12話 洞窟探索
洞窟で過ごし始めてから数日が経過するが、止む気配のない吹雪を見て
召子がフェンとアビィを撫でながら呟く。
「雪、止まないね」
寒がる素振りを見せない召子に向けてマリーが身体を摩りながら声をかける。
「召子、寒くないの?」
「そうですね。私が召喚される前に住んでいた所は雪がたくさん降っていましたから、そこまで寒いとは思いません」
「寒い所に住んでいたのね」
マリーはレルゲンに密着して一枚の毛布を被り直し、寒さを凌いでいる。
「マリーは寒さには昔から弱かったですからね」
セレスティアがマリーの昔話をしながらも、マリーの反対側からレルゲンにくっついて毛布を肩から被る。
「そういうセレスも寒いのは余り得意じゃなさそうだな」
「はい。マリー程ではありませんが、中央は寒くなる事が少ないですから、あまり耐性は無いと思います。
そういうレルゲンはそこまで寒く無さそうですね?」
「そうだな。俺は中央領にいたけど、比較的寒い地域に居たからまだ我慢できる寒さだよ。
ディシアは大丈夫か?」
「はい。温かい飲み物もありますし、大丈夫です」
レルゲンがブルーフレイムを新たに出して念動魔術で拾ってきた薪に着火する。
魔術が使えない人がこの雪山で過ごせば、数日と保たないと思いながらも、瞳を閉じて雪が止むのをじっと待つ。
しかし、やはりというべきか雪は止まず、一定の吹雪が吹き続けるのみ。
ここでレルゲンが立ち上がり、止まない吹雪を確認しつつ出発の決意をする。
「食料も心許なくなってきたし、何処かの街で補給をする必要がある。そろそろ出発しよう」
全員が身支度を整えて、レルゲンが広げていた荷物を念動魔術でささっと回収する。
再びフェンの鼻を頼りに今度は山を超えていくことを決意するレルゲン達だが、積もりに積もった雪では足が取られかねない。
数十センチだけ念動魔術で空中に浮かしながら進んでいく様は
まるでスピリット型の魔物が行進しているようにも見えるだろう。
「フェン君、どこか変な匂いがあったら教えてね」
「ワン!」
山の斜面を進んでいくと、雪で足を取られて助けが来なかった悪魔が凍死している様が見て取れる時があり
ディシアが興味深く観察していたが、立ち止まる余裕はないのでそのまま通過する。
やはりこの深々と積もった雪で飛行出来ない場合は即、死に近づくだろう。
ディシアを除く全員が悪魔の凍死体を見て苦い顔をしながらも更に進んでいくことに。
すると、フェンにしか聞こえない音が鳴っているようで、一旦停止する。
「フェン君、どうしたの?」
「ワン、ウゥ…!」
「何か音が聞こえるそうです。それも近づいて来ていると」
「近づいている?魔力反応には何も…レルゲン!」
セレスティアがレルゲンを呼んで危険を知らせると同時に
とんでもない速度で雪の塊が山の斜面を、まるで海で発生する高波のように押し寄せてくる。
急いで高度を上げて事なきを得たが、雪崩と思われる現象に遭遇したレルゲン達は、一つ気づきを得た。
「さっき凍死していた悪魔はこの雪崩に巻き込まれたのかもな」
今度は雪崩が再度発生しても大丈夫な程まで高度を上げて進んでいくと
再びフェンが吠えて召子に何か伝えている。
「自分達がさっきまでいた洞窟のような大きい穴があるってフェン君が言ってます」
「山の斜面に洞窟があるという事は、自然の物か人為的な物か…どっちの可能性もある。
一応戦闘に入る準備だけしておいてくれ」
更に進んでいくと、確かに洞窟と思われる入口が見えて来る。
入口には木で崩れないように補強が成されていることから人為的な洞窟である事が予想できた。
「この補強跡は、間違いなく何者かがここを利用していた痕跡ですね。
魔力探知に反応は無いので魔物の線は薄そうですが、注意して進みましょう」
セレスティアが木の補強跡を手で触れながら全員に伝えて中へ入ると、生暖かい風が洞窟の奥から抜けて来るのを肌で感じる。
間違いなくこの寒さに負けないだけの地下施設のような大きな空間が広がっている事が分かり
セレスティアは魔力探知と、片目だけ温度感知が出来るように魔力を集中して敵の隠蔽魔術対策を取りながら中へ進んでいく。
細い洞窟を進んでいくと、予想通り広い地下空間に出てくる。
防寒着がいらないくらいの気温まで上昇した中は、間違いなく魔力探知に引っかからないだけで何者かがここを拠点にしていることが明らかだった。
広い空間を眺めて観察していると、一筋の灯りが別の穴から差し込んでいることに気づく。
即座に魔力糸を全員に繋げて声を殺しながらレルゲンが灯りの元へ行ってみようと思念で飛ばす。
灯りの下まで念動魔術で飛んでいくと、セレスティアの魔力感知についに反応があったようで、レルゲンの肩を優しく叩く。
頷き返し、全員が戦闘体制に入りながら洞窟に広がっている穴の一つに入っていくと、
カン!カン!カン!
と何かを叩く音が耳に響いて来る。
どうやら中の悪魔は何かの作業中のようだ。
しかし、ここでセレスティアが悪魔の反応とはどこか種類が違うことに気づく。
レルゲンも魔力感知の範囲に入ったのか、セレスティアの言葉に頷く。
(レルゲン、この魔力反応はどこか変です)
(ああ、悪魔にしては、魔力が少なすぎる)
武装は維持しつつ更に進んでいくと、自分達の背丈の半分程しかない人物がピッケルを両手で振りかぶり、そして振り下ろしている。
カン!カン!カン!
どうやら音の正体は鉄で鉱脈を削っている時に出しているようだ。
レルゲンのみ武装を解除して音の主に声をかける。
「作業中すまない。貴方はここで仕事をしているのだろうか?」
「見りゃ分かるだろう」
「少し尋ねたいことがあるんだが、いいだろうか?」
「待ってくれ、もうじき一区切りだからよ」
数十分程待った所で、ようやく音の主はレルゲン達へ振り返って
エルフの姿をしていることに若干驚きながらも言葉を投げかける。
「こんな煤けた所にエルフが来るなんて珍しい。何のようだ?」