第二章 3話 騎士団長ベンジーとの一騎打ち 改稿版
「それでは模擬試合、初めて下さい!」
「わざわざ付き合ってもらって悪いな、レルゲン殿」
「報酬は頂きますよ」
「やる気になってくれて助かる。
個人的にも貴殿の戦い方には興味があるのでね」
「それは光栄ですが、そんな見せびらかすものでもございませんので、
期待されても困ります」
手には片手直剣、帯同させている剣が空中に浮かびながら、
魔力糸無しでレルゲンの魔力が込められていく。
ベンジーが魔力を目に集中し、
どういったカラクリで浮遊しているのか、
魔力が込められているのかを確認するが、
魔力の繋がりを感知する事が出来ないでいた。
ベンジーが眉をひそめ、レルゲンに正直に伝える。
「それが貴殿の武器か。
見たところどうやって魔力をその浮いている剣に込めているかは知らんが、
面白い戦い方だな」
ここでレルゲンに戦闘スイッチが入る。
「どこかで見覚えがあるのか?」
「似たような戦い方は見た事があるが、
貴殿の“それ”は完全に別物だな」
「そうかい。そろそろ観客も痺れを切らす頃だ。
始めてもいいか?」
「いつでもいいぞ」
先手は譲ってやるとでも言いたげに余裕を見せる。
「ではお言葉に甘えて」
(最初の一撃で決める)
長引く程観客は盛り上がるだろうが、
レルゲンにとってはその分手札をこの大衆の前で晒すと同義だ。
出来るだけその事態になる事を避けつつ、
かつ皆に実力を認めさせるには
(螺旋剣)
帯同していた一本の剣に魔力を集中し、
強引に剣の形状を維持しつつ刀身を捻る。
ギリ、ギリと無理な力で捻じられて悲鳴を上げるようだが、
念動魔術で空間ごと捻じ曲げることで剣の崩壊を防ぐ。
「回れ」
命じられた螺旋剣が回転を始め、
高速回転により砂埃が中心に集まっていくように巻き上げられる。
「ほう」
ここで感心したような声を上げ、
ベンジーがゆっくりとロングソードを上段に掲げる。
ロングソードに魔力が込められていき、
ハクロウとは違い螺旋剣を正面から向い打つつもりだ。
その様子を見てレルゲンが更に動く
「ウィンドカット」
ウィンドカットはその利便性から材木の切断などで
よく使われるが、攻撃魔法としては下位で、
一段階目の魔物を追い払う時などの用途に限られている。
その風の初級魔法であるウィンドカットを高速回転されている
螺旋剣に纏わせることで、ウィンドカット自体が回転に巻き込まれ、
溶けるように消える。
だが一層殺傷能力と貫通力が上がっているのは、
螺旋剣が纏う風の多さが物語っていた。
(いったい幾つの魔法と魔術を組み合わせているのか、
俺には出来ない芸当だな)
ベンジーは素直に研鑽の塊であるレルゲンの一撃に感心していた。
それを見ていたハクロウもまた同様に、
自分と戦った時よりも成長している螺旋剣の威力に固唾を飲んでいた。
(死ぬなよ、団長殿)
此処でレルゲンが螺旋剣の発射前にベンジーに告げる。
「俺はこれから「真っ直ぐ」、小細工抜きにコイツをアンタにぶつける」
わざわざ何を宣言しているのかとベンジーは一瞬思ったか、
すぐにその言葉の真意に気づく。
(途中で、軌道を変化させることも出来るのか)
「これは有難い申し出だ、
狙いが外れたら俺もその剣には耐えられないだろう」
ベンジーの告白に会場が思わず響めく。
一対一の果し合い。
勝負は一瞬で決まった。
真っ直ぐ射出された螺旋剣は、
音速に近い速度でベンジーの胸目掛けて正確に突き進む。
上段に構えられたベンジーの剣が螺旋剣を捉える。
「オオオオォォォォ!!」
気合いの込められた声と共に振り下ろされた
ロングソードは螺旋剣を綺麗に両断した。
両断された螺旋剣はベンジーの後方の壁に突き刺さり、
暫く壁を突き進んだ後にバラバラに砕け散る。
「流石はここの団長だ。まさか斬られるとは思わなかったよ」
「そちらこそ、見事な一撃だった」
この勝負、団長の勝ちで終わるかと思えば、
団長が両手を上げて降参の白旗をあげる。
「どうして…」
「団長の勝ちでは無いのか?」
などの声が上がったが、ベンジーの腕が震えているのと、
ピシピシとベンジーの愛刀にビビが入る音が響き、観衆が黙りこむ。
振り下ろされたロングソードは形状こそ維持はしていたが、
刃は大きく欠けており、
ヒビが刀身全体に走ったかと思えばバラバラと欠片になって地面へと落下する。
「俺の剣は砕かれ、レルゲン殿の剣は合計五本。
その気になれば全ての剣に今と同じ威力を持たせて同時攻撃も出来よう。
私はこのレルゲン殿を認める」
再び訪れる静寂
ニッとベンジーが笑ってから、審判が高らかに宣言する。
「勝者!レルゲン!」
讃えるものは女王とマリー、ベンジーとハクロウ。
その他にも何名か拍手を送っていたものもいたが、それでいい。
彼の願いはこれで成就されるのだから。
再び謁見の間に通されたレルゲンの叙勲式が執り行われる。
叙勲については日を改められると予想していたが、
どこか急いでいるように感じる。
ダクストベリク女王が叙勲の宣言を行う。
レルゲンは再び最初の謁見の間に呼ばれた時と同じ正装に身を包み、
女王に向かって跪く。
「これより、レルゲン・シュトーゲンの叙勲式を執り行う。
この者をマリー・トレスティアの専属騎士として名実共に認め、
この宣言によりレルゲン・シュトーゲンを
王国の民として迎え入れる事を我が唯一神に誓います。
マリー・トレスティア、誓いの剣を」
マリーが女王から誓いの剣を跪きながら両手で丁寧に受け取る。
立ち上がりレルゲンの方へ。誓いの剣を鞘から取り出し、
銀色に輝く刀身が顕になる。
形状は片手直剣というより細く、レイピアに近い。
「我が騎士、レルゲン・シュトーゲンよ。貴方は私と王国を支え、
時には私を諌め、そして永遠に支えることを誓いますか?」
「誓います」
抜かれたレイピアをレルゲンの両肩に軽くトントンと叩き鞘に収める。
収められたレイピアは女王へ丁寧に返却され、マリーも女王へと跪く。
「これにて叙勲式を終了します。マリー、良かったですね」
「はい、お母様」
固い式典が終わった後は母子の関係に戻っているのが見て分かる。
マリーは母親に愛されている。となれば、やはり疑うべきは…
陽が落ち、マリーの帰還とレルゲンの
叙勲祝いと称した食事会が開かれた。