25話 再開
レルゲン達は、魔王城を目指して奴隷市が開催されていた街を出て南下していた。
「次の街を見かけたらまた寄るの?」
マリーがレルゲンへ確認すると、レルゲンは首を振って否定する。
「魔王軍の幹部が出てきたってことは、どんどん魔王城へ近づいている証拠でもある。
物資も調達できたことだし、出来れば悪魔達が多く集まる街は避けて進もう」
頷き返す頃、奴隷市が開催された街からかなり離れた位置まで到達する。
十分な距離を確保してから念動魔術で飛び上がり、一気に距離を稼いでいく。
上空を飛んでいくと、進行方向の遥か遠い地平線から染み出るように白いモヤのような空に変わっていることに気づく。
「なんだ、あれは?」
レルゲンが空の変化に疑問を感じ、一旦その場で進むのを止める。
「白いモヤのようにも見えますが、何でしょうか?」
他のメンバーにも同様に白いモヤが地平線の先に見えているようなので、幻覚とはまた違った何かなのかはっきりする。
しかし召子はどうも違った物が見えているようで、目を細めて遠くを見つめていた。
「白いモヤってどれのことですか?」
「見えないか?俺達の正面の空は、割と広い範囲で見えていると思うが」
「うーん?あ!〈魔力眼〉で見てみたら確かに白いモヤが見えました」
召子以外の全員が驚いた表情をする。
生まれた時から魔力にずっと触れてきたレルゲン達は、自然と視覚と魔力からなる情報を同時に見ている。
つまり、魔力を全く持たない召子が〈魔力眼〉を使わなければ見えないもの。それ即ち
「あの白いモヤは魔力が視覚化した物か…!」
レルゲンは直ぐに高度を下げて、地面に降り立つと同時にその他に異常がないか辺りを見回して確認する。
安全が確保できてから、全員に魔力糸を飛ばして思念で話しかける。
(これは予想だが、あの白いモヤは言わば強い魔力が集まって出来た魔力溜まりみたいなものだと思う。つまり…)
(あの白いモヤを追っていけば魔王城が見えて来る…?)
マリーが返答すると、レルゲンが遠くにある白いモヤを見つめて
(恐らく…としか言えないが、これだけは言える。
魔力が視覚化できる密度の魔力が集まっていて、それが俺達の認識を狂わせている)
技術担当のディシアも魔力を目に集中しながら、白いモヤが微かに下から上空へと伸びているのを見ていた。
(白く見えるほど濃密な魔力という事は、やはり魔王城が近くなっている私も考えます)
頷き返し、徒歩での静かな移動に制限される中、レルゲン達は進んでいく。
すると、岩石地帯が続いていく中で岩をくり抜いたような、人工物と言えるだけの加工が施されている入り口が現れる。
「ここに来て人工的に用意された入り口か…」
「入るの?」
マリーがやや警戒しながらもどうするのか尋ねるが、レルゲンは消極的だった。
「いや、これは明らかに魔王軍が用意した物だろう。俺達がヴァネッサを退けた時から向こう側には存在は知られているはずだ。
ここは入らずにそのまま進みたいな」
しかし、ここでセレスティアが待ったをかける。
「レルゲン。私の魔力感知に一つだけ知っている魔力があります」
「知っている魔力?もしかして」
「はい。アッシュだと思われます。場所はこの入り口の奥に」
レルゲンは召子の顔を見て、二つの選択肢があることを伝える。
「召子。アッシュと戦うかどうかは君が決めるんだ。
口約束だ、アッシュとの約束を律儀に守る必要はないと俺は思うが、どうしたい?」
考える間も無く、すぐに召子はレルゲンの顔を真っ直ぐに見つめて宣言する。
「私は…アッシュと戦いたいです。クロノを私が倒した時から。
いいえ、初めて彼と戦った時から決まっていた気がするんです」
レルゲンは少し表情が柔らかくなり、召子を快く送り出すことに決める。
「分かった。危なくなったら助けるつもりで俺達も見守っている。思いっきり全力を出してきてくれ」
「はい!悔いのないように戦ってきます!」
岩石をくり抜いたような入り口から下る階段を進んでいくと、見慣れた青い魔法陣の前に一人の悪魔が目を閉じて待っている。
「ようやく来たか、勇者よ」