17話 ディシアの笑顔
ゴルガとディシアが向かってくるが、ゴルガは興奮気味のようで、レルゲンに向かって走り寄ってくる。
「すげぇぜ兄ちゃん達!
凍刃龍を倒すなんて簡単に言いやがるから正直疑っていたが
本当に素材を確保しつつ倒すなんてよお!」
「約束通り場所と素材は確保した。剣を鍛えるのは頼んだ」
「おう!約束だからな!きっちりとお礼を兼ねて用意させて頂くぜ。それから疑った詫びに色々とな」
「色々?」
マリーが尋ねるが、ゴルガは似合わないウインクで返すと
自分の工房まで案内しようと凍刃龍から手に入れた素材を運ぼうとするが、全く動かない程の重量を誇っていた。
レルゲンが念動魔術で運ぶのを申し出て空中に浮かばせると、やはり魔界でも念動魔術は見たことが無いのか、「ほぇー」と声を漏らしていた。
「どういう原理で浮いてるんだ?」
興味を持ったゴルガが魔術の仕組みについて聞くと、運んでいく途中でざっくりと念動魔術の原理について説明する。
すると、それを聞いたゴルガは運んでいる素材とレルゲンを何度も往復するように確認するが
それでもさっぱり分からないようで、肩をすくめた。
「ここが俺の工房だ。もてなすことは出来ねぇが、ゆっくりしていってくれ」
工房に案内されるレルゲン達は大小様々な剣や防具、装飾品が飾られている品々を見て、感嘆の声を上げる。
「これは全部ゴルガが作ったのか?」
「おうよ、試作品もあるが全部俺がこしらえた一品達よ。無闇やたらに触らない方がいいぜ、怪我するからよ」
レルゲンとマリーは武器が並べられているのを手に取って確認しようとしたが、ゴルガの一言で踏み留まる。
「うっかり怪我しても治してあげませんからね?アビィちゃんもですが」
セレスティアが怖い笑みを浮かべながら忠告すると、渋々だが二人揃って戻ってくる。
召子とディシアは少し苦笑いを浮かべるが、仕切り直すようにゴルガがレルゲンに向けて武器の詳細を尋ねる。
「兄ちゃんはどんな剣がお望みなんだ?」
「出来ればこの剣達と同じ位の大きさと形だと望ましいな。重さは問わないよ」
「ほう、どれも魔剣に相応しい。だが、この剣に負けない。
いや、この剣達よりももっと良いものを作ってみせるぜ。腕が鳴るってもんよ」
「頼むよ、時間はどれくらいかかるだろうか?」
「元々の翼に付いている刃を利用するから、そこまで時間は取らせねぇ、数時間もあればできると思うぜ」
「数時間…!」
あまりの早さに驚きの声を上げるが、どうやら冗談ではないようだ。
「元々の素材をそのまま利用するからな。寧ろ余り手を加えない方が良いまである。
それを加味しての数時間だ。だが、調整にも時間がかかる。合計で約一日は欲しいな」
「数日は覚悟していたから正直助かるよ」
「早く仕上げてやらないと、最短の道を通った意味が無くなるからな。任せとけ!
後悪いが兄ちゃんには素材の運搬をお願いしたい。作業が順調に行くための秘訣だな」
「あぁ、それくらいなら喜んで手伝わせてもらうよ」
レルゲンが女性陣に振り返り、わくわくを抑えながらも一言断りを入れる。
「すまないが、一日だけもらっても良いだろうか?」
「構いません。貴方が強くなる事は私達の、いいえ、国で待つ皆さんの安全に繋がりますから」
代表してセレスティアが了承すると、他のメンバーも頷くように笑う。
「ありがとう」
レルゲンはゴルガに向き直り
「ではよろしく頼む。まずはどれから運べば良い?」
「まずはなんと言っても刃がついてる翼だな。こいつの解体から始めるからここに持ってきてくれ」
それからというもの本当にゴルガはとてつもない作業スピードで進めていき
本当に二時間足らずで両手剣にも匹敵するような大きさを誇る、刀の形をした剣を完成させてしまう。
「これが凍刃龍から出来た剣か…!」
「おう、それにしても兄ちゃんは多彩だな。荷物運びから炉の火まで簡単に出来ちまう。
将来は鍛治師になるのも面白いと思うぜ」
「考えておくよ。見るからに魔剣には間違いないだろうが、これはどんな剣なんだ?」
「銘は氷華。コイツに魔力を込めて振ると氷の華が咲くように、氷を発生させたり飛ばしたりもできるぜ。
あれだけの魔力量だ。兄ちゃんなら俺の予想よりも武器の性能を底上げすることが出来るだろうよ」
「なるほど、氷を精製出来る剣か…」
レルゲンの頭の中にあるのはどうやったら剣を使った応用技が出来るか。その一点のみに絞られていた。
一瞬遠い目をしたレルゲンをゴルガは見たが、すぐに元の表情に戻るのを見てから更に続ける。
「それと、これは俺からの贈り物だ」
送り主に近づいて完成品を渡すと、全くの予想外だったようで「えっ?」と疑問の声を上げた。
「私は非戦闘員です。あまりこの短剣と籠手はお役に立てることができないと思いますが…」
「いいや、凍刃龍と戦っている兄ちゃん達を見ている時の嬢ちゃんは
凄く歯痒いような、悔しいような顔をしていたと素人ながらにも分かったぜ。
このお節介、受け取ってくれるかい?」
「ご厚意、感謝いたします」
杖を前に付いて服の裾を片手で摘んで最大限の礼を取ると
ゴルガは満足そうな顔をしてディシアに付け方を教える。
付け終わったディシアは普段見せることがほぼ無い嬉しさの表情を見せて、改めてゴルガにお礼をするのだった。
「思ったより早く終わったことだし、兄ちゃんに伝えたい事がある。時間をもらっても良いか?」
頷くと、ゴルガが工房の奥へとレルゲンを連れていく。
「良かったですね!ディシアさん!」
召子がディシアに満面の笑みを贈ると
「なんか私より嬉しそうじゃありませんか?」
「だって、普段余り笑わないディシアさんが本当に嬉しそうに見えて」
「私は普段、そんなに表情に乏しいのですか?」
女性陣が真顔で頷くので、ディシアは頬に指を当てて笑顔を作る練習をしてみるが
余り自分が普段から笑っている所は想像が難しかった。