39話 相反する属性
最後の一撃とばかりに大きく振りかぶってマリーに迫る剣は、首元を捉える寸前に聖剣が割って入った。
「召子…!」
「後は任せて下さい」
「今度はそっちのお嬢さんが相手になってくれるのかい?」
「よろしくお願いします」
「いいぜ。誰が相手だろうが、俺の魔術は打ち破れない。すぐに終わらせてやるよ」
フィルネルが召子に迫り、一気に片をつけようと気配を幾つも出現させて撹乱しようとする。
即座に発動していた〈魔力眼〉を切ることで、フィルネル本体の位置を正確に割り出した。
幻影にも似た気を込められた塊は、真っ直ぐに召子の身体と接触した。
だが、召子はまるで気づいていないかのようにそのまま影を突っ切っていき、本体に真っ直ぐ進んでいく。
「おいおい…」
すぐに幻影が全く意味をなしていない事に気づいたフィルネルは、慌てて召子の踏み込みに合わせて一撃を防ぐ。
(あっちにいる金髪のお嬢さんよりも多く囮を出したのに、真っ直ぐ本体である俺の下まで来たのは偶然か?
いや、違うな。あの目はそうじゃない。
もっと確信めいた何かがある気がする)
もう一度フィルネルが召子に向けて三つの影を出現させて、本体は影の後ろを追随する。
影で出来たフィルネルの幻影が召子に斬りかかったが、それでも召子は幻影の攻撃を防ぐ素振りは見せず
時間差で攻撃する一撃を聖剣で完璧に防いだ。
「手段は分からないが、確実に俺の魔術を看破する方法を持っているな?」
「フェン君!」
鍔迫り合い状態ならフェンの一撃も届くと考えた召子はフィルネルの話には付き合わず、パートナーを呼んだ。
位置が割り出されている状態では危険と判断し後ろに跳ぼうとしたが、
召子が上手く鍔迫り合いから剣を滑らせて逃げられないようにロックをかけて固定する。
「離せ…!」
力任せに引き抜こうともがくが、ガッチリと固定された聖剣を握る召子は動かない。
フェンがフィルネルに迫り、自慢の前足を使った切り裂き攻撃を繰り出す。
だが、数メートル手前から攻撃をしたフェンの前足は空振りに終わった。
「フェン君?!」
召子が動揺したことで固定されていた聖剣が緩み、フィルネルは自由な身となりすかさず距離を取る。
「やっぱり俺の魔術は発動しているよな」
「どうしちゃったのフェン君?」
「ヴァフ!ワン、ワン!」
「えっ?攻撃は当たっているはず…?
そっか、魔術で本体がどこに居るか分からなかったんだ」
落ち込んでいる様子のフェンを少し撫でて、下がるように指示を出す。
「ごめんねフェン君。マリーさんを護ってあげてね」
尻尾を丸めながらもマリーの下へ駆け寄るのを見てから、召子は再びフィルネルを睨む。
「怖いねぇ…そんな目で見つめないで欲しいよ」
「貴方の魔術はうちの子には効くみたいですけど、私には効きませんよ」
「そうだな。それは見ていれば分かる。
だからってもう勝った気でいるならそれは違うぜ」
「他にも何か手があると?」
「いや、俺が持っているのは幻惑系の魔術だけだ、後はコイツだけ」
手に持つショートソードを指さして、大袈裟にポーズを取る。
「そうですか。私もフェン君やアビィちゃんがいないならこの剣だけです」
「勇ましいね。俺の言葉が嘘だと思わないのかい?」
「嘘なんですか?」
「いや、本当さ___参ったね。駆け引きを考えているはずの俺が後手に回っている。
周りから真面目な性格だって言われてたりする?」
「いいえ、普段はもっと貴方みたいに適当な所ありますよ」
「なるほど?ならスイッチ入れてるってことね」
ここで問答は終わり、再び空気がピリついていく。
始めに動きだしたのは召子だった。
合わせてフィルネルも迎撃のために前へ走り出す。
「やぁぁぁあああ!!」
召子が気合いの乗せられた声を上げると、聖剣の腹が大きくなり、一撃の破壊力が増大する。
それを見たフィルネルは更にショートソードに込める魔力量を上げて対応し、二本の剣が打ち合う。
火花散る戦いが繰り広げられる。
召子は一撃の威力を、フィルネルは手数の多さを活かした攻防のやり取りが始まり、主導権は手数の多いフィルネルが握った。
「頑丈なのは大したもんだが、受けてばかりだといつになっても俺には勝てないぜ」
「そんなこと分かっていますよ」
ショートソードの取り回しの良さを活かした連続攻撃が召子に襲いかかるが、
徐々に集中が深くなっていき、連続攻撃を仕掛けてくるフィルネルの刃先までしっかりと視認できるようになっていく。
荒っぽい受けから一転、受けやすい角度に調整された洗練された防御体制に変わっていく召子を見て、フィルネルは焦りの表情を見せ始める。
最初とは別人レベルに進化していく召子を見て、長期戦の戦いは不利と判断、一層攻撃の速度が上がっていく。
周囲の空気を巻き込みながら、二人の背の高さ付近まで風が舞い上がり始める。
フィルネルのショートソードが白く光り始め、その様子を見ていたレルゲンは驚いた。
(あれはマリーやセレスが時より見せる聖属性の光?
だが、コイツら悪魔は間違いなく属性に当てはめるなら、召子の持っているスキルの中にもある悪属性のはず。
悪魔が聖属性を武器に纏わせることなんてあるのか?)
心の中で疑問に感じながらも、更に観察を続ける。
召子は気づいていないが、間違いなく相反する属性を両立させていることは確かだった。