45話 悪魔達の痕跡
立ち直った召子とフェンと共に、レルゲン達は悪魔の出所と思われる地点の近くを捜索していた。
しかし、捜索地点は地脈からの魔力に満ちていて、魔力の残滓からは特定する事が出来ないでいた。
必ずどこかに痕跡が残っているはず。
敵の悪魔は飛行船も用意してきたという事は
どこかに発着場として使われた場所が用意されているに違いない。
それに魔物が数千行軍してきたのだ、足跡があったとしても不思議ではない。
しかし、発着場どころか足跡の痕跡一つない。
これにはレルゲン達もどうやって痕跡を消しているのか検討がつかず、周囲には木々が生い茂っているだけ。
ここで、地図を見ていたマリーが違和感を覚える。
「ねぇセレス姉様…?ここ、地図だと平原が広がっているはずなんだけど
こんなに木が生えている場所でしたっけ?」
「私にも地図を見せてもらってもいいですか?」
セレスティアがマリーの持っている地図を確認すると、確かにここは平原地帯の印が打たれているようで
「おかしいですね。この地図は中央の最新版のはずですが…」
レルゲンが地図を覗き込みながら、セレスティアに確認する。
「最新版から今までの期間に木々が生えたって可能性は?」
「あり得ません。本来木々は何年も月日をかけて成長していくもの。
最新版の地図は作成されてからまだ一年も経っていません」
「それは確かにおかしいな。少し調べてみるか」
レルゲン達が森の中に入っていくと、魔力感知に幾つか反応があったが
この新しく出来た森を棲み家にしている魔物だろう。
魔物との接近を避けるように、大きく成長されている大木の枝部分からレルゲン達が見下ろして確認する。
すると、地面を割るように根が張っている様を除けばなんら違和感が無いように見えるが
魔力探知をすると大きな違和感が露わになる。
この地面を割っている木の根から覗く地中から地脈の魔力が他よりも濃く現れている。
まるで、地脈の魔力を糧に超速度で成長しているような感覚。
木の種類も中央に生えている物とは違い、何処からか持ってきた木を成長させているように
木々が綺麗に線を引くように生えている。
まるで何処かの有名な地主が植樹をした、一種の庭のような風景にも見える。
(木を植える事で何かを隠している…何を?そんなもの決まっている。魔物の足跡だ)
レルゲンがマリーに向けて笑顔を向けると
「大手柄だ、マリー。この木は人為的に植えられている、ように見える」
同時にセレスティアもレルゲンの意図に気づいたようで、まだよく分かっていないマリーに向けて説明する。
「つまり、悪魔達が魔物を引き連れてわざわざ地脈が流れている所を通り
足跡を消す為に魔力を糧に成長する木を植えたという事です」
なるほどとマリーが納得して、木々が生い茂っている先を見つめて
「この木を辿っていけば、悪魔達がどうやって急に現れたか分かるかもしれないってことね」
レルゲンとセレスティアが頷くと、召子がすぐにフェンの背中に跨って上空から確認して〈魔力眼〉を発動する。
すると確かに地脈に沿って木々が整列するように生えており、レルゲンに合図を送る。
合図を確認したレルゲンがマリーとセレスティアを上空へ連れていき、木が生えている先へと飛んでいく。
程なくして木々の端まで到着するが、それらしい痕跡はそこで途絶えている。
どうやら地脈の端まで木々が生い茂っており、それよりも手前の森の中を捜索する必要があるようだ。
一度木陰で休憩を挟んでから、再度森の中に入っていく。
すると先ほどよりも多くの魔物反応があり、戦闘は避けられない。
「みんな、すぐに戦闘準備を。
恐らくだが、魔物が集中している所が悪魔が通ってきた道に通じているはずだ」
全員が武装して森の中へ進んでいくと、やはり最高段階の六段階目の魔物が洞穴と思われる場所を守護している。
「六段階目の周囲にも、四・五段階目が複数いるな。
黒龍の一撃を使えば魔物の排除はできるだろうが、悪魔達の根城に通じている穴まで破壊しかねない。
それで新しい悪魔が出てこないとも限らないしな」
「どうするの?」
マリーがレルゲンの顔を覗き込むように尋ねると、レルゲンは少し笑って
「俺に考えがある。合わせてくれ」
周りに伝えると、全員が頷いて準備を始める。
レルゲンが周囲の四、五段階目の地面を少しだけ隆起させ、瞬間的に浮かせる。
体制を崩した中型の魔物達は、地面を確認して何とか立つが
その隙にマリー、セレスティア、召子が技を繰り出して魔石へと還す。
残る六段階目の魔物は、レルゲン達のコンビネーションで程なく倒すと、洞穴に向けて歩を進めて奥へと進んでいく。
どうやら通路は地下へと進んでいる作りになっており
セレスティアがサンライトで辺りを照らしながらどんどんと下ってゆく。
洞穴からしばらく歩いて下っていると、今度は人工物に違い石造りの階段が現れて景色が一変する。
壁にはサンライトを必要としない灯りがついており、細い階段には魔物の気配はない。
これもまた道なりに進んで行くと、数百メートル程地下を降りたタイミングで、大きく開けた空間に繋がる。
「中央領の地下にこんな大掛かりな物を作っていたなんて…」
セレスティアが表情を歪ませるが、レルゲンは冷静に
「ミリィを連れてくればよかったかな」
小さく独り言を溢し、罠探知に長けているミリィの力が欲しくなっていた。
「何があるか分からないから、余り触らないようにしてくれ」
円形に開けている広場には魔法陣が刻まれており
これまで何度も見てきた種類に近い陣だと直感的に理解する。
「転移の魔法陣…きっとこの先が魔界に通じているのね」
マリーが近くに寄って、陣には触らないが念動魔術による浮遊で空中から確認する。
恐らく他の国に現れた原因も、この魔法陣と同種の物で間違いないだろう。
それに加えてここまで大規模な陣となると、かなりの距離を繋げていることが予想出来る。
一体悪魔はどこから来ているのかを特定しなければ、また急な襲撃に日夜怯えて過ごさなくてはいけなくなる。
しかし、ここの魔法陣を仮に破壊したとしても、根本的な原因を取り除く事は出来ず
再び何かしらの手段で別の所に魔法陣を形成され、もっと発見が難しい細工をするに違いない。
この魔法陣はそのままにしておき、周囲から動きがないか警戒を続けて
魔法陣の研究を進めて位置を割り出すことが今できる最大限の策である事は間違いなかった。
一度中央王国に戻り、正確な座標を記した上で
カノンやディシアの知恵を借りる必要があると考えたレルゲン達は、そのまま来た道を引き返した。