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7話 天使の像

レルゲン達は南に進路を変更して飛んでいると、集落ではなく今までで一番大きな街が見えてくる。


「どうする?寄ってみる?」


マリーがレルゲンに確認する。

進路が南に決まったとはいえ、まだまだ悪魔に対しての情報が不足しており、文化形態もまだよく分からない。


悪魔の民達は一体どんな心を持ち、敵に対してどういった反応をするのかが今一番知りたい情報である事は変わらない。


安易に手を出す事は出来ないが、敵の動向は探りたい。


相反する矛盾を抱えながらもレルゲンは擬態の隠蔽が可能になったセレスティアの実力を信じて、街に寄る事を決意する。


「ああ、今までで一番大きな街だからな。新しい情報があるかもれないから寄ってみよう」


街の外れに降り立ちセレスティアが複合魔術をかけてエルフの姿へと再び変化させ、街の入口を目指して歩いてゆく。


衛兵の悪魔から呼び止められることはなく、街の内部への潜入を成功させると、レルゲン達は歩いて探索をする事に。


街を歩き始めて数十分の時が流れ、中心地と思われる大きな白い石像が飾られている場所まで辿り着く。


「これは、悪魔なのか?」


レルゲンが石像を見上げながら疑問を口にすると、ディシアが軽く説明してくれた。


「これは天使だと思われます。

本来悪魔は天使の成れの果ての種族とされており、天使が羽をもがれて絶望した姿だと言い伝えられています」


「絶望した姿…なら悪魔にとって天使とは憎むべき存在だと思うが、なぜここに大きく飾ってあるのだろうな」


ディシアもそこまでは知らないようで口をつぐんだが、レルゲン達の下へやってきた一人の老悪魔が白い髭を蓄えながら教えてくれた。


「やあエルフの方々。こんな遠い南方の街まで来れば分からないこともありましょう。


簡単に言えば、悪魔にとって天使とは憎しみよりも、畏怖や畏敬の感情が強いことにあります。


そのため、天使の怒りを買わぬよう、鎮めるように、こうして大きな像を彫り師が削って立てたのです」


ディシアが顎に手をやって、老悪魔に感謝を伝える。


「なるほど、畏怖と畏敬ですか。感謝します、ご老人」


「いえいえ、歳で言えば貴女が一番上でしょう。その銀髪に変わるまで一体どれ程の長い月日が流れたのか、私には想像もつきませんよ」


一瞬ディシアは視線を老悪魔から逸らして、再度目を合わせる。


「いいえ、エルフにとって歳は見た目の変化ではなく、精神的な老化が強い意味を持ちますので、貴方のように見た目で歳を感じられるのは少し羨ましいとさえ感じます」


「お上手だ。ではそろそろ私はお暇させて頂きます。皆様、良き旅を」


老悪魔がその場を後にした後に、レルゲンがディシアへ驚きと労いの言葉をかける。


「よく即興であの悪魔に話を合わせられたな」


「普段から周りを観察していれば、自然と身につく物ですよ。そんなに大したものではありません」


ディシアの完璧な切り返しに、エルフ姿のレルゲンは思わず唸って感嘆の声を上げた。


悪魔と天使の関係性が新たに分かった事で、一つの事実が浮かび上がってくる。


悪魔とは、魔王が従えているのは変わりないが、元は天使から生まれたものであり、魔王が生み出した種族ではないということ。


この差は大きい。


遅かれ早かれ悪魔との戦闘は避けられないが、魔王に心酔するものもいれば


反発する異分子的な存在も必ずと言っていいほどいることが老悪魔の言葉から理解することができた。


この大きめの街での情報収集はこれくらいにしておいて、更に南へと進もうとしたレルゲン達だったが、ある環境の変化に気がついた。


それは、溢れんばかりに飽和状態とも言える周辺を取り巻く魔力が少し抑えられているような


まるで深域と似たような魔力が辺りを包んでいることに。


深域と似ているということは、魔物が発生する事が可能な環境と言える。


素早くレルゲンが全員に臨戦体制を取るように指示を出すと、周囲の魔力が一箇所にどんどんと集まり始め一つの巨大な魔石を形成していた。


形成された魔石から肉や骨が生成され始め、一つの生き物の塊となって現れる。


魔物の魔力量から考えると、特別な六段階目に分類されるベヒモスと同等かそれ以上の魔力を誇った


二足歩行型の肉食獣のような見た目をした魔物が出現する。


「グアアァァァァァァァアアアア!」


とてつもなく大きな咆哮を上げて一人の悪魔へ威嚇をする魔物は、そのまま頭を下げて突進攻撃を仕掛ける。


悪魔はこれを辛くも躱すが、魔法すら使えない悪魔が殆どのようで


援護する魔術師が圧倒的に足りないが、街の衛兵の悪魔が集まり、何とか抑えることに成功していた。


幾ら魔力を多く持っていても使いこなせなければ宝の持ち腐れ。


無意識のうちに身体強化に魔力を使っているようだが


普段から身体強化をしているレルゲン達からすれば全くと言っていいほどに運用できていなかった。


それを見ていたレルゲン達は介入するか迷っていたが、


一人の青年型の悪魔が命懸けで戦っている表情を見ることで踏ん切りがつく。


助けると決めたレルゲン達が一歩前に出ると、青年型の悪魔がそれ以上前に出ないように声を上げた。


「これは俺の戦いだ!手を出さないでもらおう!」


「それは構わないが___君、そのままだとやられるぞ」


「何を言っていやがる。今押しているのはこっちだ、どこを見たらやられるんだ?」


レルゲンは言葉を返さずに、ただじっと見ていると次第に疲労が溜まっていった

衛兵の悪魔が一人、また一人と脱落してゆく。


寧ろ特別な六段階目相当の魔物相手に、魔力の扱いが素人とも言える悪魔が


束になって拮抗できるだけで悪魔のポテンシャルの高さが伺えるが


次第に周りの悪魔が減っていき、それでも他種族の力は頑なに借りようとしない青年の悪魔は


とうとう自分一人だけでは対処ができなくなったのか、噛みつき攻撃を仕掛けた魔物の一撃をもろに浴びてしまった。


「くそっ!」


大きく血反吐を青年の悪魔が口から漏らすと神杖を構えたセレスをレルゲンが止める。


「セレス、回復はアイツらには必要ない。もう少し見守ろう」


「折角ブツを使ってイビル・ラプトルを作ったっていうのに、なんでこうなるんだ!」


魔物を前にして打開策を考えるどころか癇癪を始める青年の悪魔。

間違いなく潮時だろうが、それでもレルゲンはまだ動かない。


周りがまだ助けに入らないのかと視線をレルゲンに送ったが


何かを待っているようにも見えたレルゲンに誰も口は出さなかった。

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