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44話 告白

レルゲンと召子はそこから宿屋に向かうのではなく、以前ここに訪れた時に見た夜空の星々を眺めていた。


暖かくも冷たくも無い風が頬を撫で、髪の毛が優しく揺れる。


レルゲンは召子が話し出すのを、ただじっと待っていた。


「私、ここにくる前は、高校生っていう、ここで言う魔術や剣術が学べる生徒でした。


実際には運動と勉学の成績はそんなにいいものじゃありませんでしたけど、それでも幸せな日々を過ごしていたと思います。


それで、ある日学校の帰り道に急に周りの地面が紫色に光り始めたと思ったらこっちの世界に来ていました。


それで急に勇者になれ、ディシアさんを殺せって言われて、今になって思えば中央王国に来たのは助けを求めるためだったと思います」


レルゲンはただじっと聞いている。少し間を置いて、召子が更に夜空を仰向けに見つめて語り始める。


「周りの皆さんに助けられて、魔物退治をしてようやく自信がついてきた頃でした。


悪魔のクロノと戦った時、最後の一太刀を私が入れる直前に見てしまったんです。


嫌だ。まだ死にたく無いっていう、まだ子供だと分かる表情を。


私はその娘を聖剣で切りました。

取り返しのつかないことをしたと思っています。

どうしてレルゲンさんは、そんなに強くいられるんですか?」


難しい問いだ。

薄っぺらい励ましの言葉をかけたとしても、今の召子の心を縛っている物を取り除くとは出来ないだろう。


レルゲンは少し考えてから、口を開く。


「実は俺は、自らの師匠を手にかけた事がある。

未だにもっといい解決策があったんじゃないかって思う時があるよ。


初めて会った時から一度別れるまで、その先生は本当に第二の親のような人だった。


本当のところは俺を、そして家族を騙していたことには変わりないんだが


それでもあの時にかけてもらった魔術の心得は、今も大切にしている」


召子がレルゲンの抱えていたものを知った時、それならば何故、こうも強くあれるのかと感じざるを得なかった。


レルゲンの横顔を召子が見つめる。


「結局、師匠は人間を辞めて異形の姿になってまで高みを目指してしまった為に介錯するしかなかったんだが


止めを入れる時は今の召子の用に躊躇いそうな気持ちにもなった。


でも、自分の大切なものを護るために俺は剣を振った。その事だけは後悔していない。


実際のところ、悪魔の侵攻で最後の一撃を放つ前に主人を護ろうとした悪魔と戦っていたんだが


忠義高く信念を持った敵を斬ったことを後悔している自分も確かにここにいるんだ」


胸に手を当てながらレルゲンは、召子を見つめる。


「乗り越えなくたっていい、迷ったっていい。

一番楽なのは何も考えない事だろうけど、そうじゃない。


俺達がこれからもずっと大切にしていきたいのは、誰かを護る意思、傷つけさせない覚悟だと思う。


召子が今一番大切にしている事ってあるか?」


召子は瞬きをせずに涙が頬を伝うのを気にせずに自分の意思をはっきりと言葉にする。


「私。私は元の世界に帰って、待っている家族と、友達とまた話しがしたい。


でも勇者っていう肩書きが無かったとしても、私に力が無かったとしても


きっと誰かの役に立ちたいって行動を起こしていたかもしれません。


それが戦うことなのか、それとも別の何かなのかは分かりませんけどね。


今はただ純粋に、誰かの為に剣を振いたい。

誰かの未来を護りたいです」


「それが言葉に出来るなら、召子は大丈夫だよ」


お互いが見つめ合って、星々の光が二人を優しく照らしている。


「レルゲンさん。手を、握って貰えますか?」


「ああ」


お互いの温もりを感じ合うように優しく、そして強く握り合う。


「あったかい」


召子が更に大粒の涙を流しながら笑顔を作るが、その夜は泣き疲れて眠ってしまう程に

二人は静かな時を過ごした。


陽が再び顔を覗かせる頃になっても、眠っている二人の手は繋がれたまま。


朝日が昇ってから二人が目を覚ますと、召子はレルゲンの手を握って安心して眠ってしまった恥ずかしさから

すぐに手を離して逆側を向いてしまう。


「おはよう、召子」


「お、おはようございます。レルゲンさん」


挨拶を交わすと召子のお腹から、音が聞こえる程に空腹を知らせる合図が聞こえる。


「すみません。安心したらお腹が空いている事を思い出しました…」


身体を起こしてレルゲンを見つめる召子の表情は完全に復活したわけではなかったが


それでも前を向いて昨日の覚悟を通す意思が瞳には宿っているのを見たレルゲンは、少し笑って


「何か食べてから戻るか、俺もお腹空いた」


朝食を済ませてからゆっくり中央王国に帰った二人は


黙って同じ一夜を過ごした事実にマリーとセレスティアが少し抗議の表情をしていたが


召子の晴れやかな顔を見て全てを察し、二人を温かく迎えるのだった。

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