38話 殺気の塊
呆れた様子で肩をすくめて言葉を返す。
「それはちょっと私達のことを舐めすぎなんじゃないかしら」
「その通りだ。認識を改めて、だからここからは本気でやらせてもらうとするよ」
一気に魔力がどんどんと膨れ上がって充実していくフィルネルは、ショートソードに魔力を流し込んでいく。
(目で見て判断しているようでは正確な位置が掴めない。でも、ジャックとやった時のようにすれば…!)
マリーは一度深呼吸をしてゆっくりと目を閉じる。同時に神剣へ白い光が纏われて魔力と同時に覚悟を込める。
空気がヒリついてゆき、視界をわざと閉じたマリーを見たフィルネルは疑問に思うが、すぐに一つの答えに辿り着く。
(あのお嬢さん、狙ってかは分からないが、自らの五感の内で一番効果の高い所手段を選択しているな)
目を閉じたままのマリーに向けて、フィルネルが走り込みショートソードを振り抜いた。
体重が十分に乗せられた一撃は、ショートソードとは思えない程の重さとなってマリーの首筋目掛けて放たれた。
「シッ!」
だが、首筋に刃先が当たる瞬間、マリーの神剣が吸い寄せられるようにショートソードの軌道の延長線に構えられて完璧に防いでみせた。
「なんだと?」
踏み込んだ時の足が地面を蹴った時や、ショートソードが風を切る、音を頼りに攻撃を防がれたのかと考えたフィルネルはすぐに攻撃方法を転換する。
空中に音もなく浮かび上がり、瞬間的に速度を上げてマリーの背後を取る。
背後からの一撃はマリーの背中を斬らんと狙い澄まされたものだったが、神剣を背後に構えてまた防ぐ。
「音ではないのか…!」
「今度はこちらから行くわよ」
すかさず距離を取るために後方へ大きく跳んだが、着地点には既にマリーが先回りしている。
(速い…!)
フィルネルは上体を無理矢理捻るように回転させ、下で待ち構えているマリーに向けて上段からの一撃で応戦しようとする。
しかしマリーはフィルネルに攻撃する素振りだけ見せてフェイントをかけ、更に位置を移動して撹乱する。
完全に隙を晒したフィルネルに神剣で斬り込むと、今度はしっかりと手応えがあった。
肩で息をしながらも、斬られた背中を急いで修復しようと意識を集中しながらも、時間稼ぎのために言葉をかけた。
「随分と面白い捕捉のやり方をするね」
「このまま一気に終わらせてもらうわ」
「こんな面白い戦い、そんなにすぐに終わらせるのは勿体無いとは思わないかい?」
「全く思わないわね。楽しむために戦っている訳じゃないもの!」
マリーは最後の一撃とばかりにフィルネルに肉薄していったが、背後から狙われていると感じすかさず後ろに振り返って神剣を振る。
「なっ…!」
しかし、そこにはフィルネルの姿はなく、混乱したマリーは目を開いて確認する。
マリーの様子を見て確信した様子のフィルネルは、笑みを見せながら治療を終えた。
「やっぱりだ。お嬢さんは俺の殺気に反応して位置を割り出しているな。
わざわざ余計な反応をしないように目を閉じる徹底ぶりには脱帽だが、タネが割れればあとは簡単だ。
今みたいに俺の気を固めた魔術を発動すれば、もうその回避方法は使い物になるどころか足を引っ張るぜ」
それでもマリーは一度成功した方法で戦う事に拘った。
だが、フィルネルの幻惑を超えた魔力の幻影とも言える魔術に翻弄されていき、
一つ、また一つと傷が増えてゆく。
完全に形成が逆転した所でマリーは焦りを感じていた。
(対応策が思いつかない…!魔力を見ないように出来ればこんな奴!)
「くっ…!」
「終わりだぜ、お嬢さん」