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43話 負の感情

召子は悪魔の侵攻から二日間、フェンと共に食事も取らずに自室に引きこもってしまう。


レルゲンやマリー、セレスティアやハクロウに至るまで


召子を心配して声をかけたが返事はなく、日にちが過ぎるのみだった。


召子が引きこもるに至った理由は、間違いなく悪魔と戦ったからに他ならない。


ただ、アッシュの時とは違い勝ったことへの喜びよりも、勝ってしまった、相手の命を奪ってしまった事への後悔。


召子がクロノに最後の一撃を放つ瞬間に感じ取ってしまったクロノの死にたく無いと言う感情___


これから斬られる事への恐怖と言いかえてもいいだろう。


クロノの感情を受け止めきれなかった、流せなかった事による自責の念が、召子の身体を縛っていた。


フェンが心配そうに召子の頬を舐めて励ますが、どこか召子の目は遠いところを見つめるように虚ろで


フェンを撫でる手は機械的に動くのみで、そこに愛情は込められていない。


「クゥン…」


召子が苦しんでいるのにも関わらず、ただ寄り添う事しか出来ない


感受性の高いフェンもまた召子の負の感情に引き込まれるようになり、食べ物が喉を通らなくなっていた。


このままでは行けないと思いながらも、召喚されてしまった勇者の責務は本人が望んだものではなく


不規則に選ばれてしまったただの人間に過ぎない。


扉を軽く叩く音が聞こえる。

召子は返事をする事なく、部屋の隅でフェンに寄りかかるのみ


フェンは客が来た事を目線で召子に訴えるが、反応はほぼ無い。


「レルゲンだ。召子、話がある。開けてもいいか?」


扉の鍵は閉まっている。

今仮に開けようとしても、レルゲンは入ってこれずに諦めて帰るだろう。


そう思っていたが、扉の鍵が誰もいない内側から開けられ、レルゲンが部屋に入ってくる。


「レルゲンさん…どうして鍵を」


「閉まっている扉を開けるなんて、俺の魔術があれば簡単だろ?」


「確かにそうですね…それで、何か用ですか?」


「ああ、少し話をしようと思ってな。場所を変えてもいいか?」


「どうしてここじゃ駄目なんですか」


「召子の負の感情がこの部屋には充満しているから。フェンも君の感情に呑まれかかってるぞ」


レルゲンが召子を起こそうと近づくと、フェンが歯を立ててレルゲンに向かって激しく唸る。


それでもレルゲンは召子に手を差し出すと、フェンが(それ以上近づいたら噛み付くぞ)と言わんばかりに唸る声を大きくする。


それ以上手を無理に伸ばす事はなく、レルゲンは意思が込められた声でフェンを真っ直ぐに見つめて語りかける。


「お前が主人をを護ろうとしているのは分かった。


だけどな、それだけがお前の、召子の為の優しさとは限らないぞ。


お前なら気づいているはずだ。フェンリルよ」


レルゲンの言葉を聞いたフェンは耳が少し垂れ下がり、召子の側から離れる。


(私を置いていかないで…フェン君)


離れたフェンに向けて右手を僅かに伸ばしたが、すぐに床に手が力なく落ち、召子がレルゲンに向けて


「お好きになさって下さい」


と言い、レルゲンが念動魔術で窓を開けて、夕暮れに近い陽の光と共に外へと飛び出してゆく。


暫く飛んだ後に召子は気づいて辺りを見る。この進路の先にあるのは間違いなく


「メテオラに向かっているのですか?」


「そうだ。浮遊魔石を回収したからな。返しに行こうと思ったついでに、召子に見せたい景色があって」


返事はせずにメテオラに向けて更に飛んでいくレルゲンの表情を召子は見た。


(どうしてそんなに強くいられるの?私とそこまで歳だって変わらないのに…)


夕日から星空が徐々に覗き始め、雲の切れ目からメテオラが見えてくる。


レルゲンがサンライトを発動させて灯りをつけ、メテオラの管制塔に向けて合図を送ると、向こうも灯りをレルゲンに向けて返して合図を送ってくる。


「まずはこの魔石を返そう。召子との話はもう少し時間が経ってからに」


「分かりました」


メテオラに到着し、スカイの部屋に通される二人。まだ数日しか経っていないのにも関わらず再訪したレルゲン達を見て


スカイは一瞬からかうか迷ったが、すぐに二人の表情を見て諌める。


「よくお越し下さいました。本日はお二人だけのようですが、どんなご用件でしょうか?」


「地上の悪魔侵攻の話は既に聞いているだろう?


丁度中央に攻め込んできた悪魔がコレを使って兵器に利用していた。


運良く回収出来たから返そうと思ってな」


スカイは一瞬喜ぶ表情を見せたが、レルゲンが持っている浮遊魔石を確認して、表情が曇るように見える。


「どうしたんだ?これは浮遊魔石だろ?」


「はい、確かにコレは祠に祀られていた浮遊魔石です。


しかし祀られていた浮遊魔石は"二つ"あるのです。ですので…」


「悪魔側にまだもう一つ浮遊魔石があると言うことか」


スカイが頷くと、レルゲンは一言「分かった」と返し


それでも持ち主に返そうと尚も石を差し出したが、スカイは首を横に振り


「以前にレルゲンさんも仰っていましたが、現状の私達では、この魔石を悪魔から護る事ができる戦力がありません。


また悪魔がここに取りに来れば、忽ち奪われてしまうでしょう」


「ならこの魔石はどうするつもりなんだ?」


「悪魔の脅威が去るまでの間は、レルゲンさんにお預かりしていて欲しいのです。


悪魔に渡るくらいなら、武器に転用する為に加工して頂いても構いません」


「だが、それでは今まで君達が必死に護り続けていた気持ちを踏み躙ることにならないか?」


「確かに自分達で大切な物を管理できない不甲斐なさはあります。


ですが、この赤く光る貴重な石を人殺しに利用されるのはもっと我慢なりません」


スカイの、そしてこの空中都市の思いが詰まった浮遊魔石をレルゲンは大切に預かり


人助けの為に使う事を約束するのだった。

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