13話 ドワーフのゴルガ
「俺達は南方を目指しているんだが、ここからだとどこから抜けていけばいいか教えてくれないだろうか?」
「南方ねぇ…まぁいいか。俺はここで炭鉱夫をやってるドワーフのゴルガだ」
差し出された手を握ると、気になる事があるのかゴルガがレルゲンの手を上向きにして観察する。
「エルフと言えば魔術や弓術の経験を積むもんだが、兄ちゃんは剣を振るうのか?」
「魔剣士をしているレルゲンだ。よろしく頼む」
礼儀正しく挨拶を返すレルゲンにゴルガは少し驚いた顔をするが
気をよくしたのか快く南方に続く道を示してくれた。しかし問題があるようで
「ここの炭鉱はよ、ずっと昔からあったんだが鉱脈がもう残り少ねぇ…俺にも仲間が沢山いたんだが、
どいつもこいつも新しい鉱脈が見つかるとここを出ていっちまった。
んで、南方への道はあの先にある道を通るのが一番の近道なんだが、
どこかの馬鹿が低濃度の魔力揮発剤を撒いて魔物を発生させやがった。
だから迂回路にはなるがその隣の道を通るのがいいと思うぜ」
「なるべく早くここを抜けたい。魔物の強さはどれくらいなんだ?」
「少なくても兄ちゃん達でも苦労する相手だと思うぜ。なんせ相手はあの凍刃龍だ。
それに番いで棲家を作っちまってる。
凍刃龍の場所が確保出来れば、もう少しここで長く仕事ができるんだが、それは兄ちゃん達には関係ない」
ここでレルゲンがある事を閃いてゴルガに提案をする。
「なぁゴルガさん。貴方がドワーフという事は、もしかして剣を鍛えることも出来たりするのか?」
「もちろんだ。素材は新しく必要だが、仲間の中では俺が一番の腕利きだったぜ。
……!もしかして兄ちゃんは」
「察しがいいな。俺達が凍刃龍を討伐するから、代わりにこのデカい魔石を使って剣を一本鍛えて欲しい。
素材は凍刃龍でどうだろうか?」
イビル・ラプトルから回収した巨大な魔石を見ると、人一人分程に大きな魔石を見てゴルガが目を丸くする。
「面白い事言ってくれるじゃねぇか!いいぜ、その提案乗った。
もし討伐して場所の確保をしてくれるなら俺の工房で剣を鍛えてやる」
「いい取引が出来たようで何よりだ」
レルゲンとゴルガが腕をガッチリ組んで不敵な笑みを浮かべるのを側から見ていた女性陣は
やれやれと呆れながら笑うのだった。
上機嫌で前を歩くレルゲンにセレスティアが一言だけ釘を刺す。
「レルゲン、ここは魔界です。そろそろ気を引き締めて下さい」
「すまない。柄にもなくはしゃいでしまった。
作戦を考えよう」
ゴルガを交えて作戦を考えるために輪になって座り、レルゲンがまずはどんな魔物なのか尋ねる。
「ゴルガさん。凍刃龍とはその名の通り、刃を用いる龍ということだろうか?」
「凍刃龍を知らないのか?この魔界じゃ有名なはずだが、エルフの里には届いていないのかもな」
一人で納得するゴルガを見てレルゲン達は微妙な表情を返すしかなかったが
そのまま話しを続けるのでここは流れに任せる。
「剣を持つ龍ではなくて、身体の一部。コイツの場合は翼だが両方とも鋭い氷で出来た刃のような形をしている。
他にも氷を細かくしたブレスなんかもあるな。一度喰らえば身体中の体温が一気に奪われるから注意しな。
他にも攻撃する手段はあるだろうが、俺が知っているのは二つのみだ。後は戦いながら慣れてくれ」
普段は事前情報がほぼ無い状態で戦ってきたレルゲン達にとっては貴重な事前情報だった。
「二種類も攻撃方法が分かれば後はこちらで何とかするよ。情報感謝する。ディシアはゴルガと共に身を潜めていてくれ」
「分かりました。戦闘はお任せします」
「セレス、凍刃龍の魔力は探知にかかってるか?」
「はい。魔力量から推察するに特別な六段階目かと」
「やはりイビル・ラプトルもそうだが、ここはそのクラスの魔物が出やすい環境が整っているようだな。
俺が言うのもなんだが、全員で気を引き締めて戦おう」
ゴルガは人間界の尺度での魔物の強さの話になると首を傾げたが、それでも口を挟まずに聞いていてくれた。
全員が立ち上がり歩を進めると、セレスティアが待ったをかける。
「お待ち下さい。少し試してみたい魔術があります」
全員が立ち止まると、セレスティアが神杖に魔力を込めて意識を集中し始める。