2話 悪魔の街
「レルゲンさん、お水下さい…」
コップに水を魔力で精製して渡すと、少しずつ飲んでいく召子。
性質変化で凍る寸前まで冷やされた水が、召子の心を落ち着けた。
「冷えてて美味しいです…私も魔力があれば」
「そろそろ休憩入れるか?」
「いえ、私はフェン君に乗りながらアビィちゃんの回復魔術で介護してもらっているので、もう少し頑張らせてもらいます」
「わかった。もう少し歩いたら休憩にしよう」
「すみません…」
アビス・アイビスのアビィは自身だけでなく仲間にも回復できる、平たく言えばリジェネライト・ヒールが使える。
アビィの魔力量にもよるが、そこは六段階目以上の魔物なだけあり残存魔力量はまだまだ余裕があった。
魔術をかけている側から、どんどんと周辺環境から供給されていく魔力で実質魔力を消費していないに等しいレベルで運用ができていた。
これならば戦闘中は全員にリジェネライト・ヒールをかけながら戦う事ができるだろう。
召子が根を上げる限界まで歩いたレルゲン達は、遠くに街のような建物が密集しているのを確認する。
「俺とセレスで街を上空から確認してくるから、皆んなは見つからないようにここで待っていてくれ」
「召子の介抱は私がやるわ」
「頼んだ。なるべく早く戻ってくるから、それまでは辛抱してくれ」
マリーが頷くと、レルゲンとセレスは共に念動魔術で浮き上がって街を目指す。
隠蔽魔術をかけて上空から街を眺めると、人間界と至って変わらないような営みがそこにはあった。
悪魔達は作物や服を売り、武器を持った悪魔が集まって一つの建物に入っていく様も見受けられた。
スラムと思われる場所もあるが、それは治安の悪い人間界の街にもよくある光景と言ってもいいだろう。
唯一の違いがあるとすれば、それは街を歩く悪魔達は皆持っている魔力と浅黒い肌くらいなもので、
中にはレルゲン達と同じような肌の色をしているエルフすらいる。
これならばレルゲン達もエルフに変装すれば珍しいまでも不自然とは思われないだろう。
早速マリー達の元へと戻り、街の様子を報告すると
「悪魔の世界なのは変わらないけど、多文化なのは間違いなさそうね。フェンやアビィは中に入れそう?」
「アビィはともかく、フェンはもしかしたら難しいかもしれないな。まだ俺達は魔物に一度も遭遇していない。
ここでこんなに大きなフェンが街に入ったらパニックになる可能性がある…どうしたものか」
「フェン君、アビィちゃん、小さくなれたりする?」
「ワン!」
「ピィ!」
みるみる小さくなる一匹一羽は、小さくなってから召子が着ている黒いフード付きの上着の内側に潜り込んで隠れる。
これなら問題なくエルフの擬態ができるだろう。
擬態の有効時間をレルゲンがセレスティアに尋ねると、およそ丸一日は効果が続くようなので、擬態が急に切れることは無さそうだ。
安心して街に正面からレルゲン達が入るが、初めて悪魔の街に入るため表情は固い。
(この衛兵。大きくもない街の衛兵の割にはかなり強いな)
緊張が街の衛兵の悪魔に伝わらないように挨拶を済ませると、レルゲン達はぶっきらぼうに呼び止められる。
「おい」
マリーが神剣に手をかけそうになるが、目に見えない程細い魔力糸で思念伝達する。
(気持ちは分かるが待ってくれ)
寸前で神剣からマリーが手を離す。
レルゲンが振り返ると、衛兵の悪魔が確認するように問いかける
「お前達、全員がエンシェントエルフのように見えるが、出身はどこの村だ?」
「それは言えない掟になっている」
悪魔は少し考えたが、疑問は持ちながらも変装したレルゲン達を通すことにしたようだ。
「そうか、お前達は珍しい。この街にはあまり長居しないことを勧める」
「お気遣い痛みいる。そうさせてもらう」
街の中に入ると、もの珍しい扱いこそ受けるが、不審がられる事もない。
人間界の街並みで黒いフード付きの上着を着ている集団がいれば、衛兵に通報する人すら出てくるだろうが
ここにいる悪魔達の格好は黒をベースにしている服装が殆どのため
服装こそ違いがあるだけで、色味は幸運にも街の雰囲気に合っていた。
(とりあえず街の中心地まで行ってみよう)
魔力糸で全員に思念を飛ばして、歩みを進める。
街の中心には大きな円形の広場の真ん中に噴水があるのみで、特に変わった様子はない。
次にレルゲン達が目指したのは街で一番大きな建物である教会。
そこには古の魔王を祀るような硝子細工やステンドガラスが張り巡らされており、教会の悪魔に話を聞いて見ることに。
そこで悪魔がどのように魔王に対する信仰をしているのか、手取り早い調査と言ってもいい。
そこでレルゲン達が聞いた内容は、人間界では全く異なる解釈がされていた。