41話 再びの戦い
魔王軍幹部候補のフィルネルを討ってから、更に上階を目指して上がって行く。
すると、何も無い大広間に抜ける。
「ここは随分と広い部屋だな」
セレスティアは部屋の装飾から、中央王国でどこか見覚えのある場所に感じていた。
「そうですね。この部屋は…やはりパーティで使われるような部屋でしょうか?」
「確かに、飾ってある石像やカーテン。窓の大きさなど似ている点は多いですね」
ディシアも中央での生活は長くないものの、よく王国内を散歩していた経験からセレスティアの言っている内容に賛同する。
警戒が若干薄れた時に今度は弾丸ではなく、一人の女性のような見た目のドレスを見に纏った者が現れる。
セレスティアやレルゲンの魔力感知を最も容易くすり抜けた隠蔽魔術の精度は、その者の強さの格を象徴している。
「よくここまで辿り着いたわね!レルゲンと勇者諸君。
まさかジャックを倒してしまうなんてちょっと驚いたわ。
それに倒したのはレルゲンではなく金髪の貴女。マリー、だったかしら?
どんなカラクリを使ったのか気になるわ」
マリーは真っ向勝負でジャックを討ち倒した事実をまるで信じていないヴァネッサを睨みつける。
「レルゲン。あの女、私がやってもいい?」
「さっきの傷もまだ完全には癒えていないだろ___抑えてくれ。
今回は俺がやる、お前もそうなんだろ?魔王軍幹部のヴァネッサ」
「あら、そちらから来てくれるなんて、やっぱり私達相性がいいわ」
上機嫌な表情を見せるヴァネッサに、レルゲンは嫌そうな顔をする。
その表情を見たセレスティアが、一本前に出て神杖を地面に突いて戦意を見せた。
「私も戦います。最近は皆さんの戦いを見ていましたから」
「分かった。ダンジョンでやった掃討戦の時のように行こう」
「どうせなら全員でいらっしゃいな。
あなた達がどんなに強くなっていようが、私を討ち取れるとは思えない。
まさかとは思うけど私の事舐めているわけじゃないわよね?」
空気が一瞬にして冷たくなり、室内であるにも関わらず窓が内側からの圧でガタガタと揺れる。
「まさか___魔王軍幹部と戦うんだ。アンタの再生力には俺達二人と相性がいいってだけさ」
「あらそう。相性がいいなんて今まで一度も言われた事ないけど、一度戦ってまだ生きているんですもの。期待させて貰うわ」
「その期待。後悔しないことですね」
セレスティアが煽ったが、ヴァネッサが更に煽りで返す。
「私より強い相手に会えるなら後悔なんて全くないわ。むしろ会ってみたいわ、そんな王子様と。
貴方がなってくれるのかしら、レルゲン?」
「絶対に断る」
会話を切り上げてレルゲンがヴァネッサに向けて走り込んでいき、二回目の勝負が始まる。
手には炎剣を持ち、始めからブルーフレイムを纏わせる。
青く光る刀身は躱そうとしたヴァネッサのドレスを軽く焼いた。
「この勝負服。気に入っているのに酷いわね」
「そんなに大事なら着てくるな」
後ろに跳んだヴァネッサに再度近づいていくが、レルゲンよりも速くセレスティアの魔術が横を通り過ぎた。
火の上位魔術がヴァネッサに襲いかかるが、何処からか取り出した両手剣を握り、器用に魔法を斬り伏せた。
「面白い防ぎ方だ」
魔法は斬れるものというイメージが出来なかったためやったことはなかったが、いざ目の当たりにすると今までの常識がひっくり返る。
「やった事ないの?
魔法斬りは剣士の必須科目よ。私は本来剣士でないけど出来るくらいなのに」
「今まではずっと近接戦闘が多かったからな。だが、それで落ち込むセレスじゃないぞ」
単一の魔術ではどの系統の魔術を使っても恐らく防がれる。ならばどうするか?
セレスティアが殻を破る時が来た。