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14話 凍刃龍

「ヒート・アーマー」


新しい複合魔術と思われるものをかけ終わると、全身から温かい水蒸気のようなもので包まれていた。


「バフとは少し違いますが、凍刃龍対策でかけてみました。どうでしょうか?」


セレスティアが初めて使う魔術を皆に確認すると、全員が表情を柔らかくして


「寒い地域にいるのに温かい…!」


と口を揃えて絶賛する。


「もしかして今思いついた魔術だったりする?」


「ええ。以前ナイトが使っていたヒート・ミストラルから着想を得た、火と水の複合魔術になります。

上手くかけられたようで良かったです」


「あの時は火傷をするくらい熱いやつだったからな。これなら寒い地域でも万全の状態で動けそうだ」


手先や足先の感覚がよりはっきりして、この極寒と呼ぶべき環境でも不自由なく動けるようになったのは大きい。


状態異常無効化のノーマリィ・コンディションとは少し違うが、それでも環境からなるデバフを打ち消したと言っていいだろう。


準備が整った所で、凍刃龍の番いが待つ奥の部屋へと進んでいく。


細い通路を進んでいくにつれ、つららが何本も天井からぶら下がる程の気温の低さが伺い知れたが、


セレスティアの新しい複合魔術のおかげもあり、肌寒い程度で済んでいる。


細いつららが無数に生えている通路を抜けると、洞窟とは思えない程の銀世界が広がる大広間に出る。


「凍刃龍の冷気でここまで変化が起こるのか」


レルゲン達が凍った地面を踏んだことでパキパキと音を鳴らしながら進んでいくと、

この極寒環境を作った主が二頭待ち構えていた。


凍刃龍は雄と雌で身体の構造に若干の違いがある。魔力量こそほぼ同一と言っていいが、


特に翼の刃部分が雄と見られる個体の方が発達しているようにも見える。


また、身体を纏っている色味も雄の方が若干濃いようだ。


レルゲン達の侵入に気づくと、雄の凍刃龍が一本前に出て威嚇の言葉を投げかけてくる。


「こんな山奥に何用だ、エルフ共。ここは我らの棲家。今すぐ引き返すか、ここで死ぬかどちらか選べ」


「どちらも承服できないな。俺達もアンタらには迷惑しているんだ。ここで討ち取らせてもらう」


「何を言い出すかと思えば、我らを討ち取るだと?笑わせるな!お前らのような羽虫、最初の一撃で葬ってくれるわ」


凍刃龍の背後に巨大なつらら状の棘が無数に出現し、一斉にレルゲン達に向かって高速で飛ばしてくる。


(矢避けの念動魔術)


レルゲンが全員に念動魔術をかけると飛んできたつららは、全て当たる直前で軌道を変えて壁や地面に突き刺さる。


「最初の一撃で、なんだって?」


「ほう、軌道を変えられるか。面白い…!お前は手を出すな。コイツらは我が相手する」


雌の凍刃龍はレルゲン達に背を向けて引いてゆく。


(好都合だな。こっちは最初から二頭同時に相手にするつもりで来たんだ。


雌の方が戦闘に首を突っ込んでくる前に決着をつけたい)


「最初から飛ばしていこう!相手は一頭だ。

いつも通りに」


「「了解!」」


マリーがまずは駆け出して凍刃龍に突っ込んでいき、神剣を下段に構えながら走ってゆく。


それの一歩後ろから召子とフェンが追随する形で追いかけ、カバー出来る体制を作る。


レルゲンは炎剣を構えて残る二本は浮遊剣にし、正面から突っ込んでいくマリーとは別の、

凍刃龍の横側から回り込むように肉薄してゆく。


セレスティアは後方から全員分のバフを無詠唱で一気にかけ、アビィもリジェネライト・ヒールを全員分に付与する。


付与が終わってから、セレスはテンペストを放ち、アビィはマルチ・フロストジャベリンを展開して直進させる。


マリーの横を二つの術が通過していき、凍刃龍に正面から当たるが、全く効果が無いようにも取れる。


アビィが放った魔術は効果が無いどころか、凍刃龍の外殻に吸収される様にくっついて離れず

身体の一部となってしまっている。


「アビィちゃん!魔術は継続回復だけで支援重視に変更!」


即座に召子が凍刃龍の性質に気づいてアビィに指示を出すと

次弾装填されていたマルチ・フロストジャベリンが霧散し、


セレスティアより更に後方に位置を変えて継続回復の魔術を常にかけ続ける。


マリーが一番凍刃龍に近い所まで走り込んで、下段から斬り上げをしようと状態を更に低くすると


凍刃龍は首を大きく上げて口元に冷気が集まってゆく。


ゴルガが思わず全員に聞こえる声で叫ぶ。


「ブレスが来るぞ!」


「ええ!分かってるわ!」


首をマリーに向けて真っ直ぐ伸ばすと、無数の細かい氷の粒が一本の線を描く様に直進して進んでくる。


至近距離で放たれる寸前にマリーは尚も前進しながら横に小さく飛び、ギリギリのタイミングでブレス攻撃を躱す。


後ろに居た召子とフェンもマリーとは逆方向に移動して躱しながら肉薄を続ける。


(マリーさん凄い!

あんなに近くで攻撃されているのに完璧に見切っている!)


「私達も行くよ!フェン君!」


「ヴァフ!!」


ブレスを完全に躱したマリーは神剣に意識を集中して、全開で魔力を込めてゆく。


(貴方を斬るわ)


一撃で決めると心に決めてから神剣が白い輝きを放ち、マリーの覚悟が乗せられる。


ブレスを外した凍刃龍は、横目で接近するマリーの目を見て無理矢理に首の角度を変え


攻撃を回避しようと必死になる。


それ程までにマリーの目を見てこれから自分がどうなるのか明確なイメージを悟ってしまったからだ。


首の角度を振り上げる直前に変えられたマリーの神剣は、軽く外殻を吹き飛ばす事はできても、


首を切断するには至らなかった。


「器用な龍ね…!」


攻撃を半ば外されたマリーは走り抜けるように凍刃龍の後ろへ走っていき、召子へバトンを渡した。

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