34話 自由行動②
カノンとディシア、フェンは中央浮島の地下にある浮遊魔石の見学ツアーに参加していた。
やはり超貴重な魔石とだけあって、研究者魂に火がついた二人はフェンを置いていきそうな勢いで、どんどんと進んでいってしまう。
召子にお願いされていたフェンは置いていかれないように二人の後をついていく。
実際に赤い浮遊魔石を触る事は出来ないのだが、洞窟の入り口付近にあるお土産店では
浮遊魔石に見立てた赤い石のペンダントやブローチが販売されており、ふざけた二人が帰りに
「こ、これは流通の禁止されている浮遊魔石!」
「なんと?!」
と店前で軽い漫才をしていると、店主が面白そうに笑っていた。
一通り歴史的な建造物や、赤い浮遊魔石を堪能した二人は近くのベンチに腰掛けて、休憩していた。
「我ら研究者組は現地調査になるといつも体力不足が顕著に現れるね」
「何度か身体を鍛えようとしますが、結局理由を付けて辞めてしまうのが世の常ですね」
二人と一匹は辺り一面に広がる雲海を見下ろして
「平和だ」
「平和ですね」
と飲み物を口に運ぶ作業を繰り返していた。
暫く無言で日向ぼっこをしていると再度口を開いたのはカノンだった。
「時にディシア君、レルゲン助手のことは実際の所どう思っているのかね?」
危うく飲み物を吹き出しそうになるが、寸前で堪えて一息で飲み干す。
「素敵な方だと思いますよ」
「ふむ、なら言い方を変えよう。"三人目"の妻になりたいと、考えた事はあるかい?」
ディシアが驚いた表情をするが、下を向いて
「考えた事がないと言えば嘘になります。
しかし、あの眩しい二人に割って入れるほど、私は神経が太くありませんよ。知っているでしょう?
ヨルダルクでは一夫一妻制の文化が根付いています。
そこで育った私の価値観もまた、同じように染まっているのですよ」
カノンは少し笑いながら「本当にそれは君の価値観なのかい?」と問うが
瞳を閉じて、感情を悟られないように
「ええ」
とだけディシアが返すと、カノンもそれ以上は追求せずにフェンを撫でるのだった。
ミリィと召子はとにかく美味しいもの巡りに躍起になっていた。
「ミリィちゃん!次はあそこの屋台に行ってみよう!」
「お供します!」
両手には既に沢山の食べ物があるが、一瞬で食べ終えて次の屋台巡りに繰り出した。
「美味しーい!」
幸せそうな表情を浮かべる二人を見て、店主がいくつかオマケをしてくれるくらいには幸せオーラが可視化されているかのような空間が出来ていた。
こちらも半日以上かけてお店をコンプリートしそうな勢いで、後半戦に向けて一度休憩を挟んでいた。
「空中都市、ちょっとお高いけど美味しいものがいっぱいあるね!」
「はい!お誘い頂いてありがとうございます。召子さん!」
「いいのいいの。私もミリィちゃんとお話ししてみたかったし。
私がこっちにくる前に、レルゲンさん達と知り合ったんだよね?」
「そうです。私がレルゲンさんと初めて出会ったのは高難易度のダンジョンでした。
まだまだひよっこの私の長所を見つけてくれて、一緒にボス攻略して、そして私の命を救ってくれて…レルゲンさん達には本当に感謝しているんです」
「まるで絵本に出てくるような王子様みたいだね」
「えへへ、そうなんです。王子様なんですけど、でも王子様にはもう綺麗な人がいて、私にはとてもとてもって感じなんですよ。
かっこよくて大好きな気持ちはあるのですが、この気持ちが尊敬なのか
はたまた恋愛的な何かなのはまだ分からないんです」
「うんうん。私もこの剣に操られている時に助けてもらったけど、覚えてなくて。
感謝しているのは間違いないんだけど、恋愛とはまた別っていうか
まだ私も子供っぽいところあるからこの気持ちの正体がよく分かってないんだよね」
「お互いに素敵な人がまた見つかるといいですね」
「そうだね。最初の人が強烈すぎてコレを超える何かがあるといいね」
二人のレルゲンに対する感情は親愛なのか、恋愛なのかは本人すらよく分かってないようだが
これ以上の出会いとなるにはどんな出来事が二人の心を動かすのだろうか。
それは本人達でも分からないだろう。