33話 陽の出と自由行動①
「君達はご来光のスポットを探しているんだって?」
「ああ、あまり人がいないところを探している」
劇団の一人がレルゲンに「それなら」ということで教えてくれた場所に念動魔術で飛んで向かう。
「おすすめは三の島だな、一番遠いが、一番標高が高くて人も少ない。雲海から見える陽の出は素晴らしいはずだ」
「ありがとう」
下界の陽の出より一時間以上も早い時刻にレルゲン達は起きていたので、まだ眠そうにしているのはミリィとウルカだった。
「レル君、私はもう少し寝てるね」
と残し、ウルカは胸のポケットに戻っていく。
いざ三の島に到着すると、空が徐々に光を取り戻してゆき、雲海から太陽の一部が見え始めてくる。
「わぁ!」
優しいオレンジの光が全員の目に飛び込んで、眩しさに目を細めるが、すぐに慣れる。
ただ繰り返される一日が、こんなにも感動的に見えるのは何故だろうか。
何度も見ているはずの朝日が、こんなにも違って見えるのは何故だろうか。
詳しい理由が分かるわけではないが、朝日を眺めている内の何人かは、涙を流している者もいた。
「綺麗ね」
マリーが短いが、感情のこもった声色と共に陽の出を眺めている。
「ここに来られてよかったな」
レルゲンもこの綺麗な光景を目を焼き付けており、陽が登り切った後も暫く眺め続けていた。
これ以上の言葉はいらない。
無理に感想を口に出すこともない。
各々が感じたこの気持ちは、決して色褪せる事はなく胸の中に生き続けるだろう。
陽の出を見た後の一向は、一度宿屋に戻り軽く朝食を済ませ、今日一日は自由行動にする事となった。
三つのグループに分かれて、各々の観光を楽しむことになった。
「どこに行く?」
メテオラの観光雑誌を広げて、マリーがレルゲンとセレスティアに向けて尋ねると
二の島に温泉があるようで、レルゲン達はそこに行くことに決定した。
他にも浮遊魔石の観光や、雲海に見立てた甘い菓子が売っている出店など、多岐にわたる観光スポットに分かれて楽しむ事となった。
レルゲン達とは別行動を取るメンバーは、一応の護衛として召子とフェンが別行動となり、
不足の事態に備えるように分かれている。
「夕方頃にまた宿屋で会おう、それじゃあ、解散!」
レルゲン達は念動魔術で一気に二の島の温泉街まで飛んでいく。
中に入るとどうやら温泉以外にも食事を摂ったり、マッサージのサービスがあったりと複合的な施設のようだ。
まだ朝の早い時刻だからか、それほど人はおらず、ゆっくり温泉を楽しむことができた。
ここは雲海の景色がよく見える露天風呂のような作りになっており、マリーとセレスティアははしゃいでいた。
レルゲンはというと男女別々の風呂だったので、近くにいる常連のお年寄りと少し仲良くなり、色々と話しながら長湯を楽しんだ。
「お待たせ」
レルゲンが服を着替えて出てくると、マリーとセレスティアが既に待っており、そのまま牛乳が販売している売店へ直行する。
三人で一気に飲み干すと、熱った身体に冷たい液体が染み渡り、清々しい気分になる。
それからというもの、レルゲンとマリーはお昼までベンチで昼寝をして
セレスティアはマッサージを受けてお昼までを過ごし、施設を満喫していた。
お昼ご飯を食べて施設を出て、大きく伸びをするレルゲン達は少し早いがまだまだ時間はあるので
早めに宿屋に戻って今日は終わりにする事に。
宿屋に戻ってくるとやはりまだ誰もいない。
他が帰ってくるまでは夫婦水入らずの時間を過ごして楽しんだ。