41話 パロライト②
即座にパロライトがレルゲンに再度近づこうとするが、パロライトは地面が急に上昇を始めて上空に投げ出される。
上昇でかかる重量に抗って、更に空中に飛ぶことで勢いを殺す。
しかし、レルゲンは次の一手を既に準備していた。
ウルカと共に繰り出したブルーフレイム・アローズは
百本近くの数となってパロライトの逃げ場を封じつつ繰り出される。
回避は不可能と判断したパロライトは、即座に防御の体制を取って大量に迫る火の上位魔術をその身に受ける。
魔力を高めて両腕に込めた腕を勢いよく広げて、まだ到達していないブルーフレイム・アローズを纏めて破壊する。
しかし、発射地点にレルゲンの姿はない。
(魔力を悟られないように極限まで抑えているのか…!)
魔力による感知は、今のレルゲンを捉えるのに時間が掛かりすぎると判断したパロライトは
目視による索敵に頼らざるを得なかった。
パロライトが周囲を見渡してレルゲンを探すが、発見には至らない。
しかし、接近によって微かに感じた殺気をパロライトは感じ取り、状態を大きく反らす。
音もなく白銀の剣に持ち替えて、魔力を使わない光の熱で出来た一撃が、パロライトの肩口から侵入して抜けていく。
(これも熱による再生阻害か)
両断された腕を再生するためには、傷口が一定の温度まで下がらなければ再生ができない。
しかし、パロライトは傷口より更に上部の体組織をもう片腕で引きちぎり、熱せられた部分を捨てる。
するとすぐに新しい腕が戻り、感触を確かめるように握って開く。
この痛みを伴う回復方法は予期していなかったのか、レルゲンは目を大きく開いていたが
すぐに再生阻害による蓄積攻撃を頭から排除して切り替えた。
「随分と無茶するな」
「お前と戦うのに片腕では結果が見えているからな」
再び仕切り直しとなり、お互いが見合うが先に動いたのはレルゲンだった。
黒龍の剣に再度持ち替えて、両手で思い切り斬りかかる。
渾身の一撃をパロライトは完璧に受けて見せたが、レルゲンは黒龍の剣に右手を添えて
全魔力解放による光線攻撃をゼロ距離で放つ。
真紅の光線に飲み込まれたパロライトは、腹に大きく切り傷が刻まれ、黒い鮮血が滴り落ちている。
「本当に技の引き出しが多いな、レルゲン」
「それでもまだ再生するんだろう?一気に行かせてもらう」
再び出来た距離をレルゲンが詰めようとするが、パロライトは黒い魔力を剣に込めて言い放つ。
「お前のそれは、俺達悪魔の放つ攻撃に似ている」
「悪魔と似ているだと?そんなものと一緒にされたくはないな」
パロライトが遠距離から剣に込められた、黒い斬撃を放つ。
凄まじい速度で放たれた一撃は、瞬時にレルゲンが反射で出した光線攻撃と瓜二つ。
「今のを相殺するか」
「馬鹿言え。当たってるぞ」
レルゲンの右腕から血がゆっくりと流れ落ちてゆく。
この戦いで初めての負傷にレルゲンが表情を少しだけ歪ませるが
セレスティアにレウロを任せているため、回復魔術を頼むことはしない。
「人間とは脆い生き物だな。悪魔であればそんなもの、傷にすらならないぞ」
「そうだな、確かにお前の言うことは正しい。だが、自分の傷に疎くなるんじゃ無いか?
今のお前のように」
レルゲンがパロライトに向けて指を刺すと、腹に穴が空いている事に気づいていなかったのか、確認した後にすぐに再生する。
セレスティアはレウロと相対して魔術戦を繰り広げていたが
レウロの魔術には工夫が施される事はなく、ただヤケクソ気味に上位魔術を連続で繰り出すのみ。
最初こそ魔術戦に付き合っていたセレスティアだが、次第にこれ以上はない事を確認すると
ディスペルによる魔術発動の阻止を入れる。
最初こそ複合魔術を繰り出していたレウロだったが、レルゲンに心を乱されて混乱し
単発の魔術だけに固執する姿を見たセレスティアは、少し悲しい気持ちになった。
(高位の魔術師には変わりないでしょうが、貴方は心が未熟すぎる)
ディスペルによって完全に魔術が封じられたレウロは完全に戦意を喪失し、呆然とその場に立ち尽くしていた。
「殺すなら殺せ、私はもう…」
セレスティアが最後の介錯をするべく巨大なフロストジャベリンを一本だけ生成し、レウロに向かわせる。
正確にレウロの心臓付近に放たれたフロストジャベリンは
レウロを咄嗟に庇ったパロライトの胸を貫いてゆき、そして途中で止まる。
貫通していれば再生も出来ただろう。
しかし、最低限の一撃を繰り出したセレスティアの魔術は、途中で停止することで逆に継続的にパロライトを苦しめた。
「レウロ様…ご無事でしたか」
パロライトは巨大な氷の槍を引き抜こうとしたが、レルゲンが念動魔術で固定する事でそれを許さない。
「パロライト…」
レウロが忠実な臣下の名を読んで、自らの行動を恥じたが
立ち直るよりも早くレルゲンはウルカの魔力を借りた第二段階の全魔力解放で一撃を放つ。
碧い光線はパロライトとレウロ共々巻き込み、大出力の攻撃は二人の再生行動を許す事なく塵へと変えた。
その時のレルゲンの表情は、呆気なく終わってしまったパロライトとの戦いを惜しむように、ただ空中に立つのみだった。
ゆっくりと地面に降りて来たレルゲンにセレスティアが回復魔術をかけて労ってくれたが
どこかレルゲンの表情は曇ったままだった。
「お疲れ様でした。やはり私と戦った指揮官よりも側近の方が強かったですね。レルゲンの判断は正しいものでしたよ」
「そうだな。奴は、パロライトは強かった___単純な戦闘力もそうだが、どちらかと言うと心がどこか俺達人間に近かったと思ったよ」
「そうですか…それでも貴方はしっかりと、またこの国を護ってくれました。
そんな顔では、戦に負けたと思われてしまいますよ?」
レルゲンは気持ちを切り替えるために大きく息を吐き出し
「戻ろう。俺達の国へ」
「はい」
近くにはそれぞれ悪魔を撃破したマリーと召子がいたが、どうやら二人も思うことがあるようで、表情はレルゲンに近いものがあった。
二人の顔を見たセレスティアは、軽く肩を叩いてフェンを撫でる。
「二人共、本当にお疲れ様でした。フェン君も」
「ワン!」
騎士団はレルゲン達が戦っている間に残りの魔物を全て片付け終わり、複数の悪魔を退けた戦果に盛り上がっていた。
「俺達の勝利だ!」
「おお!俺達はやれるぞ!」
戦場から帰還するレルゲン達は、騎士団の面々から賞賛を初めて多く受けたが
喜びの感情が湧く事はなかった。