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48話 神託の占星術

「どうぞ」


木製のコップにお茶を注ぐと、金髪の少女が話し始める。


「本日は遠くから遥々お越し頂きありがとうございます。ここに来る理由は一つ。神託のご依頼ですね」


「話しが早くて助かる。俺達が頼みたいのはある召喚陣が結ぶ距離の算出だ」


「私はミラと申します。距離の算出ですか、なるほど。その召喚陣の写しはありますか?」


「俺達は…」


「存じております。神託によればレルゲン様とディシア様ですね」


二人は見合って神託の凄さを実感して、写しを取り出す。


「レルゲン。お願いします」


念動魔術で鞄から大きな紙を取り出して、机の上に広げる。


紙が勝手に広がって行く様を見た少女は少し驚いた表情をしたが、すぐに紙に描かれている転移魔法陣を確認する。


「本当はもっと大規模に陣が形成されているが、これはその縮小版になる」


「拝見します。随分と緻密に描かれていますね。これは私だけでは無理かも」


「特定は神託を以てしても難しいということか…」


二人が肩を落とすと、ミラが慌てて手を横に振って否定する。


「あ、いえ私はまだ神託の修行が未熟なだけで、現在技術を継承中の身なのです。


私に神託の占星術を教えているのは母であるモイナになりますので、母であれば、恐らく…」


「特定できるかも知れないという事か…モイナさんは今はいないのか?」


「はい。母は現在畑仕事で表に出ております。

作物の収穫に出ておりますので、帰りは夕方頃になるかと」


「分かった。モイナさんが来るまで本来待ちたいところだが、昼になるのもまだ時間がかかる。

ここから近いところで収穫をしているのか?」


「はい、ご覧になりますか?」


「ああ、収穫なら俺の魔術で手伝える筈だ。

午前中までには戻るから、収穫中はミラさんと少し待っていてくれ」


「分かりました」


「レルゲン様、母はここから真っ直ぐ行った所畑で作業をしていると思います」


「ありがとう」


レルゲンが念動魔術で空へと飛んでモイナを探しに出て行く


数百メートル飛んでからすぐに下降を始めるのをミラは確認すると、ディシアの下へと戻るのだった。


下降した先に見えたのは、ミラと似ている女性だった。頭に白い被り物をして

手には鎌のようなものを手に汗を拭っている。


降りてきたレルゲンを見るや、軽くお辞儀をするモイナ。


「遠路遥々お疲れ様でした。レルゲン様ですか?」


「そうだ。ミラさんと先に話をして、モイナさんが収穫中と聞いて手伝いに来たんだ」


「わざわざすみません。ではこちらでお願いします」


鎌を一つ手渡すが、レルゲンは手で制して風魔法を唱える。


「ウィンドカット」


念動魔術で金色に輝く作物を固定して、風の下位魔法で刈り取り作業をしていく。


切断された作物はそのまま空中を浮いてカゴへと収穫されていき、モイナは驚きの余り鎌を地面に落としてしまった。


一時間もかからずに収穫予定だった区画の作物を全て刈り終えて帰宅するレルゲンとモイナを見たミラは


「お母さん、もう終わったの?」


「レルゲン様の魔術であっという間に終わっちまったよ。便利な魔術があるんだねぇ」


モイナが着替えを済ませて居間にやってきて召喚魔法陣を確認すると、目を細めて唸る。


「これは、人間が描いたものではないですね?」


「はい。恐らくは悪魔が描いたものだと思います」


「ふむ、悪魔がこれほどの陣を描けるとは…占星術による位置の割り出しは可能です。


可能ですが、これだけの距離を繋いでいるとなると通常の占星術とは違い


高純度の魔力が物質化された触媒のようなものが必要になります。


私もいくつか触媒は持っていますが、全て使ったとしても足りるかどうか…」


「高純度の触媒か」


「レルゲン、メテオラで譲り受けたという浮遊魔石ではどうでしょうか?」


レルゲンがスカイから譲ってもらった赤い魔石を懐から取り出すと、モイナが確認する為に色々な角度から石を確認して、「うん!」と頷く。


「これなら間違いなく触媒として機能すると思います。それにしてもよくこんな貴重なものをお持ちですね」


「元々は悪魔が盗んだ物だが、戦ったことで回収できたものだ。持ち主からは許可を得ているから安心してくれ」


「それなら安心です。

占星術は星を実際に見る事で成り立つものですが、今回はより星を見ながら行わなければならないので

新月の日に行おうと思います」


「次の新月はいつか分かるだろうか?」


「三日後になります」


「分かった。それまでは畑作業を手伝わせてもらうよ。ディシアはミラさんと一緒に占星術について話し合っててくれ」


「はい、ミラさん。それまでの間、よろしくお願いします」


「こちらこそ短い期間ですが、占星術の考えや、簡単な物でしたらやり方もお伝えさせて頂きます。


ただ、神託に関わる占星術とはまた別になりますので、そこだけはご容赦下さい」


「やはり神託は秘匿事項か」


「はい。代々守ってきた方法なので、これだけはお伝えする事ができません」


レルゲンとディシアが頷くと、ミラは笑顔になり三日間お世話になる事が決まった。


その間はレルゲンは畑仕事を手伝い、ディシアは占星術を学びながら過ごして


いざ三日後の夜を迎えた訳だが、天気は生憎の雨となっていた。


窓から外の景色を覗くモイナの表情は暗く、レルゲンとディシアに向かって謝罪する。


「申し訳ございません。この天気では占星術を行うことは難しく…次の新月まで待たれますか?」


「いや、今日やってもらわないと困るな。星が綺麗に見えればいいのか?」


「はい。しかし天候操作の魔術は雨を降らせることは出来ても晴らすことは難しいのではないですか?」


「そうだな。魔術による天候操作は無理だが、この剣なら可能だと思う」


隅に置かれている黒龍の剣を見ると、モイナとミラが目を合わせて「本当に…?」という表情をしていた。


外にレルゲンが黒龍の剣を持って出ると、雨音が激しく鳴っており、直ぐに服が水浸しになる。


「レル君。私の力が必要?」


胸のポケットからウルカが顔を出すと、レルゲンが「頼む」と一言返す。


レルゲンの魔力が徐々に色味を帯びてゆき、ウルカの魔力が流れ込んでゆく。


第二段階、全魔力解放


悪天候により巻き起こる風ではなく、レルゲンの魔力解放による暴風が集まってゆく。


モイナとミラの住んでいる家の窓が外れないまでも音を鳴らして、悲鳴をあげているようだ。


黒龍の剣に全魔力解放で吹き上げられた魔力が込められてゆき、青い刀身が天を衝くほどまで高く伸び上がる。


そのまま大出力の碧い光線が天に向かって伸びてゆき、雨雲を綺麗に割ることに成功する。


空には満点の星空が広がっており、これならば神託の占星術も可能だろう。


魔力のかけらがキラキラと空中に漂う様は地上に降る流れ星を連想させる様で


家で見ていた三人は「おぉ…!」とレルゲンの一撃に感嘆の声を上げていた。


レルゲンはウルカに軽くお礼をして振り返り


「これでいいだろうか?」


とモイナに問いかけると


「まさに天を制する見事な一撃でした。占星術は問題なく可能です」


すぐに神託の占星術に取り掛かるモイナ。

手には触媒の浮遊魔石を持ち、レルゲン達には理解できない言語で詠唱を始める。


徐々に赤い浮遊魔石から一本の線が天へ伸びてゆき、遠くに輝く星がまばらに赤く染まり始める。


「これが神託の占星術…!」


ディシアが初めて見る光景に感動の声を上げ、レルゲンも赤く光る星を見上げていた。


触媒として使われた浮遊魔石は一時的に効力を失ったようで


鮮やかな赤色をしていた石は黒っぽくくすんだ色へと変わっていた。


モイナは浮遊魔石をレルゲンに返し


赤く光る星のみをモイナが確認して紙に記してゆくと、モイナの眉が上がって結果をレルゲン達に伝えてくれる。


「間違いなく地図の外にある、持ってきてもらった地図の縮尺ではこの辺りになります」


記された位置は間違いなく深域よりも更に先にある、恐らくは魔界と呼ばれる場所に通じているのだろう。


正確な転移先が分かった事でレルゲン達が目指す場所が決まり


深域の更に先に足を踏み入れる時が来たことが証明された。


これで直接出向くことも理論上は可能になり、転移先までの距離が分かれば


新たに魔法陣を自力で用意することもできるだろう。


モイナにお礼をして、明日の朝に出発することを伝え、次の日の朝を迎える。


短い期間ながらディシアとミラは仲良くなっていたようで、二人は軽く抱き合って別れの挨拶を済ませた。


「では出発します。お世話になりました」


「またいつでもいらして下さい」


モイナがレルゲンに挨拶を返すと、ミラも別れ際にディシアに向けて声をかけた。


「ディシア様、頑張って下さいね!」


「ええ、ありがとうございます」


二人が浮いてゆき、中央へ向けて飛んでゆく。


家から飛んでいく二人を見るモイナとミラは手を振って別れを惜しんでいた。

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