36話 悪魔との戦い
「どうしましたか?」
女王が焦っている影を宥めると、一度深呼吸をしてから報告を始める。
「各国の地脈と思われる地点から魔物とそれを指揮する悪魔と思われる群勢が多数出現。
ここ中央王国のすぐ近くからも同様の動きがあります」
女王は驚き、唇を少し噛む。
「遂に来ましたか。早急に騎士団を再編成し、出撃の準備をするように騎士団長ハクロウヘ伝達を。
事態は深刻です。
騎士レルゲンの少数部隊による偵察を実施し、正確な敵の規模を確認する事を急いで下さい」
「承知致しました」
すぐに影移動で地面に溶けるように消えていき、レルゲン達の下へと向かった。
「分かった。すぐに準備する」
レルゲンは、マリーとセレスティア、召子とフェンと共に報告のあった座標へ
念動魔術による飛翔で向かうと、セレスティアの魔力感知に多数の魔力が引っかかる。
「確かに間違いありません。
かなりの数の魔物と、一際強い魔力を持った悪魔がいます」
「数は?」
「魔物がおよそ数千、悪魔は五体です」
「魔物は何とでもなりそうだが、悪魔は五体か。少し多いな」
レルゲンが考えていると、マリーが提案する。
「こっちも分ければいいんじゃない?
セレス姉様は後衛だからレルゲンと組むとして、私、召子とフェンなら問題ないと思うわ」
「よし、分かった。そしたらまずは黒龍の剣でご挨拶してから女王陛下に報告しよう」
「ウルカにも手伝ってもらうの?」
「いや、挨拶だけなら必要ない。
来るべく時が来たらウルカにも頼む予定だ。頼んだぞ」
「レル君のお呼びとあれば即参上!いつでも呼んでいいからね」
レルゲンが頷き、黒龍の剣に魔力を全開で乗せると刀身が赤く光り伸びてゆく。
伸び切る前に念動魔術で光を全て刀身に宿るように調整し、右足を後ろの地面に突き刺して身体を固定。
横に構えられた黒龍の剣を一気に薙ぎ払うと、
数百メートル進んだところで斬撃が止まって消える。
一度に今いる魔物の大多数を屠ることで、悪魔達が一斉に臨戦体勢に入るが
これを確認するとレルゲン達はセレスティアの隠蔽魔術でその場を後にして、女王へ報告に。
一旦の侵攻を止めた事で騎士団の編成時間を稼ぎ、再び悪魔達の元へ向かっていた。
「アッシュはいたか?」
「いえ、別種の悪魔かと思われます」
「分かった。相手の出方が分からない以上、マリー、召子は無理に倒さなくてもいい。
俺がいくまでの間、足止めを頼みたい」
マリーはやる気満々のようで
「倒せそうなら倒すわよ」
「ああ、それで構わない」
「フェン君、頑張ろ!」
「ヴァフ!」
レルゲン達はそれぞれ分かれて悪魔の元へ向かう。まずは前衛に位置取りしていた悪魔の元へ
「やってくれるじゃねぇか。ガキ」
「なんだ、さっきの喰らってまだピンピンしてるじゃないか」
「当たり前だ。あれでくたばってたまるか」
レルゲンは黒龍の剣を浮遊剣にし、炎剣に持ち替える。
まずは炎剣一本で様子見をするべく悪魔へ肉薄して斬りかかるが、これを易々と弾く。
「流石に硬いな!」
「この程度で俺を討とうなんざ、いくらやっても無駄だ」
「そうだな。ならこれならどうだ?」
炎剣に魔力が乗せられていき、一層赤く明滅する様は、
まだ朱雀が息づいているかのような感覚さえ覚える。
「何だそれは」
「これでまた受けてみるか?」
「チッ」
今度は弾く事なくレルゲンの剣をギリギリで交わしながらカウンターを狙って距離を詰めてこようとする。
(近距離攻撃が奴の戦い方か)
ここで一度距離を取り、即座にレルゲンが炎剣が発する熱を浮遊剣にしていた
白銀の剣に擦る様に熱を吸収させる。
「どんどんいくぞ」
白銀の剣が熱を吸収し終えると、中距離から熱の塊をレルゲンの魔力と混ぜ合わせ、念動魔術によって光弾を形成して撃ち込まれる。
「こんなもの…!」
そう言って悪魔はレルゲンの放った光弾を手で思い切り弾いたが
手から煙が上がっており、熱による攻撃と悪魔が気づくのにはまだ時間がかかっていた。
この戦いをどこがで見ていた悪魔の上官は、今の映像を見て眉をひそめたが
次々と技を披露するレルゲンに敵ながら素直に尊敬の念を抱いていた。
「これ程までの技の引き出しの多さ。敵ながら天晴れよな」
連続した光弾が悪魔を次々に焼いてゆく。
悪魔は都度回復はしているが、追加の火傷は治りが遅く、レルゲン相手に苦戦していた。
「くそ…!」
一旦撤退して体制を立て直そうと飛び上がると、レルゲンがセレスを呼び、雷の上位魔術で悪魔の足止めを図る。
「ライトニング」
紫色の雷光が飛び上がった悪魔に当たり、地面に落ちてくる。
「オオォォォ!」
レルゲンが気合いと共に炎剣に魔力を通し、熱せられた一撃が悪魔を縦に両断すると
魔族の消滅と同様に細かい粒となって悪魔が消えてゆく。
ここまでの手数を披露してようやく一体の討伐を完了したが
すぐにもう一体の方へ向かい、討伐せんと念動魔術で空を駆けてゆく。