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9話 魔界限定の念動魔術

レルゲンは一旦距離を取る為にディシアにも念動魔術をかけてマリーの後ろに下がる。


マリーとの位置変えを完了してからレルゲンはディシアを戦闘の範囲外まで連れていき、再び間合いに戻ってゆく。


「レルゲン、どうかご無事で」


マリーが単独でイビル・ラプトルの突進を受け止め、


勢いが止まった後もマリーが構える神剣ごと噛みついて捕食しようとするが


神剣の切れ味に口が耐えきれないのか、噛みつく度に無数の切り傷が刻まれてゆく。


しかし、イビル・ラプトルはそれでも止まる事なく尚も噛みつき攻撃をやめない。


何かがおかしいと感じたマリーは眉をひそめて一旦距離を取る。


すると周囲の濃密な魔力を吸収していき、神剣によって傷ついた部位が修復されるのと同時に


更に強靭な牙が生えて来るように見える。


「レルゲン。この魔物、周囲の魔力を自分の力に変えてるわ。

下手な攻撃すると余計厄介なことになりそう」


「分かった。やるなら一度に全員でやったほうがいいな。

隙は何とか俺が作る。その後に皆んなで全力の一撃を叩き込んでくれ」


全員が頷いてレルゲンとイビル・ラプトルが向かい合う。


(奴は魔力に引き寄せられる性質を持つ。これを利用しない手はないな)


「ウルカ、小さいままでいい。大きく上に飛んで奴の射程から外れたら俺に渡さなくていい。魔力の解放だけしてくれ」


「分かった、私を囮にしようってわけね。精霊使いが荒いご主人様だこと!」


ウルカが上空に飛んでいき、イビル・ラプトルの射程から完全に離れた所で魔力を解放すると


釣られるように頭を上げて遠吠えのような声を上げ、届かない魔力源を求めて未発達の前肢を動かすが


地上のレルゲンにとっては隙だらけだった。


黒龍の剣に魔力を集中させて遠距離から一撃を放つと、首筋に浅くない傷が刻まれ血が大きく噴き上げる。


傷をすぐに魔力を取り込むことで回復するが、間違いなく回復に専念するために無防備な時間が出来ていた。


「行くぞみんな!」


マリーと召子が各々の剣で回復中のイビル・ラプトルを斬りつけ、フェンは自慢の前足の鉤爪で目元を引っ掻いたことで


片目を潰されたイビル・ラプトルは大きく怯んで数歩後ずさる。


後衛のアビィとセレスティアが大量のマルチ・フロストジャベリンを射出して回復を許さなかった。


アビィとセレスティアが放つ魔術は一見同じように見えたが、セレスティアの放つ氷の槍は風のような空気を纏っている。


水の性質変化と風の魔術による殺傷力を上げた複合魔術となり、アビィのものより更に奥深くまで氷の槍がイビル・ラプトルの横腹に突き刺さる。


突き刺さった氷の槍はそのまま腹に残り、回復が出来ていない。


片手で氷の槍の位置を確認して引き抜こうと顔を動かす知能の高さを見せたが


レルゲンがこの出来た大きな隙を見逃すはずが無かった。


「お前、面白いことをやっていたな?

周囲の魔力を利用して自分の武器にする、実にいいヒントを貰ったことに感謝して、この一撃を贈ろう。


覚悟はいいか」


レルゲンは黒龍の光線攻撃を仕掛ける時は自身の魔力をありったけ剣に込めて放つが

今回は自身の魔力を使うのではなく


周囲の満ち満ちている魔力を念動魔術で黒龍の剣へと集めていくと、刀身が赤く変わったかと思えば徐々に青色へと変化し、魔力密度が上昇していく。


第二段階の全魔力解放に匹敵する碧い光線攻撃がイビル・ラプトルを飲み込んでいき、後方の建物を巻き込まないように


光線を途中から上空に念動魔術で逃すことで街を保護しながらの一撃を放つ。


打ち上げられた光線は遥か上空まで伸びて行ったが次第に消えてゆき、完全に消滅する。


レルゲンの攻撃を受けたイビル・ラプトルは唸り声を上げながらまた突進しようと重心を低くしたが


低くしたまま向かって来る事はなく、力なく地面に倒れ込んで魔石へと還る。


ベヒモス討伐時よりも巨大な魔石は、間違いなく捕食した悪魔の影響があったためだろう。


(周囲の魔力を自身の一撃に変換する全力の一撃は時間がかかるが


牽制技としてならもう自分の魔力を使わなくてもよくなったな。


魔界の環境依存の技になるが

隙が出来れば今の一撃に自分の魔力を更に上乗せした攻撃も出来るようになるはず)


レルゲンが冷静に分析をしていると、遠くで見ていたディシアと老悪魔がこちらに向かってやって来て、老悪魔がレルゲン達にお礼の言葉をかけた。


「この街をお護り下さりありがとうございます」


「いや、これ以上被害が大きくなると俺達が困るから手を貸しただけだ。気にしないでくれ」


「ご謙遜を。その魔石もそうですが、僅かばかりとはなりますが今後の旅に役立つ金銭をお渡ししたい」


「いや、お礼はこの魔石だけで十分だ」


「いえいえ、私の今持っている物だけでもお持ち下さい」


「本当に礼は…」


本当に断ろうとした時に、セレスティアとディシアが勝手に金銭を受け取ってしまう。


マリーがレルゲンの側に寄ってきて肩を小突いて


「まぁいいじゃない。私達まだ一文無しなのよ?

貰えるものは貰っておいたほうが今後の動きやすさに変わってくるわ」


「それはそうだが…」


「お金の事はあの二人に任せておきましょ。

私達はその大きい魔石で何が出来るか考えるほうがよっぽど現実的よ」


レルゲンは大きく息を吐き出して


「それもそうか」


と半ば強引に押し切られる形となった。


街の平和を、そして騒ぎを最小限に抑えたと思われたが


レルゲンの最後の一撃が上空に放たれるのを計測していた機関があった。


「なんて純度の高い魔力攻撃なんだ。今までの計測データをどれも大幅に更新している!

これは素晴らしい被験体を発見したぞ!」


コップに飲み物を注ぎにやって来る助手と見られる悪魔が、計測データを確認して興奮気味の悪魔に向けて声をかける。


「勇者が来たのではないですか?」


「可能性はある。だけど、我々が持っている伝承にはあんな攻撃方法を聖剣は持っていない。


正しく未知の悪魔か、はたまた可能性は低いが人間によるものだと思われる」


寧ろ人間であってくれたほうが面白い!と言わんばかりに稀有な計測結果を前に昂っているのに若干助手は引きながらも


ようやく目覚めた魔王に報告に行こうときびすを返すと、興奮が急に冷めた悪魔が引き止める。


「どこへ行くつもりだ?」


「え?魔王様にご報告ですが」


「それは許可できない。やっと僕を楽しませてくれそうな被験体が見つかったんだ。

勝手な事はよしてくれないか」


「興奮しているから冷静な判断が出来ていないようなので忠告しますが


敵対勢力なら間違いなく我々にとって脅威になりかねないデータです。


魔王様にお伝えするのは至極当然だと思いますが」


「二度同じことを言わせるなよ」


研究者と思われる悪魔の感情に引きづられるように魔力が高まってゆき、魔力計器が悲鳴を上げるように上昇していく。


これには助手も引き下がらざるを得なくなり、脂汗をかきながら言葉を返した。


「分かりました。もう少しだけ報告は後にします。

貴方に殺されたくはありませんからね」


諦めた宣言を聞いて気分を良くしたのか、一瞬の内に魔力が拡散されて計器も下降していく。


「分かってくれたか!僕はいい助手を持ったなぁ!」


何度もレルゲンが放った時のデータが記された紙を抱きしめながら


「君は誰にも渡さないぞ」


悪魔の研究者は執着するような邪悪な笑みを浮かべていた。

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