第二章 1話 中央までの旅路 改稿版
街から中央までは馬車を使えば一ヶ月。歩きだと三ヶ月はかかるだろう。
膨大な魔力量を誇るレルゲンなら三人に念動魔術をかけて
空を飛んでいく事も出来るだろう。しかし、彼はそれを嫌った。
恐らくマリーとハクロウも気づいているが、あえて口にしない。
まだ時間にすれば短いが、
出来るだけ一緒の時間を増やしい気持ちがお互いにあった。
最寄りの街までは後三日というところ。
出発前に買った地図を広げながら、次の街までの道のりを確認する。
「次の街まで後三日くらいか」
「あの街では馬車自体なかったから、
行商人にでも乗せてもらいたかったわね」
「ユニコーン騒ぎで噂が広まって、
行商人すら来なくなっていたからな」
「まぁゆっくり行こうや、お二人さん」
砂埃が舞っていた街とはまた変わり、
芝が生えて背丈の低い草花が咲いている。
唯一、行商人が通っているであろう轍の上を歩いて進んでいた。
「レルゲン、お水頂戴」
「どうぞ」
念動魔術で三人分の荷物を浮遊させて運んでいるレルゲンが、
マリーの分の水を取り出して渡す。
「ありがとう。それにしても本当にこういう時便利よね、念動魔術」
「パーティに一人は欲しいだろ?」
「絶対欲しいわ」
後ろについてくるハクロウもうんうんと頷く。
「そうだ!私にもその魔術教えてよ」
「それは構わないが、マリーの魔術適正ってどのくらいあるんだ?
まだ魔法と魔術、どっちも使っているところ見た事ないけど」
得意げにふふんと笑う
「聞いて驚きなさい。適正ランクAよ」
「なら系統適正があれば大丈夫そうだな」
「これでも魔剣士目指して頑張っているのよ」
魔術適正とは物心つく時にどの程度魔術が扱えるかを測る、
いわば才能テストみたいなものだ。
全部でD〜Sまで評価分けされており、
魔術の一般常識では才能八割、努力二割と言われている。
血統やその育った環境などで後に適正の上下が発生することはあるが、
滅多にないと言っていい。
ちなみに幼少期にレルゲンが測った時はB評価で、今のマリーより下だ。
B評価だと判定された時は少しナイト先生が落ち込んでいたが、
当時のレルゲンにはBもあってなぜ落ち込むのか分からなかった。
ハクロウはC。元々魔法より剣を好む性格で、
魔力運用は自身の身体強化が大部分を占める。
魔術適正がAもあれば念動魔術は恐らく使えるようになるだろう。
念動魔術は使えるようになるまでは早いが、
レルゲンの様に重い荷物をストレスなく運べるレベルになるには時間がかかる。
「念動魔術を教えるのは構わないが…自分で言うのもなんだが、
旧王朝でよく使われていた魔術を今の王族が使うってのはどうなんだ?」
「そんなの黙らせばいい。と少し前の私なら言っていたけど、
使う場面は限定的になりそうね。ベッドの位置をずらして掃除する時とか!」
「念動魔術の本懐だな。分かった、教えるよ」
「ありがとう」
「俺はいい、小難しい術は性に合わん」
「ああ、そうだろうな。ところでハクロウ、
本当にその剣で良かったのか?」
「腰に剣がないと落ち着かん。
とりあえず剣があればなんでもいいのさ」
「そうか」
ハクロウが腰に挿している剣は、
アシュラ・ハガマと戦って残った最後のものだ。
やや太い刀身が和服の着物に収められている姿は、
やや無理があるように見えるが、ハクロウはコレで落ち着くようなので良しとする。
「じゃあマリー、次の休憩の時に教えるよ」
手頃な大きい木があったので、ここで休憩とすることにした一行。
早速教えて欲しいと頼まれたので、実践を交えて教えることに。
自分も庭でやる課外授業が好きだったと思い出しながら、
マリーに向けて話し始める。
「魔力を外に出す時には、どんなことを意識している?」
「そうね、剣に通りやすいように水が流れていくような感覚が近いと思う」
「水か、ならその水を一本の流れにするためにはどうしたらいいと思う?」
「枠を作るか、滝みたいに上から落とすとかかしら」
「よし、じゃあそのイメージで魔力を外に出してみてくれ。
最初から俺のように糸じゃなくていい。
木の棒くらいの大きさでやってみてくれ」
マリーが頷き、意識を集中するべく目を閉じる。
体内に流れていく魔力が手を伝い、ぴたり木の棒程の大きさで現れる。
一発で実践できる辺り、流石は魔術適正Aだ。
「その魔力の棒をこの水筒まで伸ばして」
ぎこちない軌道だが、五メートル程の距離を伸ばし、水筒まで辿り着く。
「魔力越しになるが、この水筒に触っているような感覚があれば合格だ」
うーん、と唸りながらマリーが首を傾げる。
「焦らなくていい、俺は最初、魔力の棒すら出せなかったぞ」
「それは子供の頃の話でしょ」
「ともかく筋はいいと思う。
この調子なら次の街までに念動魔術の物体操作くらいはできるようになるさ」
「やった!」
次の日にはマリーが魔力の接触感覚を掴み、物体操作を身につける。
街につく直前には少しの間空中に自身が浮けるようになっていた。
これには流石のレルゲン先生も舌を巻く。
街に到着し、適当な宿を探して一泊。
次の日には中央に行商に行く荷馬車を丁度よく見つける。
途中何度か最寄りの街に寄りながらも、
順調に中央までの道のりを進んでいた。
次第に土地自体から魔力を感じるようになる。
やはりこの地脈から溢れる豊潤な魔力は、魔法や魔術を扱う人々によって恵みだ。
全魔力を解放してマインドダウン状態だった
レルゲンの魔力を忽ち癒し、超回復を見せていた。
この肥沃な土地の価値は膨大で、
ここを戦で勝ち取ったのが現国王であるダクストベリク率いる国王軍というわけだ。
肥沃な土地という事はその恩恵を受けようとする者が少なからず現れる。
それは人間のみならず、魔物も例外ではない。
魔力の濃い土地には魔物が自然発生する。
その自然発生した魔物に対処する事が、レルゲン達を行商人達が運ぶ条件だった。
一段階目の魔物なら武装した一般人なら追い払う事は出来るが、
二段階目以降となると話は別だ。
中央近辺には最大三段階目までの魔物が自然発生する。
今回遭遇したのは二段階目の魔物。
そろそろ中央の目が気になる頃合いで、
レルゲンはバツの悪そうな顔をしていた。
それを見たマリーが、両手を上にして伸びをする。
「丁度良かったわ、ちょっと「運動」してくる」
「頼んだ、俺は荷馬車の護衛を。ハクロウはどうする?」
片目を開けたハクロウが眠そうに欠伸をしながら
「嬢ちゃんとボウズがいれば俺はいらんだろ。任せた」
アンタ一応はマリーの護衛だろ!とも思ったが、
流石に二段階目の魔物なら特殊攻撃も無いだろう。
マリーが戦ってではなく、「運動」と言ったのも頷ける。
「連続剣の加護」を使うまでもなく、
二撃で仕留め魔石を回収してから戻ってくる。
「全然手応えなかったわ」
「仕方ないだろ、相手は二段目だ」
その会話を聞いていた行商人が驚いたような声で話に割って入る。
「お嬢さん強いね!今の会話から兄ちゃんも強そうだ。
どうだい?うちと専属契約して護衛してはくれんか?」
「悪いな爺さん、俺は彼女の「護衛中」だ」
「今の敵は護衛するまでもねぇってか!こりゃたまげた」
マリーとお互いに見合い、苦笑いしながら馬車は揺れていく。
中央まで後は数日まで来ていたが、
先程の二段階目の魔物を討伐したマリーを見て確信する。
(マリーは気づいていないようだが、
あの街での一件以来、特に暗殺者ギルドの長と戦ってからか。
マリーの動きが格段に良くなっている)
マリー自身はレルゲンに頼り切っていたと言ってはいたが、
自分の命が危ういと自覚してから得る「経験値」は計り知れない。
その変化にレルゲン自身も感じるところが間違いなくあった。
この「経験値」に年齢は関係ない。特にハクロウの「経験値」が凄まじいものだった。
お互いに真剣で、そして魔力解放すらしなかったものの、
レルゲンの本気を味わって生存した事が大きくハクロウの力を底上げしていた。
今でこそ目を閉じてはいるが、
戦いたい気持ちを抑えることに必死だっただろう。
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