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49話 女王の苦悩

中央王国に帰った二人は、早速転移魔法陣の正確な位置を伝えると


仮に転移先へ地上から向かったとしても時間がかかり過ぎるという結論になった。


それはレルゲンが超速度で単騎特効したとしても数週間はかかる距離だったため


緊張が高まっている今の状況では移動方法として現実的ではなかった。


敵の用意した悪魔が用意した転移魔法陣をレルゲン達が利用して特効をかけるとしても


転移先が悪魔の根城本陣だった場合、これもまた採用が難しいとして皆の頭を悩ませていた。


昔に現れた勇者という人物は、どうやって深域の先まで到達して魔王を打ち倒したのか___


記録が残っていないかヨルダルクの書物を調べても出てこない。


もちろん数世紀よりも更に前の記録のため、王立図書館にも保管されていない情報だ。


「やっぱり悪魔が用意した転移魔法陣をこっちで利用するしかないんじゃない?」


マリーが特効になったとしても、自分達が強ければ問題ないと言わんばかりに宣言する。


「ですが、敵の本陣だった場合は一度に囲まれて対処ができない場合があります。あまりに危険すぎるので私は反対です」


セレスティアは慎重な様子で、いきなり特効するのは無謀だと真っ向から否定する。


「じゃあセレス姉様はこの距離をレルゲンの飛行で飛んでいくと、そう仰るのですか?」


「それも難しいから皆で頭を悩ませているのではないですか」


久しぶりに姉妹喧嘩一歩手前まで行った時に、レルゲンが話に割って入る。


「そもそもの話なんだが、転移魔法陣って必ず転移先に一度徒歩で行かないといけないんだっけか?」


これにカノンとディシアが首を振り、レルゲンの疑問を否定する。


「いえ、転移先の誤差が大きくなりますが、直接出向かなくても魔法陣自体の作成は可能です。


ですが、転移先の距離が離れれば離れる程誤差も大きくなってゆき


最悪の場合は数百キロ単位でのズレが発生する可能性があります」


「そうか、一番現実的な話が出てきたな。二人はどう思う?」


マリーとセレスティアに意見を求めると、二人とも妥協案としては納得したようで、頷いて返事をする。


レルゲンがディシアに向かって再度確認を入れ、どれくらいで作成が可能か尋ねると


「カノンもいる事ですし、およそ二週間程あればしっかりとした陣の作成が可能かと思います」


「わかった。それで行こう。陣が出来るまでの間は魔法陣の監視と修行だな。


俺もそうだがもっと強くならないといけないのは確かだ。日替わりで深域に行って修行をしながら時間を使おう」


「なら私はセレス姉様と組みたいわ。レベル的な話もそうだけど


やっぱりこの前の悪魔と同じ様にレルゲン抜きで相手をしないといけない機会が増えてくると思うし」


マリーが提案するのは最もだ。

セレスティアは後衛のため、レルゲンの後ろが一番安全とはいえ、マリーの場合は別だ。


レルゲン抜きで敵の攻撃を引きつける必要が出てくるので、自分一人で強さの完結をしなければならない。


国の要人同士である事を除けば、一番効率的と言ってもいいだろう。

問題は女王がこの割り振りを納得するかどうかだ。


女王の私室を軽く叩き、レルゲン達が中へ通される。


新たな転移魔法陣の作成と、その間の修行方法について話すと、やはり首を縦には振らなかった。


「お気持ちは理解します。

ですが貴女達は一人の戦力である前に国の姫なのです。


最近は徐々に貴女方がここを巣立っていくのを見守っていましたが


王女のみで深域に行くというのは流石に危険なのではないですか?」


「お母様、心中お察し致します。

ですが、これもまた悪魔の根城に向かって王国を守るための最短の道。


危険度で言うならば魔王討伐の方が遥かに高いのです」


女王は正直に言えば魔界に向かうことすら許可したくなかったが


勇ましくも国を護ろうとする娘達の意思を尊重した結果、なし崩し的に認めているに過ぎない。


今回はハクロウやレルゲンもいない。

それを逆手に取ってのセレスティアの進言は、女王にとって頭を痛める内容だった。


暫く無言の時間が過ぎる。

女王は大きく息を吐き出して、二人の深域修行を認めるのだった。


ただし、二人のみの深域修行に一つだけ条件を出した。


朝から一日修行をする時は、半日。つまり午後に入る前に一度転移で戻ってくること。


二人は必然的に転移魔法陣近くの場所での修行となったが、それでもマリーとセレスティアは喜んでいた。


「午後に入って戻らなかった場合には騎士レルゲンを深域に向かわせます。よろしいですね?」


「「はい」」


二人とも返事をして、二週間の間の行動が決まるのだった。

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