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第二章 4話 念動魔術の真髄 改稿版

件のマリーとレルゲンは少し離れた所で。


マリーは貴族との会話をしながら、

レルゲンと出会う前からの話題を順番に話しているようだ。


一方のレルゲンはというと、

貴族の若い女性に言い寄られる訳でもなく、

騎士の面々に先程の騎士団長との戦いについて聞かれるというのもなく

一人で出された料理をつつく、訳でもなかった。


(この料理、食ってもいいのか?)


毒でも入っていたらと考えると目の前に出された

豪勢な料理も喉を通らなかった。


気分転換にでも夜風に当たるかと思い、

会場の大窓を少し開け外に出る。

数人分の広さの半円に近いバルコニーの柵に肘をつき一息つく。


マリーの位置は魔力感知で補足している。


闘技大会では意識を集中しなければ広範囲に

微力な自然魔力を感知できなかったが、

今は比較的神経を使わなくても捉えることが出来た。


暫し落ち着いていると、ある事を思いつく。


(もしこの水の中に毒が入っていたとして、

その毒の部分だけ念動魔術で取り除けないだろうか?)


基本的に念動魔術は目で一度見たことがあるものに限定されるが、

無我夢中だったとはいえ闘技大会の一件の時は

剣を補充する時に一度できている。


ここで念動魔術を教えてくれたナイト先生の言葉を思い出す。


(念動魔術とは魔力で糸を作らず、

ただ自分の意思のみで有りとあらゆる“事象の操作”ができる魔術なのです)


「答えは“ここ”か」


胸に手を添えて、懐かしむように遠くを見つめる。


ナイト先生の言っていたこと、

そしてあの時掴んだ念動魔術の真髄の一端。


(やってみるか)


念動魔術で自身を空中に浮かべ、花が生い茂る中庭へと降りる。

降りる前に持参した水とグラスに花壇から土を掬い、グラスの中へ入れる。


細かい土の粒子が水の中へ溶け、茶色く濁る。

意識をグラスの中の水へ集中させ、綺麗になった水をイメージする。


念動魔術を発動し、土と水の分離を行う。

水面が波立ち徐々に土が取り除かれ、水の濁りが薄くなる。


(ここからだ)


更に深く集中するために目を閉じる。


もう見る必要は無い。

次に目を開ける時は完全分離の後。


水が渦を巻き、渦の中心へ目に見えない程細かい砂が集まっていく。

水面が静かに落ち着いてゆき、

土の粒子がゆっくりと持ち上がり花壇へと戻っていく。


出した命令は、水と"不純物"に仮定した物質群の完全分離。

目を開ける。

見たところは真水へと戻っている感じがするが、

実際にはどうだろうか。


意を決して水を口に含み、砂の感覚がないか確認する。


(よし、成功だ)


ゴクンと水を飲み込み、少し待つ。

仮に砂は分離できても毒物が入っている時に、

それも分離できているかの確認が必要になるからだ。


自らを実験台に待ったが、身体に変化はない。


(こっちも大丈夫そうだな)


この時の成功体験が、

後のレルゲンの成長速度に拍車をかけていくようになる。


それをじっと見ていた、

夜光に照らされて上品に反射する青い髪の女性がレルゲンに声をかけた。


「素晴らしい技術です。

これが魔術の真髄、そう思える光景でした」


「貴女は。いえ、貴女様は確か」


「おや、覚えていて下さいましたか。

私はセレスティア、中央王族機構、第一王女。

王位継承権一位、セレスティア・ウノリティア。

セレスと呼んでくれると嬉しいです」


「では、セレスティア様と。こちらへはどうして?」


「つれませんね。精錬された魔術の気配を感じましたので、

つい気になって」


深く集中していたから気づかないと最初こそ思ったが、

すぐに間違いだと認識を改める。


この第一王女、間違いなく高位の魔術師だ。


恐ろしく自然魔力が滑らかで、

感じる魔力量は一般人の平均とほぼ同程度。


レルゲンも隠匿は得意な方だが、

ここまで無害な一般人を装うと逆に怪しい。


「そうですか。しかし、セレスティア様にはまだまだ及びませんよ。

一度魔術の手解きをお願いしたいくらいです」


「なぜ私が魔術師で、レルゲン様よりも魔術に長けているとお思いで?」


彼女は平静を保っているが、

言葉に疑念が含まれていたことを魔術ではなく態度で判断する。


「それは簡単な問いですね。

二つ、貴女は今のやり取りで私に情報をお与えになりました。

一つ目は、水の中に入っている砂を取り出したくらいで、

それが「精錬された魔術」と表現したことです。


二つ目はもっと簡単です。セレスティア様。

貴女から流れる自然魔力は綺麗すぎる。

流れる自然魔力は少しも揺らがず、

極々普通の一般人と変わらない魔力量を演出なされている」


「なるほど。レルゲン様は私に魔術の手解きをお願いしましたが、

それは必要ないと思われます。

自然魔力についてはおっしゃるのではと思いましたが、

まさか最初の一言目で気づかれてしまうとは。口は災いの元ですね」


「えぇ。しかし、私も一種の集中状態でしたので、

セレスティア様に気づくのが遅れました」


少しの沈黙。再び口を開いたのはセレスティアだった。


「レルゲン様はなぜ、マリーの専属騎士になろうと思われたのですか?」


「今更ですが、私のことはレルゲンと呼び捨てになさってください」


間をおいて、空に輝く星を見つめながらレルゲンが語り出す。


「最初は成り行きでした。どこか危なっかしくて、

でも芯のある性格で──総じて言うとほっとけないんです。

彼女を、マリーを護るのは何も俺じゃなくてもいい。

でもそれがマリーを護らない理由にはならないんです」


ふふふと笑うセレスティア。

その表情はどこか幸せそうに見えた。


「そうですか。マリーは幸せ者ですね。

ところで、私の事はセレスと呼んで下さらないのに、

私にはレルゲン様を様抜きで呼べと仰るのですか?それは少し不公平では?」


「分かりましたよ、セレス様」


お互いに少し笑うが、セレスが小さい声で


「様も要りませんのに」


と言っていたことはスルーさせて頂くことにした。


「レルゲン、マリーの小さい頃の話、聞きたくはありませんか?」


「是非」


宴用に軽装だったセレスに自分が来ていた服を羽織るよう勧める。

断られると思ったが、意外にもあっさり袖を通す辺り、

思い切りの良さは姉妹としてどこか似ていると感じる。


夜が更けていく。


お互いが知っているマリーを語り始め、

笑い、考えながらも打開策を話し合い、

気がついた時には夜が明けようとしていた。


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