51話 深域修行と悪魔再来
一方マリーとセレスティアのコンビは順調に深域での修行をこなしていた。
「セレス姉様!囲い込みをお願い!」
「お任せを!」
セレスの繰り出した氷の槍を柵代わりに地面へと突き刺して、素早く動く五段階目の魔物。ラピッド・ラビットを追い込む。
見た目こそ可愛らしい姿をしているが、実際は肉食で獰猛な性格をしており
度々深域に迷い込んだ冒険者が興味本位で触ろうとして
腕を噛みちぎられる被害が後を絶えない。
指定駆除魔物としてギルドに登録されている、素早く移動できることが特徴のウサギ型の魔物だ。
最初からしっかりと討伐対象として認識すれば被害を抑える事は可能だが、今回のように一度走り回ると中々手がつけられなくなる。
セレスティアのように遠距離から行動範囲を狭める戦い方は、ラピッド・ラピッドの攻略方法として正しかった。
走る範囲を限定されたラピッド・ラビットはマリーの方へ向き直り、走る速度を一層強めて突進。自慢の牙を利用しようと最大限口を開ける。
待ち構えていたマリーは、神剣に魔力を込めて意識を集中すると
刀身が白く輝き始めて聖属性が付与され、下段に構えて間合に入るのをじっと待っていた。
ラピッド・ラビットが攻撃範囲にマリーを捉えると、飛び上がり大きく開いた口から牙を立てて噛みつこうとする。
これを冷静に見ていたマリーは神剣の間合に入った瞬間、足に魔力が込められて即座に加速し
ラピッド・ラビットを正確に捉えて切り上げ攻撃を当て、魔石へと還した。
「マリー、お疲れ様でした」
「セレス姉様も!」
二人で手を合わせて更に次の魔物を求めて奥へ進んでいくと、少し開けた平原地帯が広がっており、そこには一本の大木が鎮座していた。
その大木の下にある木陰を求めて魔物達が集まっている、言わば魔物を探しにいく手間が省ける絶好の狩場だ。
ただ木陰で休んでいる魔物達は五段階目や六段階目が殆どで、一斉に相手取るのは難しいようにも感じられる。
「どうやって討伐する?」
「一体ずつ相手取るのがベストだとは思いますが、まとめて相手にする練習もしておきたいですね。
毎回万全の状態で戦えるとは限りませんから」
「なら最初はやっぱり?」
「この手で行きましょう」
魔物に勘付かれないように姿勢を低くして接近し、二人が徐々に魔力を高めていく。
魔物の意識外ギリギリの地点で二人は立ち、
合体魔術を全力で放つ。
「「ユニゾン・テンペスト!」」
眠っている魔物へ不意打ちが成功し、十体以上いた魔物の群れが残り三体まで数を一気に減らすことに成功する。
残ったのは六段階目二体と五段階目一体と思われ、いずれも深手を負った状態だ。
バフが掛けられたマリーが、まずは数を減らそうと五段階目の魔物に突っ込んでいき
セレスティアは六段階目の魔物がマリーへ近づかないように再び氷の槍を用意して分断する。
マリーの口角が上がって、更に加速するために足に魔力を込めて力強く地面を蹴った。
無事に全ての魔物を倒し切った二人は、一度転移魔法陣で中央へ戻ると監視塔にいるだったレルゲンと鉢合わせになった。
レルゲンは安堵の表情を浮かべたが、その場にいた女王もまた安心した顔をしている。
「あれ、時間過ぎちゃってた?」
マリーが確認すると、レルゲンが
「一時間以上過ぎてるぞ」
セレスティアが事情を説明すると、レルゲンは少し笑って二人を抱きしめるのだった。
「何もなくて良かった」
「ちょっと苦しい…」
「ご心配をおかけしました」
そんなこんなで度々遅れながらもマリーとセレスティアはしっかりと午後には一度帰ってきて
顔を見せながら深域修行をこなしていた。
事態が動いたのは深域修行を始めてから数日後、召子が新しくテイムしたアビス・アイビスをマリーとセレスティアに披露したばかりの頃だった。
「アビィちゃん、これからよろしくね」
「もう名前を決めたのか」
「はい、やっぱりこの子はちゃん付けがいいかなって」
「魔物にオスメスってあるのか?」
「いいじゃない本人が喜んでいるだし」
マリーがアビィを優しく撫でると、気持ちよさそうに鳴き声を上げていた。
和やかな雰囲気が一変し、監視塔の警備に当たっていた騎士団のメンバーが緊張間を孕んだ声で報告を入れるために、会話に割って入ってきた。
「ご報告致します。悪魔が転移魔法陣を利用してこちらにやってきました」
「数は?」
「一体のみです。アッシュと名乗っており、最上召子を出せと言っています」
「私、行きますね」
「待ってくれ。一度退けた相手が今度は一人で来たんだ。何かあるに違いない。
いけるメンバー全員で行こう」
全員が頷き、監視塔の方角へ急いで飛んでいく。