24話 息
雷鳴轟く積乱雲に囲まれた、雲を突き抜けるように伸びている程に大きい城の中で、悪魔達による話し合いが行われていた。
「先日、幹部のヴァネッサ様が奴隷市を開催した時に現れた乱入者ですが、魔力の質から以前にも観測されていたイビル・ラプトル騒ぎと酷似しております。
まずは、技術担当のアンデル様より報告を怠った経緯のご説明から始めて頂きますが、よろしいでしょうか」
「まずはご報告が遅れた件につきまして、魔王様に謝罪を。
それと魔力の件ですが、元来勇者とは聖剣を精霊から与えられた異界からの転生者になります。
前回の勇者と同じタイプと考えるならば、魔力を全く持たないのが勇者であり、
勇者でないならわざわざ魔王様にご報告差し上げる必要もないと判断し、今に至ります。
しかし、ヴァネッサが対峙した時に更に上の力を隠していた事を観測し、
軍の幹部よりも高い魔力量を有していることから勇者以外の新たな脅威となり得ると判断し、今回ご報告させて頂きました」
「分かった。ヴァネッサはその主と戦ってみてどう感じた?」
「はい。彼の魔力量は絶大で、こちらが完全防御をしてもその魔力量で若干上回って来る程でした。
私は来る勇者との戦いのために戦力となると考え、魔王軍に勧誘。もとい攫うつもりでしたが
彼は自ら更に上の世界に気づき、実践して私を追い詰めてきました。
確かに脅威ではあるのですが、まだまだ発展途上もいい所で、伸び代はまだまだあると感じています。
しかし、それよりも…」
口籠るヴァネッサを集められた全員が怪訝な表情で見つめていると、不確定ながらも報告を続け始める。
「私はその主よりも、もっと世界の核心に近づいていると感じている者がおりました。
女のエルフでしたが、魔力は通常より少し低い程度で、攻撃も遅い。
しかし受けを間違えれば再起不能になるような不安感を私に与え続け、更にはどんどんと私に合わせて強くなっていくような不思議な敵でした。
私はこれ以上そのエルフが強くなってしまうのを危惧し、撤退を余儀なくされた程です」
「へぇ、君のような強者が心で押されるなんて随分と珍しい敵だったようだね。武器は何を使っていた?」
「両手で扱う程に刀身の腹が太い剣でしたが、それが何か?」
「もしかしたら勇者の聖剣によるものかもしれないと考えたけど、魔力を持っていてエルフなら、その線は薄そうだね」
ここで魔王の話が終わった後に手を上げる者が一人。
「どうしたジャック?、何か意見があるのかい?」
「俺はそこの胡散臭い科学者よりもヴァネッサ、お前に言いたいことがある。
どうしてその発展途上の奴を最初から奥の手を使って殺してこなかった?」
「私は元より彼をこちら側に引き入れる為の戦いをしたの。本当にこちら側にこないと判断したらさっさと首を落としているわ」
「その甘さが俺たちに届くまで強くなる理由になったらどうするんだって言ってんだよ。
今の俺達はそこまで勇者に対して戦力が不足しているのか?違うだろ?
魔界広しとは言え、魔力量だけでも俺達を上回っている奴が魔王様がお目覚めになられてから急に現れる方が不自然だと何故考えない?」
「それはそうだけど…貴方は彼が勇者の一派だと言いたいわけ?」
「そいつが勇者の仲間だろうが関係ねぇ。どちらにせよ俺達に楯突いたんだ。殺すには十分な理由だろうがよ」
二人が舌戦を繰り広げて熱くなっていくと、魔王は嫌気が差したのか一度だけため息を溢す。
「はぁ…」
声にもならない吐き出された息が、大気を震わせて用意された食器や窓にヒビが入る。
言い争いに近い二人は魔王の息使いに押されるように黙り、口をつぐんだ。
ニコッと笑い、魔王は一度だけ手を叩く。
「よし!今日の会議はこれでお終いにしよう。みんなまだ思うところがあるだろうけど、
一先ずはその魔力の主がまた勧誘を断るなら殺す。話に出てきたエルフの女は見つけ次第即殺す。
これが結論。いいね?」
誰も反論することはなく、再び魔王は優しく微笑んだ。