32話 念動魔術による演目
「お待たせ致しました。続いては、当劇団の新人二人組による、ジャグリングになります!」
仮面を被ったタキシード姿のレルゲンと、黒いドレスを身に纏い、こちらも仮面を被って登場するマリー。
二人の周りには十本ずつのピンが念動魔術によって宙に浮いており、全く原理の分からない観客が沸き立つ。
まずは空中に浮かせているピンを二本、レルゲンとマリーで手にして、交換するようにジャグリングを披露する。
それから一本、また一本と増やしてゆき、二人の距離も少しずつ離れてゆく。
合計二十本に達した所で、マリーがピンから手を全て離すと
マリーがまるでピンを持っている錯覚に陥るようにレルゲンの念動魔術が操作していくと
ここでまた拍手が沸き起こる。
流石に念動魔術の存在を知っているセレスティア達は気づいたが、観客は大いに盛り上がっていた。
セレスティアに至ってはもう我慢できないと笑い、召子やディシアは興味深そうに見つめている。
次にレルゲンとマリーはトランプを懐から取り出して、空中で綺麗に静止させる。
そして、徐々にレルゲンとマリーも空中へ浮いてゆき、トランプでババ抜きをし始める。
揃ったカードが観客席に順番に配られてゆき、カードに細工がされていないことをアピールすると
観客達は立ち上がって拍手を行っていた。
空中から降りたレルゲンとマリーは二人共揃って頭を下げて、演目を終了した。
レルゲン達が引いてからもしばらくの間は拍手が続き
最終演目が盛り上がりに欠けてしまったのは支配人の誤算だった。
しかし、大いに楽しんでくれていた客の表情を見たら
そんな瑣末な事はどうでも良いとばかりにレルゲンとマリーを抱きしめて、感謝の意を伝えるのだった。
着替えを済ませて裏口からレルゲンとマリーが出てくると、そこにはセレスティア達全員が待っており
二人は恥ずかしそうに見合ったのだった。
その日の夜は劇団の演目でレルゲンが見せた念動魔術はどうやるのかの話で持ちきりで
魔術が使えない召子は多少落ち込んでいたのをカノンが慰めていた。
「おお、可哀想な召子よ。私が慰めて上げよう」
演技っぽくカノンが召子の頭を撫でると、それに乗っかった召子が嘘泣きでわんわん泣いており
カノンがこれで気をよくしたのか、更にしばらくの間劇団の真似が続いたのだった。
「今日はお疲れでしょうから、星を眺めるのはまた明日にしましょう」
セレスティアがレルゲンに飲み物を注いで上げると、短くお礼をいい
「そうだな、今日は皆んな早く寝て、明日のご来光を見に行こう。
ここは標高が高いから、多分陽の出もその分早いはずだし」
「賛成!」
レルゲンはマリーの肩に手を置いて、随分と念動魔術が板についてきてたと素直に感心していた。
「それにしてもあの演目、半分以上は即興でやったのによく付いてこられたな」
「やっぱりお客さんには楽しんで欲しかったから、笑顔とか仕草作る方が大変だったわ」
「なるほどな、もっと難しい制御をお望みだったか」
「意外ともう少しはいけそうだったわね。
そういえばあの後レルゲンが劇団の支配人に凄く気に入られて
実際に入ってくれないか!ってかなり強めに誘われてたわよね」
「ああ、あの目は本気だったな」
全員が笑いながら、夕食で出された料理を食べ、美味しい飲み物を飲み
また話してを繰り返して、結局寝たのは深夜になってしまっていた。
「じゃあ、おやすみ」
人数が多いので部屋を幾つか分けてはいたが、朝、夜明け前にレルゲンが目を覚ますと
ほぼ全員が同じ部屋に雑魚寝をしていた。
レルゲンは少し笑って、全員分のご来光出発の準備を済ませる。