表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

162/249

35話 侵入

橋の上を駆けて進んでいくと、赤い閃光が再び一瞬だけ光る。


今度はレルゲンも攻撃主と思われる場所を余裕を持って割り出す。


「そこか」


まだ数百メートルもある距離からの正確な狙いは、またも召子に絞られて発射され


着弾の寸前にレルゲンの念動魔術によって強引に軌道が変更される。


またも明後日の方向に進んで行ったと狙撃手は弾から目を切ったが、狙撃ポイントの開口部に大きな音を立てて弾が壁にめり込んだ。


「おぉ?こりゃさっき撃った弾か?弾くだけじゃなく軌道変更も出来るのかい。怖いねぇ…」


大雑把とはいえ位置を割り出された狙撃手は城内を素早く移動して屋内戦の戦いに切り替える準備を始める。


狙いは勇者ただ一人。しかし、魔術が使えない勇者が今の弾道変更を成し得たとは考えづらい。


今までの勇者の中に、聖剣の〈スキル〉で遠距離狙撃を防ぐ術があった記録が無いことから、


一緒にいたパーティの誰かが魔術でカウンターを仕掛けて来たということだ。


ここまで頭の整理をしながら狙撃手は魔王城を移動して次の狙撃ポイントまで到着する手前まで来ていた。


追撃がまだ来ないと察したレルゲンは、他にも攻撃される可能性を考えながら走る速度を少し落とし警戒して城へ近づいていた。


「多分攻撃して来た奴は今移動している。

今のうちに出来るだけ近づいておこう」


ディシアはレルゲンが念動魔術で浮かしながら進んでいき、もうじき橋に掛かっている簡素な門を抜ける。


門を潜った瞬間、大型の魔物が複数ポップしてレルゲン達の行手を阻んでくる。


「動くな」


レルゲンが強烈なイメージを言葉に流し込んで発声すると、魔物達は呼吸する事すら許されない金縛りにあったような状態になる。


そのまま魔力消費をせずに魔物達をやり過ごし、硬く閉ざされた魔王城の扉に向けて手をかざす。


「開け」


扉の中から何重にも鍵が掛けられている仕掛けが、重低音を響かせながら一つ、また一つと鍵が外されてゆく。


中で待ち構えていた悪魔達は、真正面からやって来た愚かな勇者一行を罠に嵌めながらじっくり料理するつもりだったが、


まさか本当に真正面から何かしらの手段を使って鍵を開け、中に入ろうとするレルゲン達に焦りを感じていた。


「ここはすぐに侵入される!迎撃体制を取れ!

入った瞬間蜂の巣にしてやるぞ」


戦闘員の悪魔達が魔力を高め始め、手に持っている小さな魔道具に魔力を注入していく。


魔法陣が術式代わりになり、魔力を込めただけで物質が構築される。


「第一部隊、構え!」


悪魔の各々が魔道具を構えてレルゲン達の侵入に備える。


最後の内鍵が開けられ正面の大扉が開いてゆく。


同時に7つの影が場内に姿を見せると同時に、悪魔の隊を指揮している一人が挙げていた右手を勢いよく下ろした。


破裂音にも似た音が耳を叩いた瞬間に、レルゲン達へ一斉に棘のような物体が四方から襲いかかってくる。


しかしレルゲン達は焦った様子を見せず


ただじっとして攻撃がすぐに開始されていると感じながらも、冷静に相手の悪魔の数を見回して捕捉していく。


物体は強引に軌道を曲げられて上下左右に自動的に散っていったが、次第に壁を張るように空中で速度を完全に殺されて固定されていく。


「お返しだ」


レルゲンが一言だけ発すると、物体の先端が反転して発射された下の位置へと戻る。


発射された時の速度よりも倍増された速さで放たれた棘は、容易に壁を貫きながら魔道具を粉砕しつつ攻撃した悪魔の指を消し飛ばしてゆく。


奇襲作戦が完全に失敗に終わったと判断した指揮官は撤退の合図を出し、指が無くなった悪魔達の魔力反応が遠ざかってゆく。


いざこれから本格的に城攻めをするつもりだっただけに、解放した武装達が残念そうにしている気がしたが


飛来して来た物体が突き刺さっている壁からレルゲンが念動魔術で浮遊させて構造を確認する。


「これは、鉄の塊か?」


「随分と早い撤退だけど、レルゲンの魔術は今の攻撃から見るに知られていないようね」


召子は少し悲観的にレルゲンが浮かせている鉄の塊を見ながら顔を青ざめた。


「逆にレルゲンさんがいなかったら、まさに蜂の巣になっていたんじゃ…それに…」


「この武器を召子は見覚えがあるのか?」


「はい。あの武器は恐らく私の世界で一番手頃な武器として、戦争に用いられていた銃というものだと思います」


「となると、魔王軍には召子の世界の技術を持った転生者か、


或いは過去の勇者側にいた転生者の技術を自分達なりにアレンジしているかの二択になるな」


よく見ると、棘のように見えていた物体は、螺旋を描くように小さな突起が施されていた。


レルゲンが貫通力を上げるために回転させる螺旋剣と構造が瓜二つで、殺傷力に特化しているとすぐに分かった。


分析する為に毒分離の念動魔術をかけてみると、やはりというべきか弾の表面に黄色い粉末が塗りこんであるようで、毒が施されている証明がされる。


例え掠っただけでも動きを封じる毒が全身を回り、魔術の発動さえ覚束なくなるだろう。


それが雨のように始めから降り注いでくるのは、過去の勇者の強さから今世の勇者を警戒してか、


それとも戦力担当の幹部であるジャックを退けた功績からくる警戒かははっきりしないが、


開戦した直後から全力で殺しに来ていることが如実に伝わって来ていた。


「相手の準備が整うよりも先に進もう」


穴だらけになった入り口の大広間を抜けて奥へと進んでいく。


すると、壁から壁に音が伝播しながら近づいてくるものが一つ。


即座に構え直すレルゲン達に、一発の弾丸が飛来してくる。


(何度やっても同じだ)


またも召子の眉間へ正確に狙われた狙撃は、軌道を大きく変更されて近くの窓を突き破り、外へと飛んでいく。


「今のでも駄目かい?

中々やるねぇ。これは骨が折れそうだ」


声だけがレルゲン達に響いてくるため、位置の割り出しは出来ないが、


飛んできた方向は近くの階段よりも更に上の階層からというのは反応出来ていた。


レルゲンが大きな声を出して狙撃手に向けて言い放つ。


「随分とコソコソ攻撃してくるじゃないか。

姿を見せたらどうだ?」


「いやいや、遠慮するよ。

近づかれたらそっちの勝ちは揺るがない。

でもそれは出来たらの話し。


いつ、どこから攻撃してくるかは分からない中で神経をすり減らしてくれると助かるねぇ」


そう言い残し、声の主は気配を完全に消して遠ざかってゆく。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ