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3話 悪魔の歴史

「偉大なる魔王は勇者一向の侵略行為により長い眠りにつくが、数世紀の時を経て復活の時来たれり。


偉大なる魔王は卑劣な自衛行為と自称する侵略者から、民を護る為に勇敢に戦われる。


偉大なる魔王の臣下達よ、その命を捧げよ。民草達よ、武器を取れ。


我らの国を、世界を、何人たりとも犯されることなかれ」


レルゲン達が知っている魔王像とは正反対とも言っていい程に


見る角度が変わるとこんなにも考えが異なるのかと、教示を見て面食らっていた。


マリーは余りにも勇者側が悪者扱いになっていることに納得がいかないようで、小声で悪態をつくのを我慢できなかった。


「馬鹿げてるわ」


ディシアと召子も表情が固くなり、言葉には出さないがマリーと同意見のようだが、レルゲンとセレスティアは少し違った。


「もしかしたらだが、魔界に攻め込んで魔王を問答無用で打ち倒した扱いにして民を納得させているのか」


「この教示を広めることで、結束を高めようとしているのでしょう」


広まっている悪魔間の常識に触れる事で、勇者が、人間達がどう見られているのかがよく分かる。


その場を後にしようとレルゲン達が出口に向かうと、一人の司祭と思われる悪魔が呼び止めた。


「エルフの方々、お相手できずに申し訳ない。

私がここの司祭長をしているものです。


悪魔の教会にあなた方のような方々が訪れるのは珍しい。


本日はどのようなご用向きでしょうか?」


「いや、特に用はない。遠いところから来たものだから、ここの信仰を知る為にやってきただけだ」


「そうですか。よかったらもう少し見ていきませんか?」


レルゲンが一度周りを見るが、ここでそそくさとその場を後にしても怪しまれるかも知れない。

ここは堂々と聞いてみる。


「勇者の記述について、もう少し知りたい」


「ええ、構いませんよ。

さぁ、こちらにお掛けになって下さい。

私が教本を元に解説を交えながらお話しさせて頂きます」


一時間に及んだ解説は、実に興味深いものだった。


その中には、人間が悪魔に対する根源的な恐怖や憎悪を元に誕生した代表者である勇者が

人間の不安を払拭する為に悪魔達を皆殺しにして周り


どんどんと強くなった勇者は最終的には魔王の元へと辿り着く。


仲間が次々に死んでいくのも糧にして聖剣を振りかざし、魔王を長年の眠りにつくまで追い詰めたが


ただではやられずに死の宣告と呼ばれる呪いを勇者に与える。


聖剣の持ち主は精霊の一種となり不老となるが、呪いにより人間と同じだけの寿命に削られた勇者は

寿命という枷を与えられて死に至る。


結果として魔王は死なず、勇者だけが死ぬ。

魔王の偉大なる力によって勝利という形で幕を閉じるといった内容だった。

 

「なるほど。つまり勇者は本来不死のような存在だったが、魔王様の力によって死を与えられたというわけだな」


「はい。そうなります。教示では分かりやすく勇者を卑劣な輩として扱ってはいますが、


一説では退屈していた魔王様は初めて自分に逆らう人物が出てお喜びになられていたという考えもあります。


これは眉唾として扱われている地域が殆どなので、余り口外しない方が良いでしょう」


「ではなぜわざわざそれを俺達に伝えたんだ?知らなければそれでよい話しだと思うが」


レルゲンが試すように司祭長の悪魔に尋ねる。

手には黒龍の剣をいつでも抜けるように準備を済ませて


「そうですね。やはり貴方は頭が良いようだ。

それを尋ねるということは、こちらも正直にお話し致しましょう」


司祭長がカツ、カツとゆっくり靴の音を立てながら教本を片手に本棚へ向かっていく。


「なぜ"エルフのフリをしている何者か"がこんな教会に足を運んでいるのか興味が湧きまして、声をかけさせて頂いたのです」


「!!」


全員に緊張が走る。

この悪魔はセレスティアが巧妙に全員の容姿を変化させ、自然魔力量を偽装していることに気づいている。


方法は分からないが、高位の魔術師が行使する魔術を見破る術を持っていると簡単に白状したことになる。


マリーが今にも斬りかかりそうになるが肩を強く掴んで抑え付け、レルゲンが司祭長に話しかける。


「我々のことを随分と探っているようだが、なぜすぐに街の衛兵へ通報しない?」


「ここは非武装地帯。あなた方が何者であろうと、例え憎き人間だったとしても私から動くつもりはありません。

ですのでどうかここは穏便に。


我が身可愛さで言っているのではありません。


その程度の偽装をするなら、逆に怪しまれてしまうと忠告がしたかっただけなのですよ」


セレスティアは魔術師としてのプライドを少なからず持っている。


しかし、武器も持たない一般的な悪魔に見破られる程甘い掛け方はしていないという自負を持っていた。


根本的に魔術レベルの高さが伺える悪魔に、セレスティアは絶望はしないまでも、汗を拭う裾は大きなシミを作っていた。


「そうか、自身の危険を省みずに忠告するあなたに敬意を込めて礼をさせてもらう」


「いいえ、あなた方に魔王様の加護が在らんことを」

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