるが、どこか余裕を見せながら。


「また魔術の攻撃ね!もう一度叩き切ってあげるわ」


先程と同じ容量でセレスティアの放った魔術を無効化しようと赤い両手剣を振り下ろす。


だが、青い炎は斬られるどころか寧ろヴァネッサが持っていた剣を溶かしながらなおも直進し、腹の中心付近大きな風穴を開けた。


傷口は大きく火傷を負い、ヴァネッサがくぐもった声を上げる。


「ぐっ、これは…!」


「そうです。今のは複合魔術です。

幾ら魔術を斬る事に自信があったとしても、私の魔術はもう斬らせません」


「舐めていたのは私の方だったわね」


ヴァネッサに開いた大きな風穴は、しばらく傷口を焦がし続けたが、焼けこげた部位を捨てる事で即時回復を可能にしていた。


ここで、捨てられたヴァネッサの一部をレルゲンが視認して、一つの仮説に辿り着く。


「なるほど。お前、スライムの類だな?

その剣も身体の一部から作っているんだろう?」


「よく分かったわね。

そう!私はキング・スライムのヴァネッサ・ヴァロネッサ。


ちなみにこの服もまた私の一部。だから、この通り治す事だって出来る」


「お前の異常な再生力には引っかかっていたが、さっきお前が捨てた一部を見てピンと来たよ」


自分が投げ捨てた一部が床で水状に溶けているのを見てから、レルゲンとセレスティアに向き直る。


「貴方、いい頭を持っているわね。

スライムなんてと舐め腐った挑戦者を何人もくびり殺してきたのよ?


だけど、始めから相手の油断を誘っている戦い方は、あまりにも単調な殺し合いだったわ。


だから、戦うのは私と互角にやり合える可能性を持つ者のみに限定して数百年。

ようやくあなた達に巡り会えたってわけ」


嬉しそうに自分の身体を抱きしめながら、誘うようにヴァネッサが身震いする。


およそ相手に、そして戦闘中にするとは思えない仕草に不気味さを覚えるが、レルゲン達も負けていない。


「セレス、複合魔術は後何発撃てる?」


「残弾数は気にしないで下さい。

魔力量の基礎練習は欠かさずやっていましたから」


レルゲンは少し笑って、自分よりもセレスティアに攻撃の要になってもらった方がいいと考え、頼もしい相棒に声をかける。


「俺も援護する。

スライムの延長進化なら少なくとも熱を持つ魔術なら効果があるはずだ」


火の専門家とも言える小さな純精霊を呼んで、セレスティアが放つ魔術の道を開くと決心。


「待ってたよレル君。セレスちゃんの道を私達で作ってあげようか!」


「ああ!」


大量の火の上位魔術を背後に出現させ、背後に待機させる。


余りにも多い数にヴァネッサは息を呑んで額から汗のような物を垂らした瞬間、レルゲンとウルカの物量に物を言わせた連続射出が襲いかかる。


しかしヴァネッサは動かない。

苦手としている筈の火の上位魔術の連続射出を、両手を広げて全て受け止める。


するとヴァネッサの身体が、少しだけ大きくなっている気がした。

効果が薄いと考えたレルゲンはすぐに射出を止めて様子を見ると。


「ご馳走様。だけどもう少し撃って欲しかったわね」


「どういう事だ。スライムは火が苦手なはずだ」


「私はキングのスライムよ?

苦手系統を克服していない筈がないじゃない。


そっちの魔術師の初撃を弾いたのは単純に吸収出来る量が少ないのと、無駄な時間を無くすためよ」


「そうか」


レルゲンは素早く氷華に持ち替え、遠距離から氷結攻撃を放つ。


床を氷が這うように伸びて行き、ヴァネッサの捉えようとしたが、垂直に跳ねるように飛び上がり回避する。


「その攻撃は前に見たわ」


ここでレルゲンが魔力を氷華に乗せ直し、念動魔術で氷の軌道をヴァネッサのいる空中へと変える。


「あら?」


氷の塔が出来上がり、再びヴァネッサの動きを封じる。


「今だ!セレス!」


「ダブルキャスト・マジック。ルミナス・バーナー」


下半身を固定されて逃げることは出来ない。

完璧なコンビネーションが成立したが、


ヴァネッサは動ける手を前にかざし、スライムで作った盾を前に重ねるように三枚、展開して防御体制を取る。


セレスの複合魔術が一枚目と二枚目の盾を容易く貫通するが、最後の一枚で威力が大きく減衰される。


それでもヴァネッサの頬を焼いて裂いたが、持ち前の再生力ですぐに修復。


「厄介な術を!」


再び複合魔術を放とうとしたが、吸収されなかったのは術の対応が出来ていないから。


乱発すれば、手札を無為に失う事になる。

幾ら複合魔術に入門したとはいえ、まだ手数はさほど多くない。


("新しい複合魔術"がいる…!)


セレスティアが発射するのを躊躇ったのを感じ取ったレルゲンは、すかさず黒龍の剣に持ち替えて光線攻撃を放つ。


「オオオオオ!!!」


ヴァネッサは再び盾を先程よりも多い五枚を展開し、青く光る光線を迎える。


一、ニ、三枚目でようやく少しの間だけ耐えたが、これも安易と破壊。


四、五枚目と飲み込んでいき、遂には本体をも丸ごと消し飛ばさんとする攻撃が直撃する。


「やっぱりその技は厄介ね」


「どうやら一度に吸収出来る量を超えると傷になるようだな」


「だけど、私を全て消し飛ばす程の威力には少し足りないわよ」


「ああ、だからこそセレスがいるんだ」


レルゲンの光線攻撃で氷の拘束から解放されたヴァネッサは地面にようやく降り立ち、宣言されたセレスティアを見る。


「ダブルキャスト・マジック。フラッシュ・バインド」


発動と同時に縄状の紐がヴァネッサを縛り上げる。


「スライムの私に物理的な拘束が効くわけないでしょう?

こんな物すぐに取り込んでやるわ」


完全に取り込んで強力な体液で分解しようとした瞬間、セレスティアが片目を閉じてパチンと指を鳴らす。


すると、ヴァネッサの身体を強力な電気が走り、身動きが出来ないほど全身が痺れた。


「こ、こん…な、もの!」


動きが封じられても無理矢理に身体を動かそうと、美しい女性の姿をしていた見た目が大きく崩れる。

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