42話 迷い
周辺諸国に悪魔が出現したことにより、自力で退けた中央王国と
兼ねてより癒着状態にあったヨルダルクを除いた国々は壊滅的な被害を負っていた。
各国に調査隊として派遣している特別騎士が奮闘しているようだが、それでも多勢に無勢で戦況は芳しくない。
引き続き特別騎士に女王は迎撃するように命令を出したが、問題集団の寄せ集めなのは相変わらずで
命令に従う者もいれば我が身可愛さで非難をしている者も中にはいた。
しかし、距離が離れている為か特別騎士達からの返答はなく、女王はただ信じるしか方法がなかった。
直接的な中央への被害はレルゲン達が食い止めたため国民は大いに沸いたが
ナイトの転移事件からテクトのダンジョン侵略、そして悪魔の侵攻が短期間の内に度重なった影響からか、
すぐに王国民は普段の日常に戻っていった。
「騎士団とレルゲン隊の皆様、事は急を要します。今回の悪魔の襲撃は、言わば威力偵察と言えるでしょう。
どこから悪魔達が沸いて出て来たのか早急に調べ、こちらから打って出る必要があります。
その為、疲弊しているとは思いますが、すぐにレルゲン隊には悪魔の出現位置の特定の認を与えます。よろしいですね?」
女王がレルゲンに向けて新たな命令を出すと、すぐに騎士令を取って頭を垂れる。
「拝命致します」
女王がレルゲンの顔を見て、少し微笑むと普段の顔付きにすぐに戻り、騎士団の面々にも新たな命令を出すのだった。
個別に女王の私室に呼び出されたレルゲンとマリー、セレスティアは、敵戦力の詳細を伝えていた。
「お母様。敵は、敵ながらに教示を持って、誇りを持って戦っておりました。
私が戦ったナイルという者は、最後の瞬間に私に向けて感謝の意を伝えました。
私はこちらにいる騎士レルゲンに、戦う際の心の持ち様を教わり、それが戦場で大きく意味を持つ事を知りました。
極悪非道の限りを尽くすだけの集団と思い対処すると、足元を掬われかねないと、今回の戦いで実感いたしました」
「そうですか、悪魔なりの矜持というものがあるのは驚きです。
しかし、敵を知れば知るほどまた己の刃が鈍ってしまうのも道理です。
母としては貴女に護るもの以上の物は背負って欲しくありません」
「分かっています。あくまでもこの感情は敵を賞賛し、警戒するためのもの。刃が鈍る事はありません」
「分かりました。その表情を見るに貴方も何か思うところがあるようですね。騎士レルゲン」
「はい。私が戦ったパロライトという側近は忠義高く、またマリーの敵と同様に誇りを持っておりました。
最後は主君を庇い、重傷を負った隙に最後の一撃を入れる事に成功しましたが
そのままでは周囲を巻き込みながら被害が大きくなっていた事は間違いないと考えております」
「でも国の女王よ、レル君はそれでも頑張っていたわ。心の休憩だって必要よ、少し休みを上げて欲しいな?」
胸のポケットから勝手に出て来たウルカを急いでしまって、女王に向けて謝罪を入れる。
「申し訳ございません。彼女は私達とは違い精霊でございますので、失言としてどうかご容赦ください」
「ウルカ様が仰る通り、貴方達はまだまだ若く、休息が必要なのも理解しています。
心の戦いなのは理解しましたが、それでも相手のことまで思いながら戦っていては、いずれ耐えきれなくなってしまいます。
しかし、無理をさせてまで貴方達に国を護ってもらわなければならない事もまた事実。
今は悪魔や魔王をどうにかしなければ、今まで護ってきた物が無駄になってしまいます。
それだけは避けねばなりません。
多少の無理を通してでも自分達で平和を取り戻さなければ、我々に明日は無いのです。
ウルカ様、ご理解の程、よろしくお願いします」
再びポケットから上半身だけ出したウルカが少し不満そうな表情をしながらも
「私はずっとレル君の中で見てきたから、レル君が頑張って護ってきたものが無くなってしまうのは我慢できない。
分かったわ。今回は私が出血大サービスでレル君に力を沢山貸して上げる。
それでレル君が少しでも助かるなら」
レルゲンがウルカの頭を軽く撫でてお礼を言うと、嬉しそうに目を閉じて笑顔になる。
満足したウルカは胸のポケットの中へ戻った。
普段から戦い慣れていたからこその立ち直りの早さがレルゲン達にはあったが
戦いに慣れていないながらも〈スキル〉とレベルによってどんどんと強くなってしまい、中々一人だけでは立ち直れずに迷ってしまう少女がいた。
「フェン君、私、どうしたらいいと思う?」
フェンの頭を撫でながら、召子は頭を預けて横になっていた。